表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/143

大抵の場合、ゴブリン達は不遇な件について

「頃合いだな、あの混戦では迎撃できまい。先に街を潰して戦意喪失させる、グリフォンどもを出せ!!」


「承知致しました、戦士長」

(おお)せの通りに……」


 後方にて指揮を執る巨大化した状態の獣人ライオネルに従い、やはり大型種の異形と見間違うまでの体躯になっている戦闘形態の眷族二匹が散開して、小型種の異形 “鷲頭の獅子(イーグルヘッド)” に翼が生えて大きくなった上位互換の魔獣を数十匹ほど(けしか)ける。


 中型以上の異形種では非常に希少な飛翔能力を持つため、巨大騎士(ナイトウィザード)の魔法で撃ち落とされないよう温存していた “鷲獅子” の群れは大きな翼を羽搏(はばた)かせ、自ら巻き起こした魔法由来の上昇気流(アップドラフト)に乗って、次々と離陸を済ませていく。


 その前肢には左右一匹ずつの小鬼が取り付いており、眼下で荒々しい雄叫びを上げ、人族の騎体と殴り合う牛頭巨人(ミノタウロス)の雄姿を物憂げな表情で眺めていた。


この高さで( ディエルド )落ちたら( ラゥドス )確実に( エルゼ )死ぬな( デスタ )

ははッ(ギギッ)上手くいっても( ギゥレアドス )敵の( ゼグ )ど真ん中だぞ( オルバゥスド )


 いつとも知れぬ時代、偽神(ぎしん)御業(みわざ)で生み出された僅かばかりの知性がある小柄な異形、俗に言うゴブリンの扱いは捨て駒なので、(ほとん)どの戦場に()いて死地へ送られてしまう悲しい現実がある。


 されども攻められている側から見れば、“飛兵の(たぐい)” は危険(きわ)まりない存在に過ぎず、獣人族が率いる小型種で構成された師団規模の攻城隊を凌ぐため、城塞の歩廊(ほろう)より地上へ射撃を敢行していたジグラント領軍の “矛先” が切り替わった。


「優先的に鷲獅子を狙い撃ちます!!」

「全班、共鳴魔法の準備を始めてください」


「正念場だぞ、一匹足りとて市街地に行かせるなッ」

此処(ここ)を抜かれる訳にはいかん、鬱陶しい()()ごと撃ち落とせ!」


 例え寡兵であっても、自由気侭(きまま)に飛び回られて要所への接近を許した場合、大事を招くと判断した部隊長らの叫びに呼応して、麾下(きか)の銃兵隊は斜め上空に大量の弾丸を撃ち込んだが……


 重力及び空気抵抗で命中精度と威力を()がれ、約320m前後の高度を維持しているグリフォンの厚い羽毛や、掴まっている小鬼達が革鎧の下へ着込んだ鎖帷子(くさりかたびら)に阻まれて致命傷には成り得ない。


 それもあって少しの油断が生まれた瞬間、遅れて飛んできた対中型種用の魔法による大火球が数匹の鷲獅子を捉え、情け容赦なく撃ち落とす。


「「グォオオッ!?」」

「「くそがぁああぁ――ッ(ギゥルァアアァ――ッ)!!」」


 自種族に理不尽な運命しか与えない、“高天に座す造物主(デミウルゴス)” に向けて力の限り罵声を響かせた哀れな者達の末路など想像に(かた)くないが、手際よく標的を仕留めた魔術師兵らの表情は強張っており、悠々と城壁を越えていく翼持つ異形の群れに視線を奪われていた。


「す、すぐに第二射を!」

「射角は水平以上を保てッ、(いたずら)に街の被害を増やすなよ!!」


 未だ懸命に撃墜を(こころ)みる将兵らに構わず、非直線的な機動で射手の狙いを外して個々に離散した鷲獅子が咆え、多方面より物資の集積地となっていた城塞の()()()()へ急降下を仕掛ける。


 ()ほど掛からずに地上約3mの高さまで至れば、よく訓練された空挺兵仕様の小鬼達が飛び降り、足先の接地に合わせて身体を丸めて、(すね)の外側、臀部(でんぶ)、背中、肩の順に転がりつつも落下の衝撃を受け流した。


 そのまま一回転して膝立ちとなった彼らはギョロリとした眼球を左右に走らせ、近場の同胞(はらから)と合流するのを優先しながらも抜剣して、外縁部の戦力を重視した事で手薄になっている壁内の守備部隊と切り結ぶ。


「ぐッ、こいつら兵站を… ッ、うぁ!?」

死に晒せや(ギゥレィア)猿人(ギオス)!!」


 浮足立っていた若い軽装歩兵の喉元を鉈剣で裂き、(あか)い返り血を浴びた精悍な一匹に触発され、勢いづいた数匹も連続した剣戟にて交戦相手を押し込んでいった。


 区画内の随所(ずいしょ)で似たような光景が展開された末、損耗を避ける思惑で鷲獅子達が早々に呼び戻された事や、奇襲効果の低減など(あい)まって形勢は人族側に傾き始めるも… 混乱に(まぎ)れて警戒網を潜り抜けた()()の小鬼らが手分けして保管庫へ忍び寄り、小型の破砕槌(ハンマー)で錠前を壊して内部に踏み入ってしまう。


 場の流れで班の一つを(まと)める事になった古参のゴブリンは嗅覚だけに頼らず、所狭しと並んだ麻袋にナイフを差し入れて小麦が零れたのも視認すると、マツ科植物の(やに)より蒸留精製した引火点の低いテレピン油を大きめの革水筒から豪快にぶちまける。


 少々荒ぶっていた(ゆえ)か、前腕などにも可燃性の液体が振り掛かったので、代わりに同胞(はらから)達が燧石(すいせき)()(がね)で火を付ければ、紅蓮の炎は瞬く間に燃え広がった。


よし(ギゥ)最低限の( ガルドス )義理は( ヴィア )果たした(  イレィア )!」

疾く(デウ)ずらかる( ギルベル )としよう( ディエス )


ほとぼりが( ルディレ )冷めるまで( ラスァウズ )どっかに( ギィア )隠れないとな( スヴァルディ )……」


 重い溜息を吐きながらも、ひと仕事終えた彼らは冷静かつ慎重に退路を確保して、逃げ遅れた人々が屋内で息を潜める市街地へ避難する。


 やがて複数ヶ所で立ち昇った火柱と黒煙により、眼前の小鬼勢を撃退して歓喜に沸いていた守備部隊の面々は冷水(ひやみず)を浴びせられ、心身ともに疲弊した状態で取り急ぎの消火活動を()いられる事になった。

私の作品に限らず、皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、縁のあった物語は応援してあげてくださいね(*º▿º*)


宜しければ下記の評価欄⤵をポチッて、応援してください♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ゴブリンは敵味方から酷い扱いを受けるのですね(涙) うわー、食料焼かれるのはキツイですね…… こればっかりはどうしようもない……
[一言] 哀れ、ゴブリン……
[一言] 扱いは悪いのでしょうが思ったより賢そうなゴブさんたち
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ