呉越同舟?
「ども、お疲れ様なのです」
「えっと… 進捗の確認でしょうか?」
「あぁ、全く以て進んでないようだが……」
都市南門の戦闘から二日、トリアージの要領で損傷軽微な巨大騎士を優先して戦列復帰させる方針とは言え、昨夕の時点でミラとミアが作業に着手していた経緯もあり、相変わらずなベルフェゴールの姿に疑問を覚えてしまう。
しかも、好きな事には寸暇を惜しまない双子は少々やつれており、綺麗な蜂蜜色の髪も乱れているあたり、ほぼ徹夜で何かをしていたと思われる。
名状し難い不安に襲われて、横たわる躯体の胸郭に掛けられた梯子を登り、操縦席の中を覗き込むと制御中枢が剝き出しにされていた。
「操作系に問題は無かった筈… っと、そこに転がっているのは獅子核か?」
「鹵獲した有翼騎の白鳥核と交換したのです!」
「因みに記録領域を調べてみたら、面白い仕掛けとかあったのですよぅ♪」
嬉しそうな様子で外へ出てきたミラと入れ代わり、勧められるまま所定の位置に着くと後部座席に残っていたミアが専任技師の管理権限を行使して、特注品の魔導炉 “獅子心王” に火を灯す。
もはや聞き慣れた低い駆動音が鳴り響き、各所から伸びてきた人工筋肉が身体に纏わり付いていく。
『そう言えば、御一緒するのは初めてですね~』
『ッ、何気にレヴィア以外だと、違和感が凄いな……』
言語化されるまでに至らないざっくりとしたミアの思考や、自身の与り知らない魔導知識の断片などが乗騎を媒介にして、次々と脳内へ流れ込んできた。
新規の技術者を育成する際、有効な手段に成り得るという考えが一瞬だけ過ったものの、前提条件になる騎体適性の保持者が稀有なので、恐らく導入するためのハードルは非常に高いのだろう。
そんな取り留めのない憶測を立てていると、ミアが二段鍵盤状の操作卓をリズムよく軽快に奏でながら、此方へ言葉を紡いでくる。
『一応、該当箇所の記述式を精査して、神経伝達系の安全装置も確認してから、ミラと一緒に試したのですけど… 大族長を模した人工精霊が封入されてました。起動しても良いですか?』
『“虎穴に入らずんば虎子を得ず” か、やってくれ』
『では、ポチっといきますね♪』
子気味良く鍵盤が叩かれた瞬間、視界は騎体の疑似眼球で捉えたものに切り替わり、可憐さと妖艶さを併せ持つフィギュアサイズの淑女が可視範囲に映り込んだ。
病的なまでに色素の薄い肌色、銀糸の髪より覗く長い笹穂耳が印象的なドレス姿のエルフは宙空に腰掛けて足を組み、値踏みするような視線を露骨に投げてくる。
『ふむ、貴様が魔人レグルスの核を搭載した機械人形の遣い手、斑目蔵人だな。妾は白の女王が “魂の盟約” に精神を縛られず、猿人族と接触するために作られた霊的な複製体だ。ファウ・ホムンクルスとでも呼ぶが良い』
『…… 中核都市ライフツィヒの惨劇を知る一人として、“滅びの刻楷” に属する知性体には嫌悪感を禁じ得ないが、どういう了見かくらいは聞いておこう』
胸裏へ響いた声に応じて、不快感を隠さずに問い糺せば、くつくつと愉快そうに笑った相手は大袈裟に細い肩を竦め、悪びれのない態度で話し掛けてきた。
『そう怒らずとも良いだろう? 現世の者達と同じく我らも種を存続させるため、首輪を嵌められて踊る哀れな盤上の駒に過ぎない』
薄く微笑んだ人工精霊は飾らない態度で、如何なる国家や共同体も建前を抜きにすれば、自分達のことが一番だと断言する。
ましてや指導者たる者が他種族を優先し、同胞を軽んじるなどあってはならず、共存共栄も全ては利害関係の一致で生じるものだと諭してきた。
『貴様と女狐の関係もそうであろ? くだらない義憤や、肥大した人権意識に駆られて綺麗事を怒鳴り散らし、他国の都合で兵卒を死なせるのは無知蒙昧の極み……』
『確かに為政者の愚行は即ち、臣民への背信行為だな』
『故に端から対話を拒絶する事もしないか、善き心掛けだ』
緩やかなウェーブの掛かった光沢がある銀髪を揺らして満足げに頷き、白藤色の瞳に宿らせた興味の度合いを深めてくるが、この邂逅に於ける真意を掴むことはできない。
諦めて素直に聞こうとしたら、小さなファウが揶揄うように相好を崩して、身体からも余分な力を抜いた。
『ふふっ、妾に見惚れるのは自由だが、見詰め合っていても仕様がないぞ?』
『浮薄な戯言は要らない、簡潔に用件を述べてくれ』
『… 些末な出来事でも、廻りまわって遠い未来に変革を齎す。それが共倒れを避けるため、袂を分かった森人種の光になればと願い、見識を授けようと思ってな』
いつかニーナと蕎麦を食べながら話した “蝶の羽搏き” と思しき、予測不可能な事象連鎖に言及した女王の複製体は本題へ軸足を移して、滔々と語り出す。
先ずは各地への侵攻に紛れつつ、隠れ棲んでいる同胞の痕跡を調査した件から始まり、中東地域で偶然発見された新種の “砂エルフ” を含む多数の者達が神槌より生き延びて、日々の暮らしを営んでいる事実などが伝えられた。
オリジナルのファウは人族の事をどうでも良いと思ってますが、別の道を歩んだ同胞達に関しては女王として心を砕いてますし、大地に残った各部族の森人達も貴種たる彼女に敬意を持ってたりします。
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