技師達の浪漫が詰まった武器を持たされる身になって欲しい By ディノ
偶発的にも攻防の際に相手が胸元をバックラーで庇い、此方の攻撃範囲が絞り込まれた結果、“機械仕掛けの魔人” に搭載された自律式魔導核を壊さず確保できたが、人的被害を鑑みると喜べない。
その想いを汲み取ったのか、一緒に騎体を駆るレヴィアが気遣うように囁く。
『私達にできる事はしたと思う。極論だけど闘争の中で人が死ぬのは避けられないし、全てを救えるなんて独善は傲慢でしかないよ、クロード』
『あぁ、分かっている。単に “悩めるソクラテス” で在りたいだけさ』
『うぅ、また小難しい話を……』
軽々に満足する事無く、不可能であっても最善を目指して足掻きたいという比喩的な表現を消化し切れず、“適当にあしらわれたのでは?” という疑念が騎体と身体を繋ぐ人工筋肉の神経節より、微かに伝わってきた。
多分、後部座席に視線を向けると、彼女の緋眼が胡乱なジト目になっているのだろう。
脳裏を過った愛らしい不満顔に微苦笑して、400~500mほど離れた都市南門の情勢に傾注しながら言葉を足そうとすれば、御付き魔導士との遣り取りが寸断するのを待っていた残存騎のゼファルス騎士達から、外部拡声器越しの声が掛かる。
『ご助力、感謝致します』
『お陰様で幾つかの命は拾えたみたいです』
少しの安堵を含んだ物言いに促され、疑似眼球が見つめる先を窺うと、額を血で濡らしているメイド風軍服姿の侍従兵が飛空艇の外に出てきていた。
片脚を引き摺って歩み寄る現地日系人の黒髪少女に乗騎を近付け、女狐殿の無事と空艇魔導士一人の重体を聞いた上で、意識を戦場へと引き戻す。
『またしても、終盤は傍観者だな……』
『うぅ、両腕が痛いよぅ、部分的な感覚共有の遮断とかできないのかな?』
抜き打ちで深く斬り込まれたベルフェゴールの右腕及び、有翼騎の魔導炉を破壊するため犠牲にした左腕は赫い魔導液由来の瘡蓋に覆われ、自己修復し始めているものの継戦に耐えられる状態ではない。
滅びの刻楷に属する上位種族の知性体を退けた手前、最低限の役割は果たしたと割り切って、若干離れた場所で繰り広げられている情景を操縦席より眺めた。
なお、領主たる御令嬢が乗った飛空艇 “Zeppelin伯爵” の不時着騒動で、救援せざるを得なかったゼファルス領軍の戦力低下や、他国の地で過度の損耗を出したくない騎士国側の思惑があり、膠着していた南門の戦いも佳境を迎えつつあった。
身を隠していた侍女達の有翼騎が飛び立って以降、敵勢の巨大ゴーレム達は陣頭指揮を執る二騎の “機械人形” アイオーンに従い、各陣営の巨大騎士隊を引き留めるような立ち廻りをしていたのだが……
多少の数的不利など厭わず、妹魔導士と共に双剣仕様のベガルタを駆り、斃したばかりの岩人形を踏み越えていった銀髪碧眼の騎士ロイドが均衡を突き崩す。
『… 土に還って貰うよ』
低い姿勢で疾走する双剣騎は後方へ控えていた術師型ゴーレムに弧を描くような軌道で迫り、半回転して振り抜かれた球型頭部のメイスを斜めのスライディングで躱す傍ら、長剣の斬撃も繰り出して天然鉱石によって構成されている右腕を切り落とした。
そのまま滑りながら上半身を捻って、短鉄剣を握りしめた左拳も大地に突くことで方向転換して立ち上がると、すぐさま欠損した相手の右側に廻り込んで刺突を放ち、胸部装甲の内側にある核を破壊する。
『流石、お兄様です♪』
本日、数度目になるエレイアの称賛を受け、まんざらでもない様子の彼は乗騎を連続的にサイドステップさせる事で、地中から飛び出してきた幾本もの鉱石槍を悉く回避して、騎士国側の戦域にもう一体いた術師型との距離を詰めていく。
呼応して構えられた戦棍へ左袖口から射出した魔法銀含有のワイヤーアンカーを絡め、重心を後ろに傾けて鋼糸も巻き取れば、獲物と定めた岩人形の体勢が大きく崩れた。
対照的に一歩退かせた左足で自重を支え、いち早く次の行動に出た月ヶ瀬兄妹のベガルタは剣戟の間合いへ飛び込み、半身となって直線的に撃ち込んだ刃先で急所を穿つ。
『やはり、お兄様は素晴らしい……』
『ん~、最近はクロードに負け越しているけどね』
感慨深げに独白した愛妹を諫めて、崩壊する相手から離れて都市の防壁側に乗騎を寄せれば、魔力的な経路で各ゴーレムの状態など把握していた白エルフの騎士が相貌に焦燥を浮かべ、背後を取らせないため手勢の一体を対処に宛がう。
旗色の悪くなってきた戦況に苛立ちつつも、無遠慮に斬り掛かってきた拙速な鹵獲騎のグラディウスへ “機械人形” を逆に踏み入らせて、腰を落とす事で深く長剣を振り切った。
籠められた魔力の残光で軌跡を描いた斬撃が巨大騎士の薙刀を切断すると、さらに詰めて切り返した刃で右脇腹から胸郭までを裂く。
『迂闊だったな、猿人』
『…ッ、ぁ……』
『… ぅ』
致命傷を受けた準騎士達が呻き、外部拡声器より零した今際の細い声を聞き流して、病的なまでに白い肌の騎士はアイオーンの左膝を掲げさせると、頽れていく騎体を蹴り飛ばした。
その直後、仲間の死に激昂した遣い手の咆哮を響かせ、左斜め前方にいた僚騎が特攻を仕掛けてくる。
邪魔な位置に翳された盾ごと胸部を刺し貫くため、突き出された蒼白い燐光を帯びる切っ先は… 本来の威力を発揮する事無く、数センチ刺さった時点で火薬式反応装甲の爆散に巻き込まれて弾け飛んだ。
『軽率だな、人外ッ!!』
『ぐッ、そうとも限らん!』
一瞬の虚を狙い、左腕盾の下側を掻い潜ってきた歪な片手剣の刺突が直撃する間際、即時発動できるように構築していた小規模な浮遊障壁の魔法で受け止め、砕かれながらも運動エネルギーを相殺する。
もはや剣戟の威力は微々たるものだが、剣身片側の根本に添う擲弾銃口より発射された某アメリカ人技師謹製の83mm徹甲榴弾が腹部装甲を貫通して、機械の躯体に収められている魔導炉を破壊した。
内圧による損傷拡大と膂力の急激な低下を知覚して、潔く決断した白エルフの騎士は躊躇わずに転移の魔封石を使う。
その残滓を感じ取り、改造騎ガーディアの動力制御を担う金髪灼眼の魔導士、リーゼ・フェルトが無意識のうちに少しだけ緊張を緩めた。
『初めて撃ったけど結構な貫通力ね、ディノ君』
『銃身が短くて、命中精度は皆無だがな……』
所詮は浪漫兵器に過ぎないと、開発したジャックス班長達に聞かれたら反駁されそうな台詞を呟き、藍髪の騎士は天秤が傾き出した周囲の状況を見遣る。
自勢力と同様にゼファルス領軍も攻勢を強めており、唯一残った岩人形達の指揮官騎をアインストが強引に討ち取って、対リグシア戦で複腕騎に敗れた汚名を返上すれば都市南門の戦いは十数分も掛からずに終息した。
専用兵装のガンソード、使い勝手が悪すぎての初使用になりました。しかも、騎体装甲などを貫くため、大口径の成形炸薬榴弾や徹甲榴弾を一発だけ仕込めるので、寧ろ銃というよりはグレネードランチャーという……(;'∀')
私の作品に限らず、皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、縁のあった物語は応援してあげてくださいね。




