取って付けた12.7㎜機関銃はザ〇マシンガン並みの無力さ
『ッ、飛翔型！？』
『また面倒なものを……』
驚愕の混じった声を聞き流して、動揺したレヴィアに引き摺られる事なく、ベルフェゴールの右腕盾を頭上に翳させて低空からの攻撃に備えるも、件の “羽根つき” は眼下で戦う自他の勢力を一瞥するのみに留めて南方へ向かう。
つまり、洗練されたフォルムの有翼騎が狙うのは後方に控えている一般の歩兵達か、若しくはゼファルス辺境伯ことニーナ・ヴァレルの搭乗する飛空艇 “Zeppelin伯爵” と思しい。
『陛下、如何なさいます？』
聡いフィーネが現状を的確に把握して、少し焦りを滲ませた声音で問い掛けてきたのとほぼ同時に虚ろな巨躯が眼前に割り込み、鉱石製のガントレットに覆われた右拳を振りかざして打ち込んできた。
『くッ、現状での救援は厳しいな！』
騎士団長の義娘に応えながらも黒銀の騎体を後退させて躱せば、追い縋ってきた格闘型の巨大ゴーレムは左のショートアッパーを放ってくる。
それを右腕盾のシールドバッシュで打ち落として、反撃の左剛拳を胸郭へ叩きつけたが、先ほどの敵騎に気を取られていたレヴィアの術式構築が間に合わない。
乗騎の後部座席より、若干の申し訳なさが人工筋肉の神経節経由で伝わるのを感じつつ、即座に距離を開けて繰り出した軍刀の切っ先で、半ば砕けている胸部装甲と核を刺し貫いた。
「ウ゛ゥ…ッ」
出所の不明瞭な呻きを響かせた相手は糸が切れたように止まり、がらがらと音を鳴らして崩れ始める。
その機に乗じて、少し押し込まれた位置から横方向に広がった戦線を覗えば、多少の損壊を厭わない岩人形らに詰め寄られて、近接格闘を余儀なくされた各騎は苦戦の最中にあった。
折角の得物を存分に振るえない事に加え、術師型が放つ散発的な土属性魔法の警戒も疎かにできない。
『退くのは難しいね……』
『そうだな』
飛空艇含む後方部隊の皆が森を切り開いた街道付近の地形や、転移の魔封石など駆使して生き延びてくれるのを切に願い、重い打撃で転倒させられた手勢のグラディウスを庇うため斜に斬り込んだ。
同様にゼノス団長やザックスら腕の立つ騎士も不慣れな準騎士達を気に掛け、攻勢より守勢を優先していた事から、戦局が膠着して敵方の “機械人形” も淡い魔力光で煌めかせた白刃を手に動き出してくる。
他方、持ち運び可能な小型念話装置を携行した斥候兵達のリレーにより、取り急ぎの連絡を受けた飛空艇の面々は少々困惑していた。
「飛翔型の騎体って……」
「そんなのあるんですか、ニーナ様？」
「凄く希少な筈だけど、投入してくるのね。 全軍、中隊単位に散開して森へ入りなさい、主副の飛空艇魔導士は防御術式の構築を！！」
貴賓席の伝声管を通じて船体下部に取り付けられた外部拡声器より響く主命に従い、一斉に地上部隊が退避行動を取るのに紛れて、騎士国側の遠征軍もライゼスの的確な指揮で離脱を試みる。
俄かに騒がしくなった状況下で、領主令嬢は孤立状態にある飛空艇をどうすべきかと逡巡するが… 彼女の決断を待たずして、硝子の割れるような不協和音が更なる上空から降り注ぎ、船員の数だけ座席に備えている魔封石が共鳴して砕け散った。
『ふふっ、これで早々に転移できないでしょう』
『逃がさない、此処で確実に仕留める』
慌てて船体上方に半透明の浮遊障壁を展開した標的へ向け、白エルフの侍女達が駆る “機械仕掛けの魔人” は罅割れた魔石破壊のアミュレットを投げ捨て、手隙になった片腕を突き出す。
『悉く切り刻みなさい、風の刃よ』
銀糸の髪を片側で結い上げたシータが言霊を紡げば、某赤毛の少女も得意な炸裂風弾の魔法が撃ち放たれて、二段構えの障壁と衝突する手前で爆ぜた。
殺到する無数の小風刃が初段の護りを壊して、覆い切れなかった船首や船尾も切り刻み、的外れな一部は陣形の中心に配置されていた事で出遅れてしまった領兵達の命を奪う。
「全速前進ッ、巨大騎士隊と合流する！」
「了解です！！」
瀟洒なドレス姿と不相応な御令嬢の大声に操舵手のライネルが応え、飛空艇の後部側面に設けられた四基のバースト機構を噴かせる。
魔導炉で凝縮された魔力の連続的な爆散を推力に加速するも、船尾銃座の狙撃兵が伝声管を介して、有翼騎の追随を振り切れないと報告してきた。
「撃墜しなさい、許可します」
「何言ってんすか、御嬢。12.7mm機関銃で騎体の装甲は貫けませんよ」
すぐさま返された指摘通り、彼女が試製した単砲身のチェーンガンは排莢を射撃の反動に頼らず、組み込まれた外部動力で行うため不発弾が銃身に詰まらない優れものだが… この世界では貴重な火薬を遠慮なく消費する上に用途は限定的で、取り敢えず武装が欲しいので付けた感が否めない。
「むぅ、可動部の隙間を狙いなさい」
「そんな神憑った精密射撃ができるなら、もはや人外の領域でしょう……」
無茶な要求に辟易しつつ、無為無策で何もしないより増しだと開き直った射手はセーフティの解除を済ませ、手早く敵騎の関節へ照準を定める。
僅かな沈黙と集中を挟み、幾つもの徹甲弾が銃身から空中へばら撒かれた。
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