表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/143

婚姻と新王即位

 各所に採光さいこうの仕組みがされているため比較的に明るいとはいえ、陰影いんえい散見さんけんされる回廊かいろうを帰還した騎士団長らが進んでいたおり、ストラウス王の娘イザナは一命いちめいを取りめた魔導士の部屋にいた。


 そこに近衛兵がおとずれ、騎士団の凱旋がいせんを伝えたのは少し前のことだ。


「…… そろそろ、行かないといけませんね」

「姫様、申し訳ありません。私だけ無様(ぶざま)に生き恥を(さら)すなど」


 まだ臣民しんみんには知らされてないものの、一昨日の深夜に考える治療の甲斐かいなく、騎士たちの王は身罷(みまか)っていた。


 助かったのは魔槍まそうが直撃せず、騎体きたい部品の爆散により負傷して、片目を失ったサリエルのみ。治療用の眼帯をめた年若い女魔導士に向け、王女は自身の中にある(わだかま)りを吐き出すように言葉をつむぐ。


「許します、貴女の()()を… 今は傷をいやしなさい」


 幼い頃に母を亡くしたイザナにとって、元御付もとおつきの侍女はきびしくも優しい “姉のような存在” であったが、父親と肉体関係を持つ愛人であることに気づいて以降、ここ数年は大きなみぞができていた。


 されども、みずからの感情を優先するのは状況が許さないため、身内の死で一晩泣きらした後、よわい十五にして一切合切いっさいがっさいを受け入れる覚悟を決めた王女の胸中きょうちゅうでは、もはや些末さまつな問題でしかない。 


 その変化を読み取ったのか、柔らかく隻眼せきがんほそめたサリエルが姿勢をただし、かつての妹分いもうとぶんと向き合った。


「ブレイズ殿から貴女の御付おつききに戻るよう、示唆しさがありました。傷がいええれば警護を務めさせていただきます、不具ふぐの身なれど今度こそ身命をって……」


 他人行儀たにんぎょうぎ物言ものいいにひらいた距離を感じて、父親との仲を認めて再婚に同意していたら、あまり年齢差がなくても良好な母娘おやこ関係がきずけていたのだろうかと、イザナはせんのないことを考えてしまう。


(なにを今更… 女々《めめ》しいですね、私は)


 ことの次第しだいによっては国をぐ男児が生まれていた可能性もあるが、すべては後の祭りで現在のリゼルに直系王族は一人しかおらず、その意味でもサリエルが護衛をつとめるという話は理にかなっていた。


「よろしく頼みます、姉様」

「ッ!?」


 なついていた時の呼び名をわざと使い、驚いた相手に得意げな微笑ほほえみだけ残して、多忙たぼうな王女が(きびす)を返す。


 それに合わせて部屋隅に控えていた四名の近衛兵がうやうやしく扉を開き、あるじの前後をはさむように随伴(ずいはん)した。


 木漏れ日の廊下を歩きながら、伝え聞かされた騎士団の報告を内心で反芻はんすうすると、聞き取れないほどの小声でイザナはつぶやく。


「精霊門の破壊に寄与、単独で竜種も討った大和(やまと)の武人」


 一瞬だけ歩速をゆるめて立ち止まりかけるも、思索しさくを打ち切って謁見えっけんの間に通じる王族専用の扉へいたれば、すぐさま近衛兵らが内側に開けていく……


 その少し前、くだんの場所では三人の重臣が顔を突き合わせていた。




「そうか、ストラウスらしいと言えば、らしいのかもな」

「ブレイズッ、貴様がいたのに何故なぜだ!!」


 意外と素直すなおに受け止めた騎士団長のゼノスに対して、いつもは冷静な副団長のライゼスが怒鳴り散らす広間で、まさかの事態に連れて来られた俺とレヴィアは、ぽつんと放置されたままだ。


 手持ち無沙汰ぶさた此方こちらの眼前では、彼女の父親らしき野性味ワイルドさのある赤髭あかひげの魔術師が胸倉をつかまれており、見かねた団長殿が間に割って入る。


「落ち着け、人はいずれ死ぬものだ」

「時期というものがあるだろう!」


みずからの非は認めるさ… すまない」

「ぐッ、お前を責めても、解決しないのは確かだな」


 後悔にさいなまれながらびた友を見遣みやり、いくばくかの冷静さを取り戻した副団長殿が身を引いて、ひときわ重い溜息をいた。


「どうする? 直系の王族はイザナ姫しかおらんぞ、神輿(みこし)になるのか?」

「ふむ、くつわを並べて戦えない銃後じゅうごの女王… 死地におもむく将兵らの気勢はがれるな」


「では貴様が王位をげ、ゼノス。正直、私はそれでも良いと考えている」

「馬鹿を言うなよ、ブレイズ。妥当だとう性がないし、あっても面倒だからやらんぞ!!」


 何やら喧々諤々(けんけんがくがく)と、王位の譲り合いなど始めた “おっさん三銃士” をながめつつ、蚊帳かやの外にいた俺はレヴィアの耳元でささやく。


(秘匿ひとくされている王の崩御とか、次善の策とか、立ち聞いてもかまわないのか?)

(あぅ~、そう言われればそうかも、こっそり抜ける?)


 冗談じょうだんめかして微笑ほほえみ、緊張をほぐしてくれようとするあいらしい赤毛の少女に見惚みほれていれば、不謹慎ふきんしんな姿が目に付いたようで… 旧知の友から二人()かりでめ寄られ、進退(きわ)まりつつある団長殿に指差ゆびさされてしまった。


「大体、神輿みこしになるなら若い方が良いだろう! おいッ、クロード!!」

「お断りします、ゼノス団長」


 速攻で拒否するもすで時遅ときおそく、宰相兼任(けんにん)の魔術師長ことブレイズが一人娘と仲良さげな “馬の骨” に気づき、値踏みするような視線を投げてくる。


「レヴィ、そちらが報告にあった大和人やまとびとか?」

「うん、稀人まれびとの騎士クロードだよ、お父さん」


「娘が危ないところを救ってもらったようだな、感謝する」

「いえ、一蓮托生いちれんたくしょうというか、死なば諸共もろともだったので……」


 自身の半分程度(ていど)しか生きてない、いわば若造に真摯しんしな態度で礼を述べて、“百聞は一見にかずというが、致し方ない” とひとちた後、御仁ごじん愛娘まなむすめと向き合った。


「強いのか、彼は?」

「ん… 強いよ、それに機転もく」


 忖度そんたくないレヴィアの答えを受けて、おっさん三銃士の注意が此方こちらへ向き、にわかに居心地が悪くなり始めたものの、前触れなく奥側の扉がひらかれる。


 近衛兵らにまもられた黒髪碧眼(へきがん)の美しい少女が玉座のそばに立つと同時、全員がこうべれたので、俺もそれに(なら)った。


みな、ご苦労様です」


「姫様、此度(こたび)のことは、何と声をければよいのか」

「ありがとう、ゼノス。気遣きづかいには感謝しますが、(うつむ)いているひまはありません」


 おもんばかりつつも毅然きぜんと言い放ち、沈みがちな雰囲気をり払った可憐な姫君ははばからず、さらなる言葉を続けていく。


「いつまでも父の崩御を隠すことは困難こんなんです、臣民も不安に思いましょう」

「では、如何(いか)に?」


「新王が即位する慶事(けいじ)あわせて公表します。そうですね、精霊門の破壊と大森林での勝利も、華としてえればいいかと」


 あまりにも自然体でげられたゆえ、右から左へ流れそうになったが、先ほどより対話を重ねていたゼノス団長があらためてう。


「“新たな王” ですか?」

「えぇ、すぐに婚姻こんいんの準備をしてください、人選は(けい)らに一任します」


「………… 宜しいので?」

「王族がげる相手を選ぶなど不埒ふらちです、民のことだけ考えてください」


 堂々と言い切った姫君に唖然あぜんとした直後、呵々《かか》大笑した団長殿が此方こちらり返ると、続けざまに綺麗な翡翠(ひすい)色の眼差まなざしが向けられた。


「では遠慮えんりょなく、《《大和》》出身の騎士、斑目マダラメ 蔵人クロードしましょう」

「わかりました、貴方もそれでかまいませんか?」


(ど、どうするの、クロード!)

(どうと言われもな、俺につとまるのかね?)


 あわあわと小動物のようにあせり、脇腹を突いてくるレヴィアに小声で返すも、どうやら聞こえていたようで姫君が軽く咳払せきばらいをはさむ。


「この黒髪を見てください、貴方と同じく大和やまとに由来するものです。現王家のである第三代の騎士王は因果のはてからきた稀人(まれびと)… ならば、それにあやかりたいのです」


「先王の死を看取みとり、意志を引き継いだという伝承の筋書きも踏襲とうしゅうできますな」


 外堀を埋める魂胆なのか、ここぞとばかりにうなずいて不穏ふおんな言葉を重ねてくるあたり、それなりに副団長殿ライゼスも乗り気のようだ。


 なお、背負うモノは大きいにしても正直な話を言えば、一国一城の主に憧れがないわけでもなく、気丈な姫君の頼みを無下むげに断るのは後味が悪い話だったりもする。


「クロード卿、結論は出ましたか?」


若輩じゃくはいの身(ゆえ)いたらぬこともありますが、それでも良ければ」

勿論もちろんです。未熟な者同士(どうし)、一緒に学びながら、歩んでいきましょう」


 そっと姫君から差し出された肌理きめの細かい手を取り、戸惑とまどいつつも婚姻の申し出を受け入れたことで、しばらくは落ち着かない日々を送らされるのだが……


 喪中もちゅうける略式での婚儀こんぎ(つつが)なく行われ、国内外に対して臣民をまもった先王の死と、新たな騎士王の即位がげられた。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_


P.S.ケモノベル「コボルト無双」も書いてます。

宜しければ下記のリンクから飛べますので読んでやってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] え、えらいこっちゃですね…… 予想外だけど、政治情勢を考えれば確かに正しい……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ