第1円 転生
1話目更新いたしました。
ハルトの目の前でしくしくと泣く少女。
その泣き方には痛みや苦しみといった負の感情は全く感じられない。
例えるならば感動的テレビ番組を見た時に流すようなすすり泣くような泣き方だった。
ハルトは少し声をかけるか悩んでいたが
「ねぇ……なんで泣いてるの……?」
驚かせないように優しく話しかけたのだ。
「あなたがかわいそうで……かわいそうで……」
「そうなんだ……」
(ん?僕が……かわいそう)
「えっ?僕が?何で?」
思わず口に出してしまった。
「だってあなたの悲劇があまりにも…………」
そう口に出そうとした時、またしくしくと少女は泣いてしまった。
「まってまって。君は僕がどうなったか知ってるの?」
ハルトは少女がこの状況の何か知っていると見て問いかけた。
「あなたは……死んでしまったのです」
少女が力なくそう答えるとハルトは硬直してしまった。
(えっ僕死んだの……そういえば移動販売中に……トラックが前から……あれ?…………ほんとに……?)
「僕死んだの……?」
ハルトは頭の中に流れ込む自分が死んだという現実を理解してしまった。
「はい……申し遅れました。私は女神エルミスです。慈愛の神を任されております」
「えっ!女神様……じゃあ本当に……俺は……」
自分の中での理解、他者からの理解この2つにより今の状況は事実であると証明されたのだ。
「私はあなたとあの少女のお話が好きでした。甘酸っぱく、それでいて芳醇な……これからも見ていきたいと思っていました」
エルミスはハルトと少女の出会いから今までをずっとここから見ていたという。
(僕達がテレビ番組とか映画を見る感覚と同じなのかな……)
ハルトはそう思いながら女神が泣いていた理由を聞いた。
「なんで君は泣いていたの?」
「だって……あなたはあの少女に追いつくために毎日きつい仕事をしながら睡眠時間を削ってまで勉強してたのですよ……なのに……なのに……」
(まあそればかりは運命だからしかたないとしてもそこまでいうなら女神の力かなんかでなんとか出来なかったのかな……)
「すいません。私の力はイシアにしか効かないのです……」
イシアとは異世界のようでハルト達の世界とは別の世界線に存在している。
「そっかーしょうがないよね……それなら……なんで心の声聞こえるの!」
エルミスはポカンとすると
「あぁ!女神は心が読めんですよ!これで悪い人達を見分けてどこに送るか決めるんです」
「送る?」
「はい!!地球でいうところの天国や地獄だと思ってもらえたらいいです!!」
どうやら女神様=閻魔様みたいだ。
「それで……僕はどっちなんですかね……」
ハルトは恐る恐る質問をした。
「あなたにはイシアに行き、お金を稼いで貰います!」
「えっ?何でですか!僕死んだんですよね?!」
ハルトがそう言うとエルミスは
「実はですね……なんと言いますか……私……やっぱり続きが見たいのです!!」
ハルトはまたポカンと口を開けている。
「私!どうにかしてあなたとあの少女の結末を見たいのです!!なのでお父様にあなたが異世界で億万長者になり、イシアにとって価値ある人間だと認められれば元の世界に蘇生して欲しいとお願いしました!」
「待て待て待て待て待て待て……なんで億万長者なんだよ!魔王倒すとか世界救うとかじゃないの!?」
「そんなのありきたりで面白くないじゃないですか!それにあなたならお金稼ぎが向いているのではと思います」
(もしかして……バイトで移動販売やってたからかな……あれはたまたま俺が免許持ってて、それなりにお客受けがよかったから任せられただけなんだけど……)
ハルトは大学に落ちてヤケクソになってバイトをした技術と持ち前の愛想の良さで地域の方々の評判はよかったのだ。
「そろそろ時間ですね……それでは祝福を与えたいと思います……あなたにはそうですね……やっぱりアレですよね……」
「えっちょっと待って!まだ心の準備が……」
「それではいってらっしゃいませ」
女神はそう言うとハルトに手をかざし、呪文のような言葉を口にした。
ハルトは意識を失うとイシアに転生されてしまっのだ。
どうぞよろしくお願いします。