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8.『We’ll make a secret pact.』

We’ll make a secret pact.(秘密の契約をしようか。)







「アリシア、また失礼なこと考えているな?」


 腕を引かれ顔を上げると、間近にウィルの三次元の麗しい顔があって恥ずかしさに頭に血がのぼる。耳まで火照っていくのが自分でもわかった。

 すぐに離れようとするが、頬に添えられた指が首筋へと移りそれを許さない。


「も、申し訳、ありま、」


「君の謝罪は聞き飽きたな。」


 彼の目が嗜虐的に嗤う。

 ななな、なんか怖い怖い!


「初恋もまだで、そっち系だって……?」


 笑顔で声色も優しいのに、それでも彼が静かに怒っているのだと理解する。

 ええ!?でもゲーム内では冷静で私の断罪の時くらいしか怒るようなことなかったのに!ってまたゲームでのウィルとごっちゃにして見ちゃっていたわ。いや、それは怒ることだってあるよね。それより、顔が近い!

 彼から離れるために胸元を押そうとした手を掴まれる。

 その手を払おうとして強い力を入れるが、一向に離してもらえずそれどころかかなり強い力で握られていて手首に痛みすら感じる。

 数秒そのまま対抗していたが、ふっと力を抜かれてバランスを崩し、その隙に首に置かれた手に引っ張られて彼に被さるようにどさりと崩れてしまう。


「申し訳ありません!」


 ふ、とウィルが口角を上げて、退こうした私の腰に手を回して、膝に乗せるようにして座り直す。

 私は、彼の膝に抱えられて、えっと?と見上げた先でウィルと目が合い硬直する。


「君はワインは好き?」


「それほど好きではありません。」


 イケメンの顔を数センチというところでご尊顔を拝し奉り、思わず真顔になりそう言う。


「はは。一杯くらいは、平気か?」


「あ、はい。二杯くらいまでは、美味しくいただけます。」


 なにを馬鹿正直に。

 後になったらこの時の自分を叱責する。だが、わかってほしい。目の前に前世から推していたイケメンの顔が在ったら、なにも考えられないってことを。


 彼がテーブルに置かれた、この年代にしては最高級に手が込んでいるワイングラスに注がれた、更に最高級の赤ワインを口に含む。

 その一瞬の美しく色気のある動作に見惚れて私はただ呆けるだけだった。そして、ワインを口にしたまま彼はいたずらっ子のような顔で微笑む。


「え?ウ、んっ?」


 美しい推しに見惚れていたのが悪かった!

 口づけされて、ワインが流し込まれて、私は口から零れそうになるその液体を慌ててごくりと嚥下する。

 喉を温かい液体が滑り落ち、鼻腔を強くて芳醇な香りが抜けていく。


「……はっ、っ」


 彼の胸元を強く押して距離を取り、俯いて彼から見えぬように呼吸をする。


「初恋もまだな男だからね。慣れてなくてごめんね。」


 そうウィルは言うが、確実に私の反応を面白がっている!

 絶対さっきの失言に対する嫌がらせだこれ!くそう!


「二杯までは、いけるんだっけ?なら、もう一口はいけるかな。」


 そう言ってウィルがくるりと回した赤ワインをもう一口、含む。


 あああああああああ!ノー!


 と思うが、前世喪女力ではイケメンの顔を間近にして抗う術を持たず、そのまま口づけされ移されたワインを飲み込む。

 彼の口の中で温められた強いアルコールの香りに、いつもよりずっと早く酔いそうになる。

 動揺したまま唇を離された瞬間に大きく息を吸おうとしたその時に、ウィルは私の頭を抱えて更に口づけをする。


「や、」


 顔を背けて逃げようとするが、ウィルの手にすぐに捕らえられて、そうしてまた口を塞がれる。


 やだ、こわい!!


 そう思って彼から距離を取ろうとするが、胸元を手で押しても全く彼は動じなかった。


 ガリッ

「っ、」


 怖いとか羞恥とか色々頭がこんがらがった。

 だがら一瞬、私は単なる令嬢で、彼がこの国の王子様だと忘れていた。


 私から小さく顔を離したウィルの唇に、血が滲む。

 彼はそっと唇を指で撫ぜて、その指についた赤い血を見てから、私に冷静な視線をよこす。

 そして、私がウィルの唇を噛んだのだと今更ながら理解する。理解して、さっと血の気が引いていく。


 おっとぉ!今日二度目の死刑案件発生したぞぅ。

 やっちまったなぁ!


 今日二度目かつ人生で三度目くらいの大きな後悔に見舞われる。(注釈。1.死のうとしたこと、2.先ほど宝石に触れてしまったこと、3.今この至高の王子様の口を噛んだこと。)


「もももも申し話ありませんっ、ウィル様……!!」


 おろおろと彼のその血が出る唇に伸ばした手を取られて、彼の美しい赤い瞳に見据えられて慄く。


「君は謝ってばかりだね。まぁ、いいや。償いがしたい?アリシア」


「え?」


 なにを言われているかわからずに動揺する。


「私に血を流させた罪を償う気はある?」


「あります!」


 勢いよく、ウィルの言葉に頷く。


「そう。」


 にやり、と評したいような魔王のような笑顔をしたウィルに微笑まれて背筋にすうっと冷たいものが走る。


 あれ?なんかやっちまった気がする?


 恐怖心により体を離そうとしたが、逆に腰に回されたウィルの手により力強く引き寄せられ美しい赤い瞳が間近に近づく。


「なら、契約をしよう。」


 そう彼が零した言葉の意味を考えられぬにままに、顎を掴まれて顔を持ち上げられ、あ、これまたキスしちゃうくらい近いんじゃあと思ったときにはすでに唇を重ねられていた。

 口の中に、僅かに血の錆びた味が広がる。

 今度は唇を噛むような真似はせずに、彼の胸元を手で押して抵抗するがびくりともしない。


 ふえええええ!どうしたらいいのよ!?


 ふ、と彼の掴む力が弱って私はその隙に彼の手から逃れて大きく息を吸う、

 助かった、なんて思ったのも束の間で。

 一瞬の安堵の後に、すぐに彼の大きな掌によって彼の目の前へと引き戻される。

 きっと彼を睨みつけるが、ウィルの目が嗜虐的に嗤うのに気がついて、今逃れられたのも彼がわざと力を緩ませたからだと気がついた。

 ぞわりと全身に鳥肌が立ち強張っていく。


 うわぁ、こいつ絶対ドS王子様だわ。


 がくがくと震えそうになる自分を叱咤して逃れようとするも力で勝るわけもなく。

 彼を押しのけようとした手を掴まれ、その手にも優しく口づけを落とされる。


「ウィル様、やめて、っ、……っ、」


 震えるような声でなんとか口にした拒絶の言葉は、重ねられた彼の口へと吸い込まれた。

 前世の自分の経験不足もあって、どうしていいのか本気で分からずにぎゅうと口を強く引き結ぶ。

 けれど何度も唇を重ねられられている内に、呼吸が苦しくなりふっと口を小さく開けて空気を吸い込む。それと同時に、口内に彼の舌が侵入してきて驚きでびくりと体が跳ねた。

 しばらく彼から逃れようとじたばたするが、無理だった。どうにもできずに、呼吸がうまくできずに抵抗する力がどんどんと弱っていく。

 ウィルに口内を貪られて、そうして私の舌を絡めとり自身の口へと導かれる頃には、もう酸素が足りずに頭がひどくぼうっとしている状況だった。

 彼の舌に導かれるままに、私は大人しく彼に己の舌を差し出す。

 そして。

 その舌に、がりっと歯が立てられて体がびくりと跳ねた。


 痛みに頭が醒めていく。

 彼の血ではない、私の舌から流れ出た鮮血の味が口の中に広がる。

 はっきりとしてきた頭で感じた羞恥と痛みに涙が滲む。


「────」


 一瞬、口を離した彼が何事かを呟く。

 呟かれたその言葉は我が国のものではなくて、何かの呪文のようだと荒く呼吸をしながら思う。


「んっ、」


 再びキスが落とされて、触れた唇から体に()()が入りこみ驚く。

 何かのエネルギーのようなそれは、あの宝石に触れたときに似ていた。

 火花を纏った糸がなにかを確かめながら私の体を隅々まで走り回り、結ばれていく。

 足先や手先まで走っていたそれが、しばらくすると最後に心臓へと目掛けて走り、突き刺さった。


「──っう、っ」


 その痛みに身体が跳ね思わずウィルにしがみつくと、彼はぎゅっと力を入れて私を抱きしめてくれた。

 自分の中に何かが植え付けられたような、仕込まれたような感覚。

 ただ、そう感じただけで何をされたのかは全く分からない。

 彼がなにかの目的を達したかのように、私を膝から降ろす。


「い、ま。何か、」


 しましたよね?

 は、と荒い息を吐きながらそう問いかけようとウィルを見ると、先ほどの嗜虐的な目はなりを潜めて、目を弧にして上品に微笑んで見せる。


「王家に伝わる、契約だよ。君を守るためだ。」


 そう言われても、全く一向に理解はできない。

 ウィルはそれ以上は言う必要がないとばかりに、口を閉ざして私を撫でる。










"make a pact"で「契約を結ぶ、約束する」とかですね。

『Let's make a pact.』(約束しよう。)とか、『I made a pact with god.』(神に誓ったの。)など。


無理に飲ませたりキスしたりはだめですよ。って急にキスシーンとか出して申し訳ありませんm(_ _)m 単に作者がシーンを書きたくなっただけという(汗)

お付き合いいただきありがとうございます!

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