表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/143

凱旋を出迎えたのは擱座(かくざ)した騎体

 負傷した国王の容態(ようだい)臣民しんみんげられる事なく、救助へ関わった者達には厳重な緘口令(かんこうれい)が下されて、破壊された街並みの修復も(まま)ならずに二日が経過した頃……


 不安におちいる王都の人々にとって、帰還を待ち望んでいた主戦力たるリゼルの騎士団はすぐそばまで到達していた。


『この辺から、もう畑なんだな』


 恐らく生活(けん)外縁がいえん部にあたる放牧地を抜けると、其処そこには麦類と根菜こんさいの畑がつらなっており、所々《ところどころ》に農具や収穫物を保管する小屋や、仮眠施設なども見受けられる。


 まだ遠くに見える王城までは旅次(りょじ)行軍の速度で一刻程度(ていど)の距離があり、想像よりも広大な田園でんえんに俺は感嘆かんたんの声を漏らした。


『ん、人口の三万人弱をまかなう必要があるからね。エイジアの半径10キロメートルは食糧生産に使われてるんじゃないかな?』


 律義りちぎこたえてくれたレヴィアに謝意をべ、騎体きたいの頭部をぐるりとまわさせて田畑の様子など見渡せば、作業の手を止めた農夫達が凱旋がいせんする騎士団へ(こうべ)れていた。


『あれ、畑に出ている人の数… 何だか、少ない気もする』

『そうなのか?』


 騎体きたいによる感覚共有で彼女の素朴そぼくな疑問が伝わり、反射的に聞き返すと、一番騎から念話装置での通信が割りむ。


『この時期に祭りがあるでもなし、農夫の頭数が足りないのはみょうだが、大事(おおごと)ではあるまい。本当に何かしらの問題があっても、王都に着けば分かる』


 所詮しょせん些事(さじ)だと、無為むい剛毅ごうきな騎士団長のゼノスが断言した後、長閑(のどか)な穀倉地帯にもうけられた街道を縦列で進み、やがて都市防壁の南門に辿たどり着く。


 巻き上げ機械式の落とし格子こうし板金ばんきんの大扉を衛兵小隊が内側から開いていく最中さなかも、普及からもない巨大騎士の高さが城壁を上回っているため、普通に疑似眼球で街中をうかがえるのだが……


『な、なんじゃこりゃ~!!』


 寸前すんぜんまで余裕よゆうぶっていた団長殿の驚愕きょうがくした声が一番騎の外部拡声器から響く。


 それもそのはずで、王城に続く大通り沿いの建築物がいくつも損壊しており、道程どうていには擱座(かくざ)した豪奢ごうしゃな巨大騎士が取り残されていた。


『嘘、クラウソラスのK型がッ』

『K型?』


『我らが王の専用騎せんようきだよ、クロード殿』

『兄様、ストラウス王は無事なのでしょうか?』


 どこか不安そうなエレイアと同じく、随伴ずいはんしていた一般兵科の者達も異変に浮足立うきあしだち、部隊長格がそれを(いさ)め出す。


『えぇい、早く城門をけろ!!』

「落ち着けゼノス、どうし……ッ!?」


 ある意味、誰より動転していた団長殿をなだめようとしたライゼスも、ようやひらかれた都市門の先にある惨状を見て、言葉をまらせてしまう。


「馬鹿なッ、我らが不在のうちに襲撃だと… 騎兵長!」

「はッ、先行して王城に向かいます。第一小隊、二人ほど付いて来い!」


「「ッ、自分が行きます!」」

「「では、私も行きましょう」」


 叫ぶと同時に馬の腹をって、アルドが乗騎を駆け出させたものの、ざっくばらんな指名だったので二人どころか、野次馬根性を刺激された数騎が追随(ついずい)していく。


何故なぜ、貴様までいるんだ、副長ッ!?」

「すいません、つい……」


「くッ、かまわん、このまま登城するぞ!」


 主副をつとめる指揮官が離れて、棒立ちになった騎兵隊をいらだ立ちながらも副団長のライゼスが(まと)め、先行した連中に遅れることしばし… 俺達も四番騎で擱座(かくざ)したK型に取りつき、ロイド達の二番騎と一緒に両脇から抱えて、城内の駐騎場へいたった。


 その片隅かたすみに王専用のクラウソラスを降ろして、破損個所を念入りに確認する。


的確てきかくに操縦席がねらたれているな、レヴィア』

『えっと… つまり、どういうこと?』


はなから、要人ようじんの殺害が目的だった可能性もある』

『となれば、大森林の精霊門は王都の戦力を奪う罠か……』


 念話装置によって伝えられたロイドの憶測おくそく騎体きたいの首振りで否定し、どちらも本命足りえることを指摘するかたわら、自騎じきを整備班員の誘導で指定場所へ移動させて、石畳に片膝を突かせる。


 もはやれてきた動作で胸部装甲の留め金をはずしてひらけば、赤毛の魔導士娘が人工被膜(ひまく)や、身体の各部に接続された人工筋肉を魔力操作でのぞいてくれた。


「先、降りるね」


 一声()けたレヴィアは大気操作の術式を構築すると、綺麗な髪を(なび)かせて足場から飛び降りる。何やら、騎体きたいを実戦レベルで動かせる操縦者の方が貴重らしいものの、はたから見るかぎりだと、魔法使いの方が有益ゆうえきそうだ。


 悲しいかな、稀人まれびとは原則的に魔法を使えないため、無い物ねだりをしても時間の無駄と割り切って、胸部装甲板の内側より引き出したワイヤーペダルに片足を掛ける。


 さらに右手で金属剛線の一部をつかみ、重力による自由落下の速度を昇降機で一定に調整しつつ、石畳の上へ降り立った。


 他の操縦者らも其々《それぞれ》のクラウソラスを降りており、ふと目が合った因縁のあるディノににらまれてしまうが… そのほほを隣にいる金髪美女がつまんだ。


「ひゃめてくれ、にゃにをする」

「目つき悪くなってたよ、くだらないことにこだわらない」


「あれは?」

「準魔導士だったリーゼさんだね、性格は見ての通り」


 人目をはばからず、手加減なくいじられ出した蒼色あいいろ髪の騎士には同情を禁じないので、そっと顔をらせばアルド騎兵長がゼノス団長へ耳打ちする姿など目にまり、彼らと視線がまじわる。


「クロード殿ッ、謁見えっけんの間へ上がるぞ!」


 とは言われても、襤褸ぼろいスーツの内側に革製胸当てを着込んだ微妙びみょう恰好かっこう大仰おおぎょうな場所に出向いてよいのか、悩んでいるうちに俺の服裾ふくすそまんでいたレヴィアも話に混ざる。


「団長、私もかまいませんか? クロードだけでは、緊張するかもしれません」

「どうする、ライゼス?」


「そいつはブレイズの娘だ、問題ないだろう」

「やった、ありがとう御座います♪」


 またしても此方こちらが返答する前に事態は進み、断れるような状況でもなくなったことから、仕方なく日焼けした煉瓦れんが造りの王城へと足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] レヴィアの最後のセリフの音符は、おそらく沈鬱な雰囲気だろうなかで違和感があると感じました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ