表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/143

物事は是々非々で論じるべき、かもしれない

 少々(こじ)れている節もあり、生粋(きっすい)の日本人気質を発動させて黙り込んだまま傍観していると、恐らくは隣国の要人という立場のせいで皆に注視されてしまう。


 寄り添うレヴィアに横腹を小突かれつつ、言及すべき事柄を考えあぐねていたら、顔合わせの際にクルトと名乗った将校がエルベアトに対して口火(くちび)を切った。


喫緊(きっきん)の最優先事項を確認したい、次期リグシア侯爵のセドリック様が乗る馬車を襲撃して、身柄を拉致した賊は貴様らか?」


「断じて(いな)だ。身の潔白に口添(くちぞ)えしてくれませんか、騎士王殿?」

「と、言われてもな」


 困り顔で(すが)ってきた相手の父親が皇統派を離反して同輩になった事や、ジグラント領の城塞都市に援軍を派遣した事は盟友の御令嬢から聞き(およ)んでいるが、密かに工作活動をしていたのは擁護できない。


 膝元の中核都市で好き勝手にされたリグシアの軍人が嫌疑を抱くのは自然な流れであり、その厳しい眼差(まなざ)しは俺達にも向けられている。


「失礼ながら、この者と貴殿らは既知(きち)のように見えます。どういった関係なのか明確に答えて頂きたい、ライゼス卿」


「知らんよ、音楽祭でクロード王が会ったと小耳に挟んでいる程度だ」


 素っ気なく答えた御仁は壁外の野営地に留まった居残り組であり、演奏会場まで帯同したのはイザナと近衛兵達を除けば騎士団長の父娘くらいなので、実情を知る者はこの場にいない。


 従って再度の耳目(じもく)が集まり、此方(こちら)の言葉を待つ形となった。


「… 彼は以前に帝都の情勢を教えてくれたヘイゼン卿の身内、エルベアト殿だ」


「皆様、改めて宜しく願います。そういう訳で賊呼ばわりとか、無礼(きわ)まりない接し方は止めてくれると嬉しいな、将校殿」


 元皇統派らしく血筋重視の言動で牽制を入れた貴族家の次男坊は(はばか)ることなく、リグシア侯爵家の悪評を市井(しせい)にばら()いていた案件の釈明など始める。


 滔々(とうとう)と語られたのは帝国の将来を見据えた皇統派の切り崩しに加え、ゼファルス辺境伯ニーナ・ヴァレルの一派を主流に押し上げて、帝国西域の防衛戦力を増強させるという趣旨の内容だ。


「新参(ゆえ)に女狐殿への手土産はあった方が無難だし、家族や財産を失った民衆は()()れない気持ちの捌け口が得られます。領軍の旅団長殿も陞爵(しょうしゃく)して領地を得れば、(かばね)に爵位を(あて)がうしかない下級貴族から脱却できるかと……」


「それに最前線の護りが強固になると中西部のアルマイン領も安泰だな」

「えぇ、リヒティア公国を盾代わりにしている騎士国と一緒ですよ」


 定期的に浸透してくる異形の群れを迎え撃つだけなら良いが、領地を主戦場にしたくないのは自明であり、いちいち指摘するなと(そで)にされるも… ()かさず、赤毛の魔導士娘が反駁(はんばく)を試みる。


「こっちは都度(つど)の援軍とか、協力を惜しんでないから違うと思うけど?」

「内々の横槍が入らない()()だからでしょう。(まと)まっていて羨ましい限りです」


 確かにうちの “おっさん三銃士” は一枚岩であり、安定した環境で自由にやらせて貰っているため、皮肉混じりの物言いも的外(まとはず)れではない。


 (なお)も言い(つの)るレヴィアの肩越しに廻した掌で口元を塞ぎ、強引に黙らせようとしたら、腹いせに人差し指を激しく甘噛みされた。


「…… 天然と言うか、何と言うか、毒気を抜かれますね」

「あぁ、得難(えがた)い存在だから重宝している」


 偶に思い悩んでいる時など、(ほど)よく絡んできて、視野狭窄の一歩手前から引っ張り上げてくれる事には感謝しかない。


 そう(てら)わずに伝えると()()()()()()が止まり、今度は(ほの)かに頬を染めるも、話が進まないので構わず爵位継承に(かか)る意見をリグシアの将校に問う。


「現侯爵家の凋落(ちょうらく)と引き換えに政情の変化を(うなが)して、女狐殿の派閥主導で西部戦線を盤石にする皮算用、遺憾なく受容できるのか?」


「我らも市街戦では多大な犠牲を出しました。亡き侯爵閣下の失策に不満を持つ将兵や領民も少なくありませんし、旅団長を務めるラムゼイ男爵が次期領主に相応しいと考えています」


 だだ、“故人に捧げた忠義は(まが)い物ではない” と前置きして、引き続きの捜索協力を求めてくる。


 この手の礼節を重んじた言動は騎士国の者達に刺さるため、(しき)りにライゼスが頷いており、皆も似たような反応を見せることは想像に容易(たやす)い。


「一応、此方(こちら)も報酬に見合う範囲内で、期待に応えるが… 領都半壊、全騎体喪失の状態で領主選定を引き延ばすのは難しいな、猶予は余りなさそうだ」


「分かっていますよ、騎士王殿。仮に皇帝陛下の勅免(ちょくめん)が降りたなら、男爵も(いな)やはないでしょう。逆らうと不敬罪ですからね」


 帝国の歴史を辿れば暴君の治世もある事実から、自身の首を()っ切る真似などして、若い将校が発言を締め(くく)った。


 その真偽はさておき、捕まえた連中の扱いが決まってないので、二人(そろ)って視線を転じると先にエルベアトが話を切り出す。


「独断で動いたのは申し訳ない。以後、領軍に協力して償おう」

「…… 貴様の目論見(もくろみ)を聞いたばかりなのに、どうやって信用しろと?」


「別件に関しての事だよ。資金や復興用の資材とか、十分に足りてないのだろう」


 つまり、自己都合で誘拐事件の解決には寄与しなくとも、河川貿易で各地から人材、資材、資金が集まるアルマイン領の強みを活かして、内輪揉めと異形襲来で散々な状況のリグシア領を経済的に援助する腹案のようだ。


 迂闊(うかつ)に飛び付けば借りを作ってしまうため、逡巡した将校は即答できないと次男坊に()げ、護衛の女騎士と領軍本営まで出向くように打診する。


 渋るかと思いきや、あっさりと承諾された事で解散となり、十数分も()たずに荒れ果てた商館は無人となった。

謀略絡みの事は書くのが難しいですね(;'∀')

上手く物語が伝われば良いのですけど……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お主も悪のぅがいいですね。 信長暗殺は側近全員が真っ黒なんだそうです(笑) [気になる点] どうせみんな黒くなる…黒クロードとかですね [一言] 更新お疲れ様です 陰謀は難しいですね、分…
[一言] あ~あ侯爵家、切り捨てられた。
[一言] 近くで見たら角が残ってても 離れて見たら丸く見えるならそれで良しってことで あとは転がしてるうちに角が取れてくれればと期待して
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ