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友誼はあれども、国益に配慮するのは当然

「む~、ちっとも分かってないなぁ、毎度のことだけど! 王都に帰ったら、イザナ様に… ううん、サリエルさんに報告だね」


「ッ、何やら聞き捨てならない台詞(セリフ)だな」


 好き好んで隻眼の魔術師を怒らせ、城内の空き部屋(せっきょうべや)に拉致される趣味は持っていないため、突発的な窮地(きゅうち)に焦りつつも待ったを掛ける。


 動揺する俺を(くみ)(やす)いと見たレヴィアはすずいと身を寄せて、“しょうがないなぁ” といった調子で朗らかに微笑んだ。


「変に誤解されたら面倒だしさ、私も付き添ってあげるよ♪」

「… という事だが、構わないか?」


「ふふっ、条件付きの了承と伝えましょう。差し当たって問題があるようなら、また(うかが)わせて貰いますね」


 (うやうや)しく一礼を済ませ、メイド風に仕立てられた軍服姿の侍従兵が(きびす)を返す。


 樹々の合間に少女の黒髪が消えていくのを十数秒ほど見遣(みや)り、なし崩し的に(もう)けられたニーナとの密談を(かんが)みて、適度な仮眠を取るべく(ねぐら)に向かう事にした。


 そのまま後追いしてきた赤毛の魔導士と歩幅を(そろ)えて進み、整備班員らが張り終えたばかりの天幕へ潜り込む。


 ざっと内部を一瞥して、端側に寄せられていた衣類入り雑嚢(ざつのう)を見付け、枕扱いにして横臥(おうが)すれば右耳の近くでぺちぺちと素肌を叩く音が鳴った。


「私の太腿、柔らかいよ」

「少なくても半刻は眠るつもりだか、良いのか?」


「うっ… だ、大丈夫、疲れたら雑嚢(ざつのう)と交代する」

「あぁ、余り無理はしないでくれ」


 ごろりと寝返りして、敷物の上に愛用のクッションも挟んで座るレヴィアの股座(またぐら)へ、素直に自身の顔を(うず)めて預ける。

 

 (ほの)かな人肌の温もりに加え、髪を撫で付けるような手櫛(てぐし)の心地良さに(あらが)えず、意識が急速に混濁してきた。


((そば)にいても警戒の必要なく、隙を晒せる相手は… 貴重、だな……)


 などと微睡(まどろ)みの中で感謝を捧げていたら身動(みじろ)ぎが生じて、稀人(まれびと)の金型工により開発されたというEOE(プルトップ)式の缶詰を開ける音に続き、微かな柑橘系の香りが漂う。顔には零さないでくれよと、内心で苦笑してから浅い眠りへ就いた。


 なお、取り敢えず果汁被害は受けなかったものの…… 夕食時に姿が見えなかったので、此処(ここ)まで足を運んだロイド達に()()()()起された(おり)、俺の頭を抱えたまま寝落ちした彼女の涎が(えり)元に染み込んでいたのは愛嬌の範疇(はんちゅう)に留めておこう。



 そんな一幕もありながら降って湧いた機会を活かすべく、既に定めた方針の開示を主副団長の二人とも相談した上で、護衛役を引き連れて隣接するゼファルス領軍の陣地へ(おもむ)いた。


 騎士国の遠征隊よりも大所帯な野営地に足を踏み入れて早々、待機していた馴染みの騎士長アインストに案内されたのは自陣との境界に近しい天幕で、掛け布を捲って入れば簡易のテーブルや椅子が用意されており、卓上には胡桃(くるみ)(たら)の干物のような(さかな)と酒類が並んでいる。


「いらっしゃい、二人とも」

「誘われた手前、遠慮なくお邪魔させて貰おう」


「私もご一緒させて頂きますね、ニーナ様」

「えぇ、侍従兵(イルマ)から聞いてるわ」


 先に少々飲んでいた領主令嬢は此方(こちら)の着座に合わせて(トング)を掴み、無造作に置かれたアイスペールより魔法由来と思しき砕氷をグラスへ移して、程良いハーブの香りがする蒸留酒の水割りを作ってくれた。

 

 やや緊張気味なレヴィアも自国で一人前とされる十五歳の年齢は越えているため、続けてラズベリーを原材料にした果実酒など差し出される。


 軽く掲げる形式の乾杯に応じて琥珀色の液体を喉へ流し込めば、女狐扱いされている御令嬢が酔っ払う前にと前置きして、僅かに勘ぐるような視線を投げてきた。


「廻りくどいのは嫌いだから、単刀直入に聞くわ。皇統派の要求は何?」

「唐突だな、どうしてその発想に至ったんだ」


「小都市近郊の戦闘から少し後、皇統派の一団がリグシアの中核都市を経由して、ゼファルス方面に向かったと密偵が報告してきたのに… 誰も来ないじゃない」


 膨れっ面で香草酒を(あお)り、語らずとも連中の訪問先が騎士国側である事を不満気に示唆(しさ)してくる。 


 諸々の事情などフィーネから聞かされている(ゆえ)、嘘の苦手なレヴィアが襤褸(ぼろ)を出さない内に頷き、老翁(ろうおう)との会話を()い摘んで伝えれば(にわ)かに愁眉を曇らせた。


「アルダベルト元老院議長か、また面倒な御仁を……」

「振り上げた拳の降ろし(どころ)は存外に難しいな」


「もうハイゼル卿に(まと)まった騎体戦力は無いけど、膝元のライフツィヒで市街戦に(もつ)れ込む可能性もある。一般兵科の衝突による死者数とか、考えたくないわね」


 物憂げなニーナには悪いが、泥沼のような展開に巻き込まれた挙句、追従して来てくれた兵達の(かばね)を無縁の土地に晒すことが無いよう、遠征隊の対人戦闘要員は最小限に抑えている。


 手を貸すのは巨大騎士(ナイトウィザード)による戦闘のみであり、個人的に友誼(ゆうぎ)を結んだ人物でも、一度決めた公私の線引きは軽々(けいけい)に揺らがない。


 その考えが表情に出ていたのか、ドレスの胸元を強調しつつ妖艶な眼差しで見詰めてきた女狐殿が問い(ただ)す。


「クロード殿は何処まで、私に付き合ってくれるの?」

「はい、そこまでッ、色仕掛けダメ絶対!!」

 

 真面目な()()りに沈黙していたレヴィアが釣られて噛みつくも、単に揶揄(からか)っているだけの相手はしたり顔で微笑み、蠱惑的な雰囲気を雲散霧消させた。

GWも後少しで終わりですね。皆様の休暇が有意義でありますように、働いているエッセンシャルワーカーの皆様はお疲れ様です('◇')ゞ


|柱|º▿º*)遅筆ながらもボチボチと更新してます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 零戦とか航空戦力はひつようですね 震電とかも必要になりますね。 米系統だとP38もいいですね [気になる点] 戦車を是非! 騎士ばかりだと経済逼迫するので安価な支援火器も必要ですね [一…
[気になる点] 先生の持ち味なのかと思いますがタイトル変わり過ぎッス サブタイトルなら何度でも変わって良いと思いますが如何でしょうか? [一言] ありがとうございます(`・ω・´)ゞ 御心使い大変有難…
[良い点] 「はい、そこまでッ、色仕掛けダメ絶対!!」 に爆笑しました。 レヴィアの「私の太腿、柔らかいよ」は色仕掛けというより天然……という理解でいいのでしょうか? いや、素直と表現した方がいい…
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