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果断な粗忽者達と戦場の華

「抜けよ、エルベアト殿。此処(ここ)を逃したら切り結ぶ機会は無さそうだし、勇敢な淑女(レディ)の背に庇われていた “だけ” とか、武芸を(たしな)む者として論外だろう?」


「私のような弱卒を露骨に挑発されても困りますが… 技量の問題では無いのでしょうね。薄々感じていたものの、騎士王殿とは()りが合わないかもしれません」


 少し前に(おもむ)いた中核都市レイダスの音楽祭で、中立派の知己(ちき)に紹介された事があるアルマイン侯爵の次男坊は大袈裟に溜息を吐き、軍刀の柄に伸ばした手を掴む寸前で止めて、僅かに逡巡してから両手を上げる。


 会話の合間に気絶させた連中が見渡せる位置まで足を運び、出方を見ていた俺は残念な心持ちを抑えて、左甲段(こうだん)に構えている呪錬刀 “不知火” の切っ先を下げた。


 その状態で互いに数秒ほど視線を交差させていると、物音が途絶えた事で完全に壊れた窓の外より、風魔法に起因する気流を()りながらレヴィアも二階の部屋に入ってくる。


「ん、制圧は… 問題無さそうだね、怪我とかしてない?」

「あぁ、大丈夫だ、一撃も貰ってないさ」


 小首を傾げて心配そうに尋ねてきた赤毛の魔導士娘に応え、無遠慮に触診してくるのを好きにさせていれば、胡乱(うろん)な表情を浮かべていたエルベアトが苦笑して、徐々に脱力していった。


 取り敢えず、倒された麾下(きか)の介抱をさせてくれと言うので頷き、今しがた意識を取り戻して一矢報いるため、()()()()を決め込んでいた女騎士が抱き寄せられる様子など(うかが)う。


「すまない、無理をさせてしまった……」

「うぅ…っ」


 どうやら、(まぶた)を開いて声に応えるタイミングを(いっ)した妙齢の女性が身動(みじろ)ぎ、覚醒に備えた前振りを演出するが、折悪(おりわる)く後方の扉が開いて皆の注意も()れてしまう。

 

 廊下側より姿を現したのは風属性が使える魔導士らの支援を受け、同時期に商館二階へ突入した銀髪碧眼の騎士ロイドとディノであり、除装させたと思しき乱破(らっぱ)(たぐい)を連行する準騎士達も垣間見えた。


「事前の打ち合わせ通り、何処(どこ)の手勢か判然としないから、仕留めずに無力化して角部屋に集めているけど……」


「やはり首謀者は顔見知りなのか、クロード王?」

「劇場の演奏会で一度会ったくらいだがな」


 あの時はイザナも同伴していたので、頭の片隅に黒髪清楚な少女の微笑を過らせつつも、尋ねてきた藍髪の騎士に頼んで手隙(てすき)の者を呼び入れ、まだ目覚める予兆がない伏した乱破二名も担ぎ出してもらう。


 その流れに乗じて、ちゃっかりと身を起した女騎士が赤く腫れた左頬など(さす)り、恨みがましいジト目で睨み付けてきた。


「見習うべき容赦のなさだね、僕だと軽々(けいけい)淑女(レディ)の顔面は殴れない」

「…… 確かに武器を(たずさ)えて対峙する以上、くだらない思慮は(ただ)の慢心か」


「はぅ、ロイドさん、ちっとも褒め言葉になってないよぅ。ディノも素直に納得したら駄目ッ、女の子は優しく扱わないとリーゼさんに嫌われるんだからね」


 何やら平時(へいじ)の倫理観を持ち出したレヴィアに “抜き差しならぬ戦闘中は別だろう” と胸裏で呟きながら、肩を(すく)めたエルベアトの面前で、俺も含んだ粗忽者(そこつもの)の三人が叱責されていれば…… 商館一階の指揮を任せた主副団長の内、神経質な方の御仁が部屋に踏み込んでくる。


 無言の圧力で若かりし軍学校時代より縁のある親友の一人娘を黙らせて、やや緩んでいた空気を引き締めた。


「階下の掌握(しょうあく)を済ませて報告に来てみたら、存外(ぞんがい)余裕があるようだな」


「私から指摘するのは変な話ですが、市街地の治安が宜しくないために為政者側は他勢力の狼藉を黙認できません。騒ぎを聞き付けた警邏(けいら)の分隊が現着して、仮に本営まで伝わると厄介ですよ」


 さりげなく貴族の次男坊が()(はさ)み、暗に場所替えを提案してくるも、ライゼスの背後に控えていた若い将校が首振りで否定する。


 帝国式軍服を着込んだ彼の襟元(えりもと)にあるのは “立ち上がった獅子” が刻印された徽章(きしょう)であり、リグシア領軍の一員である事に疑問の余地はない。


「貴様が誰なのかは知らないが、騎士国との話は付いている。元々、領内に残っていた騎体関連部品と引き換えにして、調査協力を依頼したのはラムゼイ男爵だ」


「俺も故人の悪評を吹聴する(やから)は気になったし、ニーナ殿を通じても手に入らない機具(きぐ)が幾つか摩耗していたんでな……」


 第二の都市ドレスデにも本格的な騎体工房があるらしく、物によっては取り急ぎ生産してくれるとの事で多忙な男爵に代わり、騎士国の斥候兵や騎士達を動員して現在に至る。


 そんな裏事情もあって、周辺一帯の封鎖には残敵掃討で活躍したリグシア領軍の精鋭、副旅団長の息子が率いる第一大隊第二中隊も参加しており、商館襲撃の露見を恐れる必要はない。


 占領状態の維持と警戒のために立ち去ったロイドらを除き、居残った者達は誰からともなく、室内に()えられていた革張りのソファーへ腰掛ける。


 当然の如く、ちょこんと隣に座ったレヴィアが少しだけ場にそぐわない気もするが、強引に追い払うと機嫌を損ねるため、差し置いて各陣営の思惑を擦り合わせる事とした。


私の作品に限らず、皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、縁のあった物語は応援してあげてくださいね(*º▿º*)


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[一言] 「戦場に男も女もあるか!」 byフレイザード。
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