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時を駆けるせーし  作者: 樽の鳥
4/5

四話

アランとは裏が取れていたのだろう。伐採の手伝いの休みを貰った翌日に、ダラ村にいる17人全員を集めて、ガルダンから話があった。


この前の冒険者から聞いた話を確認するために、一度マルゼニウム(自由連合首都)に帰るそうだ。


話次第では、そのまま北方遠征に参戦する可能性もあると、皆の前で発表した。


付いてくる者はいるかと聞かれたので、僕は真っ先に手を上げた。


ガルダンはニヤと笑うと、準備を急げと解散になった。



**********


翌日、早朝であるにも関わらず、村の全員が出発に立ち会ってくれた。


シドルさん(ドワーフ鍛冶屋)からは、胸部の急所を守るブレストプレートとレザーアーマーを貰い、ラーナさん《エルフ調剤師》からは、各種解毒剤とヒーリングポーションをいくつか分けて頂いてしまった。


彼らには、お世話になってばかりで頭が上がらない。


司祭服のミシリアが、ファレ教式の祝福の祈りを捧げ、それを背にガルダンと僕は村を後にした。



**********


目指すは、マゼニウム(自由連合首都)


マゼニウムは、80年程前にマッシリア帝国が建国された。


ヒムのバーミリア島における影響力が高まっている事を危惧し、ドラゴニュート(竜人族)エルフ(耳長族)ドワーフ(怪力小人族)ライカン(月の狼人族)が建設した初の多種族混在を前提とした唯一の街にして、自由連合の首都である。


亜人は、ほぼ例外なく、自由である(束縛干渉を受けない)事に重きを置く。そのため、ヒムが構築している組織的な上下社会とは、根底の価値観とは対照的である。


亜人それぞれの長所が生かされ、ドワーフによる武具を始めとした工業製品、エルフが調合した各種薬、ドラゴニュートの守る堅固な駐屯兵力とライカンによる守られる高い治安。


更にヒム(汎用人)との交易から得た大量の農業製品がそこに加わり、繁栄するのに、理想的な環境があった。


帝国首都に亜人が買い物などの用事で行く事はほとんどなくなり、ヒムに依存しない経済圏を構築した。


マゼニウムは、帝国領馬車道と接続されている。そのため、帝国領にさえ入れれば、馬車を乗り継いで着くことが出来る。


ダラ村から最も近いツゥセル領の狩猟村を僕らは目指していた。


歩けばかなりの距離だ。こんな距離を歩いてまで、聖女ミシリアに会いに行ったガルダンに興味を持った。


「師匠、これだけの距離を歩いてまで、ミシリア様に会いに行かれたのは何のためだったのですか?」


「占ってもらおうとしたのだ。」


「占う?」


「そう、俺は、魔物が出現するようになった理由を調査している。

その原因を占いか何かで突き止められないかと思ったのだ。」


「様々な危険な場所に足を運んだが、原因は分からずじまい。仲間達も死んでしまった。俺だけでできる事は、多くはない。」


そんな話は、この四ヶ月で聞いた事が無かった。


「そんな大事な任務の中で、僕のために四ヶ月も、稽古をつけてくださったのですか?」


「そうだ。それも、聖女ミシリアには、俺が期待している能力は無かったのにも関わらずだ。」


「自分が何をしているのかと思う日々もあったが…

今は、それでも良かったと思っている。後悔はしていない。

俺の勘がそう告げている。」


僕は、ガルダンに僕の死に戻り(ループ)の事を話そうかと迷う。


彼は、聖女ミシリアに力を借りに来た人だ。


僕が力を貸して上げられるかも知れないし、何か聞き出せるかも知れない。


信じてもらえたとして、死に戻り(ループ)には厄介な点がある。


僕にとって死に戻り(ループ)の後の自分は自分である。記憶があるからだ。


しかし、「巻き戻された」人々にとっては、そこの時間軸にいる自分は、今の延長線にいる自分ではない。


一方、ガルダンは、当然の事ながら、「このガルダン」で決着をつけたいのであって、


「次のガルダン」は、自分ではないと感じてしまうものだ。


ガルダンは、特に自分が何かを成すことに拘りを持っている。


時を待とうという結論に僕は、至った。


**********


「止まれ。」


と小さな声と共に、静止のサインをガルダンは僕に出す。


その場にしゃがみ込み、遠くを見ている。

それに習って、僕もしゃがむ。


(俺が行く)


ガルダンが、手で示す。

ようやく、僕にも敵が見る。

リザードソルジャーが、5体だ。


槍や斧を獲物として、機敏な動きと鋭い攻撃を、足並みを揃え、連携してくる知能の高い強敵である。


標準的な個体としての強さは、ヒムより少し強い程度だが、冒険者ギルドによる危険度はAという最高ランクの討伐対象と以前教わっている。


出来れば、ガルダンもここでやり過ごそうとしているようだが、何分と彼らの向かう方向とこちらの方向が近かった。


「|Grrrrrrrrrrrrrr!《突撃!》」


ガルダンは、ドラゴンシャウト(竜の咆哮)を上げると、大剣を掲げ、横から斬りかかって行く。


勢いに乗った鋭い袈裟斬りが、左のリザードソルジャーに襲い掛かる!

槍の柄でガードをしようとするが、槍を吹き飛ばし、右肩から左腹に向かって、深い斬撃が決まる。


他のリザードソルジャーは、すぐにガルダンに襲い掛からず、周囲を少しづつ囲もうと動く。


ガルダンは、囲まれないように後ろにさがりつつ、半円の端にいるリザードソルジャーに横切りを仕掛ける。


攻撃されたリザードソルジャーは、ガルダンの攻撃をガードし、他のリザードソルジャーは、一斉に突きを放っている。


ガルダンは、それを後ろに飛び避けて、なんとか回避する。


息を飲む攻防に、僕は釘付けになっていた。

僕がここで付け入る隙はない。


すぐに決着が付くわけではない。決定的な瞬間を待つ…僕はそう決めた。


ガルダンは、リザードソルジャー達の堅実な連携の前に、徐々に体制を崩しているように見える。

そして、スタミナもどこまで続くか心配だ。


しかし… ガルダンは戦う場所を少しづつ調整し、敵の背が僕の方に向くようにしていた。完全に包囲されないようにけん制しながらだ。


「|Grrrrrrrrrrrrrr!《突撃!》」


ガルダンが咆哮を上げると、リザードソルジャー達は、3方から4体が槍を繰り出した。


(いまだ!)

僕は、茂みから飛び出し、ガルダンと僕の間に居たリザードソルジャーの首を背後から切り落とす!

咆哮の音に合わせた上、敵は攻撃に集中しており、首が落ちる事に気づくこともなかったようだ。


ガルダンは、横払いで槍の3本弾き、横腹に一本が刺さっていた。


槍を弾かれたリザードソルジャー達は、大きくバランスを崩している。


僕は、そのままバランスを崩したもう一体のリザードソルジャーの右足を切った。完全に切断できなかったが、リザードソルジャーは転倒する。


転倒したところに、喉に剣を刺し、僕をトドメをさした。


もう一体はガルダンと二合三号と凌ぐが、上段を受けきれず、槍の得がひん曲がり、逃げようとしたところを背中から斬られて、絶命していた。


僕の方は、残りの一体に対して、守勢に徹し、槍の猛攻を確実に剣で軌道をずらして耐える。敵の攻撃は焦りのあるフェイントを交えない荒い攻撃だ。


ガルダンの方をちらっと見ると、剣を地面に突き立て、傍観の姿勢でいる。


突きを避けて、僕は、踏み込み槍の間合いの中に入る。

槍というのは、間合い内に入られると滅法弱い武器である。


リザードソルジャーは、持ち前の俊敏でその間合いを調整し、アウトレンジから敵を一方的に突く攻勢に優れている。


なんとか距離をとろうと後ろに下がろうとするが、それに肉厚して追いつき、剣を振るう。


追いつくのに精一杯で、鱗の皮膚を貫通した致命傷が入らない。小さい傷を与えていくが、敵の動きは鈍らない。


次の瞬間、敵は大きく後退に飛び退いた!


(チャンス!)


僕も大股で前進し、上段に振りかぶる。


しかし、リザードソルジャーの『背中』から、ガルダンの大剣が生えていた…


あっと思ったのも遅く、剣を振り下ろす前に、別のリザードソルジャーの死体を踏んづけて、転倒し掛けていた。あのまま行けば、僕はバランスを崩したところに痛烈なカウンターを貰っていた…


「油断したな。だが、勉強になっただろう。」


「はい…己の勝ちを確信して、周囲の警戒を怠りました…」


「戦いとは、相手の息の根を止めるまでが戦いだ。

俺がやったように、油断を誘い、勝ちを確信させ、綻びを生じさせる。

当然、それは敵もやってくる事という事。」


「相手の感情的な気迫に負けず、それを逆に突いたところは見事だった。

戦いの殺気に飲まれる奴は、何も出来ないで死んでいくからな。」


リザードソルジャーの討伐換金部位は尻尾の先である。

5つのリザードソルジャーの尻尾とリーダークラスの槍を一本頂戴して、その場を去った。


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