表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/143

次なる舞台、中核都市ライフツィヒへ

「んっ、ふぁ… 眩しい……」


 目覚まし代わりに天幕の出入口に垂らされた遮光布を(まく)って固定すれば嫌光性(けんこうせい)なのか、寝袋に収まった赤毛の “いもむし” が陽光を避けようと悪足掻きする。


 やや二日酔い気味の頭でもう少し眠らせてやろうと(おもんばか)り、ざっくばらんに脱ぎ捨てていた軍服の上着や剣帯等を拾い集めて身に(まと)っていたら、半分寝ぼけたレヴィアがシャツを羽織っただけの下着姿で寝袋から這い出してきた。


(… 軍属の女史は些事(さじ)を気にしない(たち)だが、個人的に居たたまれない気分になる)


 片手で目元を擦る様子など眺め、暗くなり過ぎない程度に垂れ布の位置を調整して、外から見える範囲を絞り込む。そうして薄暗くなった幕内で雑嚢を背凭(せもた)れにして座り込み、昨夜のことを思い起こした。


 折角、ニーナの方から皇統派の動静を尋ねてきたにも(かか)わらず、酒席を兼ねていたせいで途中から話が脱線したのもあって、交渉仲介の内諾を貰えていない現状に少し自己嫌悪する。


「後の調整はライゼスに任せるか……」

「今日にでも大筋を擦り合わせないと、時間無いよね」


 “ん~っ” といった感じで座り込んだまま気持ちよさげに背筋を伸ばし、発言とは裏腹に緩い空気を醸成するレヴィアの指摘は(もっと)もなので、未だ覚醒し切っていない相方を残して副団長の天幕に向かう。


 ただ、辿り着くまでもなく、上半身裸で引き締まった細身の肉体を遠巻きにしている鹿の親子へ晒し、黙々と軍刀を素振りする白髪交じりの騎士に遭遇した。


「戦地なのに朝から鍛錬か? うちの熊みたいな爺さんが思い出されるな」

「歳を取れば筋肉の衰えも早い。さぼる訳にはいかんのだよ、クロード王」


 何気なく掛けた言葉に応じつつも、黒鉄の刃を振るう腕は止めないライゼスが一瞥してきて、態々(わざわざ)足を運んだ要件を視線で促される。


 廻りくどいのは嫌いな御仁のため、此方(こちら)も単刀直入にいかせて貰うことにした。


「ニーナ・ヴァレルが中核都市ライフツィヒで皇統派と会談を持つよう、取り急ぎ仔細(しさい)を詰めて欲しい。彼女の本質は()()だ、議論の場を拒否する事はないだろう」


「ふむ、我らが頼まれたのは交渉の仲介に過ぎん、気負わずに引き受けよう」


 例え話が(こじ)れようと、知ったことではないのを暗に示唆してくるが… 昨夜の様子を踏まえるなら、この機に遺恨を断ちたい意思があっても、犠牲を出したくない優しい女狐殿の根底には厭戦(えんせん)の気持ちがある。


「案外、円滑に着地点が見つかると思えなくもない」

「所詮は武人に(あら)ざる若い女領主、敵や味方を死なせる覚悟が足りないと?」


 先日、四本腕の騎体 “ナイトシェード・羅刹” に乗っていたリグシアの将校を説き伏せる際、双方の戦死者に触れていた姿を思い出したのか、歴戦の騎士は鍛錬を中断して問い掛けてきた。


 恐らく、友好関係にある領主令嬢のことに留まらず、似たような境遇の此方(こちら)にも手向(たむ)けた言葉と(おぼ)しい。


「… 覚悟があるからと言って、無為(むい)な犠牲を黙認して良い筈がないし、俺は迷いを精神の弱さと軽々(けいけい)に断じない」


「それもまた一理ある。苛烈すぎても人の心は付いて来ない、必要に応じて情を切り捨てるなら文句は言わんよ」


 隙あらば実戦経験のない若手に死刑待ちの罪人を切らせようとする御仁が(うそぶ)き、抜き身の黒刃を腰元の鞘へ収めて、上着と一緒に付近の枝へ引っ掛けていた手拭(てぬぐい)を掴んだ。

 

「では、内諾の取り付けを頼む」

「この陣地を引き払う前に済ませよう」


 普段から問題の先送りが嫌いな性格(ゆえ)、すぐに身なりを整え出したライゼス副団長のお陰もあり…… 朝食用に焼かれたパンと牛肉のワイン煮込み(缶詰)を腹へ納め、行軍準備に取り掛かった時点で(くだん)の会談は御令嬢の理解を得ていた。


 さらに出発前の繁雑(はんざつ)さを利用して、彼女の軍勢に潜伏するアルダベルト麾下(きか)の密偵達を陣地へ引き入れ、進軍先で交渉を取り持つことの通達も速やかに済ませる。


 ()して特徴のない貌をした軽装歩兵二名のうち、一人はリグシア侯爵ハイゼルの居城に滞在している老翁(ろうおう)の下へ早駆けしたいとの事で、(ふところ)より差出してきた金貨十数枚と軍馬一頭を交換してやった。


 残る一人が(きびす)を返して素知らぬ振りで戻ろうとした時には、その身柄を拘束する必要性など考慮したが、ニーナも身辺は素性の確かな者達に護らせているだろうと判断して自重した。


 他にも末端の一兵卒として皇統派の密偵が入り込んでいる可能性は高く、虱潰(しらみつぶ)しにするのが現実的ではない以上、(したた)かな老翁(ろうおう)の反感を買うのは避けたい。


『…… 色々と厄介な事柄が多いな』

『それも後少しで終わりだし、ベルちゃんの新兵装(アレ)は使わなくて済みそう♪』


 痛いのはお断りといった感じで後部座席のレヴィアが嬉しそうに呟けば、前方に見える木々の合間で駐騎姿勢を取っていたガーディアの外部拡声器から声が届く。


『まだ一波乱あるかもしれない、余り気を抜くなよ』

『下手に言及したら現実になってしまうわよ、ディノ君』


『時折、稀人まれびと達の口にしている “フラグが立つ” という事象だね』

『流石、お兄様です。見識の深さに感服致します』


 もはやお馴染みの()()りをした藍髪の騎士とリーゼが露払い役のため、自分達の騎体を立たせて漸進(ぜんしん)させるのに呼応し、仲睦まじい銀髪碧眼の兄妹らも双剣仕様のベガルタを駆動させて追随(ついずい)する。


 それに寡黙なザックスや、猪娘なレインの駆るスヴェルF型などが続き、俺達も隊列中程で団長騎と肩を並べながら黒銀の巨大騎士(ナイトウィザード)を歩ませた。


 後方は野戦任官で鹵獲(ろかく)品を得た準騎士の数名が固め、敵味方識別(IFF)用に一部塗装を変更したグラディウスにて輜重(しちょう)隊を護衛する形の縦列となり、一足先に()った斥候騎兵隊を追って次の舞台となる中核都市へと騎士国の遠征軍は進行していく。


……………

………

最近は気温と湿度が上がってきましたね。

読者の皆様、体調など崩さぬようにお気を付けてください。


|柱|º▿º*)遅筆ながらもボチボチと更新してます。

宜しければ広告下の評価欄やブクマをポチって応援してやってください♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! 次は弁舌合戦!?
[良い点] フラグは紀元前の物語でも当時不吉とされた行動をとった物語の人物が酷い目にあってますね。 [気になる点] 歩兵連隊とか通常部隊の動向ですね [一言] 更新お疲れさまです 大砲等にライフリン…
[一言] さてさて、どんな落としどころになるか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ