表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時を駆けるせーし  作者: 樽の鳥
2/5

二話

ミシリアは、ゴブリンがどの方向から襲撃してくるかを僕から聞き出し、アレン(ヒムの修行僧)に罠を仕掛けておくようにお願いした。


『夢の中』では、扉を窓から孤児院の中までゴブリンが進入してしまい、ミシリア様を守ろうと、シーダ(幼馴染)が大怪我をしているし、アレンも片腕を失っている。



************


夕方、日が沈んだ直後であった。


鬨の声が、森から上がり、夢が夢でなかった事が証明されてしまった。


多種多様な獲物を片手に、ゴブリン達は、野獣避けの村の柵を潜り抜けてきた。


戦闘要員である僕と、ガルダン(竜人族の冒険者)アレン(ヒムの修行僧)は、肥料用の藁の山に潜んでいた。


ロラ村は、村と呼ばれているが、建物は二つしかない。

修道院と孤児院を兼ねている教会と、汚れる肥料や道具を保管する倉庫だけである。


勿論、教会のほうが圧倒的に大きく、自然とゴブリン達の目はそちらに向く。


扉は、基本木製ではあるが、金属強化された重厚な物で、ゴブリンどころがオーガに叩かれても、壊れない堅固な作りになっている。


今までの小規模な魔物襲撃も、この扉のお陰で耐えれてきた。


死に戻り(ループ)前の襲撃でも、ゴブリンは小窓から入れる事に気がついていれば、教会の中に入られる事は無かったのだ。


ゴブリンは興奮した様子で、教会の扉に群がる。

そのまま、夜でなければ見分けれた簡易な落とし穴に落ち、張り詰めたロープに引っ掛かっていった。


「|Grrrrrrrrrrrrr!《突撃!》」


|ガルダン《ドラゴニュートの冒険者》の咆哮のような呼び掛けを皮切りにして、僕とアレン(修行僧)は、それに自然と体が続いていた。


士気というのは、頭ではなく、体に作用する物なのだなと僕はふっと思っていた。


逃げるゴブリンを追い回し、一体も逃がす事なく、撃退した。


だが、【今回】は、|ガルダン《ドラゴニュートの冒険者》だけが活躍したわけではない。


僕も、五体は仕留めている、初戦の興奮を隠せないでいた。


************


修道院の食堂で、4人は席についていた。シーダ(幼馴染)は、お茶入れをしている。


「それで、聖女殿は、これからどうされるおつもりか。」 


きた。


死に戻り(ループ)前は、この質問に対して、ミシリアは、修道院に残る意思を告げると、ガルダン(ドラゴニュート冒険者)に連れ去れてしまったのだ。


僕とアレンが束になっても、ドラゴニュートにして歴戦の冒険者であるガルダンには、足元にも及ばない。それでも戦おうと僕は覚悟を決めていた。


「ダラ村に避難しようと思います。」


しかし、ミシリアの回答は違った。


「わたくしの我侭に付き合ってくださる方々の命を、無碍にするわけにはいきません。」


「ほぉ、分かればいいのだ。その通り。聖女殿は、人の上に立つ者。下の者の命を優先してこそだ。」


「それは少し違います。ガルダン。」


「わたくしは、聖女です。わたくしの聖務のために、命を投げ出してくださる方は、ベルハラにて、大きく報われることでしょう。ガルダン、あなたも同様です。」


「ほう、それは大変ありがたい事だ。」

ファレ教徒ではないガルダンは、失笑しつつ、皮肉気味に返した。


やや間が空き、ミシリアが沈黙を破った。


「ガルダン、何故、あなたはわたくしを連れ去ろうとしていらっしゃるのです?」


「…… 何のことだ?」


「貴方の正義とわたくしの正義、それをあなたは武力で解決なさろうとしている。それもまた良いでしょう。あなたは、厳しいなりをしていますが、実はとても優しいお方です。


でも、私はそれを望んでいない…仮にわたくしを守ろうとする者たちが犠牲になろうとも。


何故だと思いますか?」


「命より大切な(信仰)があると言いたいのだろう。」


「いえ、違います。」


「それが彼らの望みだからです。」


「わたくしは、沢山の方々に希望を託されてきました。」


「ガルダン殿に、言われるまでもなく、果たして、わたくしにそれほどの価値があるのか?悩んでまいりました。」


「それら全て(希望)を、わたくしは受け入れる事にしました。それがわたくしが聖女である所以です。」


「して、その聖女殿に何ができるというのだ!」


「聖女殿は、ここで祈りを捧げ、死者を葬り、共に悲しみを分かち合う。

確かに、人々の心の支えにはなっておろう。

今回はたまたま襲撃を予期したようだが、俺はこの村を救えたぞ。」


「それは違います。

お手伝いしていただいた事には、感謝申し上げますが、ガルダン殿がいなくても、私達は、守れました。」


確かに守れたと僕も思うが結果論だとも思う。



「しかし、ガルダン様を別の件で、必要としております。」


「言ってみろ。」 


「アシードに剣の稽古をつけて下さいませんでしょうか?」


突然、話の中心が僕になり、驚き、ミシリアを見る。


にっこりと微笑をたたえつつも、目の奥では、火が燃えているかのような熱意に満ちていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ