生まれる時代を間違えたサムライ、大地に立つ
かつて惑星は竜族の物であり、大地は地竜が、大空は飛竜が支配していた。栄華を極め、我がもの顔で世界を席巻していた彼らは天の怒りに触れ、その数を減らして支配者の座から陥落したという。
竜族が排除された事によって頭角を現したのは巨人族であり、大地を踏み鳴らした彼らは巨大都市群を建設して高度な文明を築いたものの… やはり天意に背いて、滅亡へ追い込まれたと古文書には記されていた。
その後、自由気侭な魔獣達の時代を経て様々な亜人種の隆盛が起こり、現状で最も繁栄を誇るのは汎用性に優れた人族である。
ただ、そんな彼らもどこかで選択を間違えたのか、それとも世界の均衡を担う何かの意思によるものなのか、理不尽な異形達の進攻を受けていた。
『ディノ、無理しちゃ駄目ッ!』
『ぐっ、ここで止めないと、一般兵科の被害がまた増えるだろ!!』
全高十数メートルに及ぶ鋼鉄の巨大騎士、クラウソラスの操者席にて、人工筋肉に埋もれた藍色髪の青年が自騎に無骨な鉄剣を構えさせる。
ただ、先んじて獣脚類を模した異形の一匹を討ち取った際の損害は大きく、騎体から血液代わりの赤い魔導液が幾筋も流れており、限界を迎えているのは明白だ。
それ故に同乗する幼馴染の少女が止めたのも仕方ない話だが……
巨大騎士と大型種に分類される異形を避けるような範囲では、武装した自国の歩兵達と小型の恐竜や魔獣が血みどろの攻防戦を繰り広げており、勝手に後退できる場面でもない。
『レヴィ、魔力炉の出力を上げてくれッ』
『もうっ、偶には人の話を聞いてよ!』
ここ数年に渡る “滅びの刻楷” と呼ばれる異形達との戦いの中で、突如出現した英知の結晶である巨大騎士は動力制御と魔法発動を担当する魔導士、躯体を操る騎士の二人で動かす仕組みとなっている。
つまりは一蓮托生なので溜息を吐きつつ、レヴィア・ルミナスは均整の取れた肢体に纏わりつく人工筋肉の神経節を経由させて、クラウソラスの魔力炉に火を焼べる。
『せいぁああッ!!』
「ウガアァアァァア!」
気合一閃、脇構えから踏み込んで逆袈裟の一撃を繰り出すも、僅かな差で対峙する巨大な異形、ディサウルスの鋭い爪により受け止められ、旋回しながら振るわれた尻尾を騎体の頭部に叩き込まれてしまう。
『ッ、うああぁ!』
深く躯体と繋がっている騎士は感覚を共有しているため、重い衝撃を頭に受けたディノ・セルヴァスの意識が飛び、仰向けに倒れた巨大騎士が大きな音を鳴らした。
『ちょっと、しっかりなさいッ』
『う、うぁあ……』
咄嗟の呼び掛けに呻き声が返り、魔導士の少女は深刻な決断を迫られる。疑似眼球による視界の先では勝利を確信したディサウルスが咆哮を上げ、弾き飛ばされた此方に一歩を踏み出してきたところだ。
(これは… もう無理だよね)
ぶるりと身体を震わせながらも、彼女は負傷した幼馴染の強制転送を始める。
自国に配備されて間もない騎体を自在に動かせる適性者は希少であり、もしもの時には魔導士が内部に備えられた短距離転移の魔封石を使い、優先的に脱出させるという軍規上の義務があった。
『嘘…… 魔力漏れ? 魔封石に罅がッ』
思わず祈るように閉じた瞼越しに眩い光が奔って相方の気配は消えたものの、自身に割り当てられた分の魔封石を起動させる余裕も無く、凶悪な大顎が胸部の操縦席を砕こうと落ちてくる。
『ディノ、元気で……』
『なッ、うおおおぉ!?』
諦めて呟いた直後、脳裏に知らない誰かの叫びが響くと同時、騎士を逃がして動かないはずのクラウソラスが真横に転がって、獣脚類じみた異形の噛みつきを躱す。
『え゛、何なの!?』
騎体の人工筋肉に埋もれているため視認できないが、魔力回路を通じて確かにディノとは異なる存在をレヴィアは感じていた。
その誰かは騎体との親和性が良いらしく、ダメージを誤魔化しながら器用に巨大騎士を繰り、ディサウルスから距離を取るように後方へ飛び起こさせる。
『ぐぅッ、この感覚… 機械と一体化している!?』
「グルァアァ!!」
意味不明な状況で迫りくる巨大な怪物に辟易しつつも、俺は振り下ろされた右前肢を反射的に機体の鉄剣で斬り上げて切断する。
生々しい骨肉を断つ感触に一瞬だけ吐き気を覚えたが、実家の剣道場で幾千、幾万回も繰り返して身体に染み付いた術理に従い、返す刃にて襲ってきた相手の胸骨ごと心臓を袈裟に切り捨てた。
『え!?』
『くっ、殺めてしまったか……』
人間、多少の大きさの生き物を仕留めれば心にくるものがあるらしく… 思い悩んだ隙を逃さず、同種なれど別個体の怪物が涎を撒き散らして突っ込んでくる。
『感傷にくらい、浸らせてくれッ!』
悪態を吐いて躱しながら、すれ違いざまの一閃にて喉元を深く切り裂けば、遅れて背後から巨躯の倒れ込む轟音が響いてきた。
「ギィイ、ア……ァッ」
『大型種のディサウルスを一瞬で二体も……』
「好機だッ、ここで一気に押し戻す! 魔術師隊、砲撃ッ!」
「「「おぉおおおおッ!!」」」
何やら近辺で戦っていた将兵らが喊声を上げ、戦域内の主力を失って統制を乱した小型の恐竜や魔獣たち目掛けて、火球や風の刃による猛攻を浴びせていく。
「………… 魔法?」
「ねぇ、貴方…… 誰なの?」
「斑目 蔵人……」
語り掛けてくる相手の言語に覚えがなくとも、何故か脳にしっかりと刻まれており、文法構造も含めて理解できていたので、衒うことなく素直に此方も名乗った。
この物語に興味を持っていただいて、ありがとう御座います!
長編連載の作品ゆえ、物語における区切りだとか、章末などお好きなタイミングで★の応援をもらえると嬉しいです!!