“義を見てせざるは勇無きなり” と申します
「何ッ、市街地の中心に鈍色の浮遊多面体だと!!」
「はい、女狐殿の仕込んでいた密偵からの伝聞ですが、噓偽りを言う状況でもない故に誠かと愚考します」
僅差で戻ってきた農夫を装った斥候二人の内、後着の方が片膝を突いた姿勢で畏まり、難しい表情となったライゼスに事のあらましを告げる。
郊外に点在している立ち木林に馬を繋いで徒歩となり、偽装の小道具かつ武器にもなる農業用フォークを片手にして、穀倉地帯で野営しているリグシア領軍の動向を覗っていると…… 局所的な地揺れに続いて何かあったのか、兵士達が付和雷同の如く慌てふためき出したとの事だ。
「異変を探ろうと手薄な都市防壁の西門に向かいましたら、都合よく人だかりができていたので群衆に紛れ込んだのです」
その時に挙動の怪しい者を見つけ、独りで離れていく背中を追い掛けて捕まえれば、ゼファルス領の出身者で女狐殿に懐柔された市井の間者だったらしい。
非常事態なので少し強引に情報を融通して貰い、突如現れた巨大なゴーレム数体の姿も外壁越しに視認してから、起点となる信号発煙弾を放った上で駆け戻ってきたのだと締め括った。
「ご苦労だった、少し休んでいろ」
「「はっ」」
短く労って斥候騎兵らを下げたライゼスが此方の騎体に振り向くも、ほぼ同時にニーナから秘匿の念話が届いたので回線を切り替えながら、軽く掲げさせた鋼鉄の左掌で発言を留める。
標準の聴覚器や外部拡声器を用いて一般兵科の随伴兵と言葉など交わしている際、多少離れた位置の僚騎が内緒話を飛ばしてくる事も珍しくないため、挙動の意図を察した白髪混じりの副騎士団長は少しだけ不服そうに引き下がった。
『えっと、もう大体の事情は伝わっている?』
『あぁ、このタイミングで精霊門が開いて、露骨に誘われているくらいはな』
『そうだとしても、無視は厳しいかな…… 飛空艇からだと見えるけど、壁外に駐留していたリグシアの将兵達が市街へ突入し始めているわ。大切な誰かのために戦う者達を見捨てるなんてできない』
憂鬱そうな声音で心優しい御令嬢が危惧する通り、このまま放置して街道沿いの森林地帯に退避した場合、都市ライフツィヒの被害は甚大なものになるだろう。
最悪、湧き出した異形の軍勢が距離の近い帝都ベリルへ侵攻したら、ハイゼルに手勢の数騎を供与したと聞く皇統派宰相の現有戦力では、他領の援軍を待つことなく早期に陥落するかもしれない。
『結局、救援の断行をするしかないのか?』
『ん、内地を喰い荒らされると、西部戦線が崩れるかもだからね』
騎体経由の繋がりで思惑を感覚的に把握したレヴィアの指摘は正しく、“滅びの刻楷” の支配域と隣接した三領地に諸国の支援物資を送る輸送路に加え、派遣部隊の移動経路も帝都を中心に構築されていたりする。
銃後の生命線を諸共に破壊されて、補給物資や補充人員が滞った隙を異形種の群れに突かれたら、抗い切れずに幾つかの迎撃都市まで潰滅しそうだ。
『…… 隣国の衰退が此方の不利益に直結するのは厄介極まりない』
『え゛、同盟関係ってそういうものじゃないの?』
『ふふっ、下衆いことを考える手間が掛からなくて良いわね』
純真な赤毛の魔導士娘に便乗して、何やらニーナも砕けた台詞を投げつけてきたのに呆れつつ、飛空艇から目視できている異形種の頭数など確認して念話を切り上げ、先ほど出端を挫いてしまった副団長にベルフェゴールの疑似眼球を向けた。
『待たせてすまない。敵主力の殆どは巨大ゴーレムで、姿形の異なる敵影も含めて双方の手勢を合わせた騎数より少し多い程度のようだな』
「それ以外の敵種は? 小さい個体が騎体に纏わり付くと面倒なことになるぞ」
『目視ができる範囲に中型の姿はなく、小型は駐留戦力と拮抗する規模みたいだ』
現状を鑑みるに大型異形を巨大騎士の部隊で駆逐した後、ゼファルス領軍の軽装歩兵達が都市防壁の南門から突入して、小型異形も討ち果たせば全ての事態は終息する。
予期せぬ戦いで損耗するのは業腹でも、中長期的な危機管理に於ける観点に立つ限り、此処で加勢しておいた方が自国のためになる筈だ。
『交戦するつもりの友軍に歩調を合わせようと思うが、ゼノス団長はどう考える』
『此処で私に振るのか… むぅ、フィーネ、助言をくれ』
『全く、困った義父様です。概ね、陛下の判断に間違いはないと思います、“義を見てせざるは勇無きなり” と稀人達の世界で有名な書物にもありますから』
平時と変わらぬ澄ました声音で亜麻色髪の乙女が宣い、逡巡していたライゼスも頷いたのを確かめてから、念話装置の回線を頭上の飛空艇に繋ぐ。
勝手知ったる何とやらで、すぐに侍従兵の娘が御令嬢へ取り成してくれた。
『クロード殿、結論は出た?』
『あぁ、主副団長の同意を取った。一人は判断を義娘に丸投げしていたけどな』
『騎士国は割と民主的なのね。それはさておき、単独の戦力で救援に行くのは無謀だったから、とても助かるわ』
あざとく声に嬉しさを滲ませたニーナと取り急ぎ仔細を詰め、巨大騎士及び斥候騎兵を都市ライフツィヒに進駐させる事や、飛空艇と一般兵科の部隊を後方8㎞の森林に近しい位置取りで待機させる事も決めていく。
大所帯なゼファルス領軍が縦列陣形を組み替える少しの合間を利用して、エルフ謹製の巨大ゴーレムについて双子達のレクチャーを皆で受け、騎士国側も簡素な準備を済ませての出陣と相成った。
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