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第七章  突入

 ロイ達は、戦闘の反対側で、こっそりと鉄条網を破り、基地内に侵入していた。

「大丈夫、シェリー?」

 ハイヒールが歩きにくそうなシェリーをエリザベスが気遣った。シェリーは苦笑いして、

「平気、平気。心配しないで、エリー」

と作り笑いをして言ったが、本当は今すぐにでもハイヒールを投げ捨てたい気分だった。それに気づいたロベルトが、

「おい、足手まといになるなら、置いて行くぞ」

と冷たい事を言い放った。するとシェリーはハイヒールでロベルトをポカンと殴りつけ、

「ふざけんじゃないわよ!」

「ってえなっ!」

 ロベルトは涙目で言い返した。シェリーはヒールを両足ともボキッとへし折ってしまい、踵のないハイヒールを履き直した。

「これで何にも問題なくなったよ。サッサと行くよ」

 シェリーは先頭に立って歩き出した。ロイとエリザベスは顔を見合わせてそれに続いたが、

「おい、待てよ。危ねェぞ」

とロベルトはシェリーを押しのけて一番前に出た。

「おや、こっちに走って来る車があるぞ」

 ロイが前方を指差して言った。ロベルトもそちらに目をやり、

「ホントだ。何だ、あいつら?」

 走って来るのは、軍用車両で、ホロの掛かっていない四駆車だった。四人の兵士が乗り込んでいるのが見えた。

「もしかして、目的地は俺らと一緒って奴か?」

 ロイが呟いた。ロベルトがギョッとして、

「作戦変更で、クロノス発進なんじゃねェか? まずいぞ」

「そういうことか」

 ロイは肩にかけていたリュックサックを下ろし、中から何かを取り出した。

「何だ、それ?」

 ロベルトが尋ねた。ロイはニッとして、

「ロケット花火だよ。連中に見舞ってやるのさ」

「なるほど」

 ロイがポケットからライターを取り出したのを見て、エリザベスが、

「ロイ、貴方、また煙草吸ってるのね?」

と大声を上げた。ロイはうるさそうにエリザベスを見て、

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?」

「だって..... 」

 ロイはエリザベスを無視して、花火を一緒に持って来ていた缶ビールの空き缶に指し、点火した。

「ああっ、ビールまで飲んでるの?」

「もういい加減にしてくれ、エリー!」

 火を点けられた花火は、勢い良く飛び立ち、四駆車に向かった。

「何?」

「敵襲か?」

 いきなり前方から、火の塊のようなものが飛来したので、四駆車に乗り込んでいる兵士達は、肝を潰した。

「う、うわっ!」

 運転していた兵士がロケット花火をかわそうとして急ハンドルを切ったため、四駆車はクルンと横に一回転して、後ろ向きに近くのバリケードに突っ込んでしまった。

「よし、やった、今だ!」

 ロイ達はすぐさま格納庫に走った。

「あれだ、あれ。あの中にクロノスがあるんだ」

と走りながらロベルトが指し示したのは、何棟か並んでいる格納庫のうち、真ん中のものだった。

「さっきの車が走り出したよ」

とシェリーが大声で言った。ロイは、

「もう一発見舞ってやる!」

とロケット花火を10本ほど束にしたものに点火した。今度は本当にロケットランチャーに見間違えるような勢いで、花火が四駆車に飛んで行った。

「わーっ!」

 またしても四駆車はバランスを失い、今度は縦にゴロンと回り、腹を出してしまった。

「よし、成功だ」

とロイが言うと、ロベルトが、

「おい、ロイ、ここは電子ロックなんだ。頼むぜ」

「了解」

 ロイはリュックサックからパソコンを取り出し、コードをロックとつないでキーボードを超高速で叩き出した。

「あっ、あいつら走って来るよ。やばいよ!」

とシェリーが金切り声を上げた。エリザベスはロイに、

「大丈夫、ロイ?」

「ああ。余裕だよ」

 ピーッという信号音がして、ロックが解除され、鉄の大きな扉が開いた。その様子を走りながら見ていた兵士の一人が、

「バカな、電子ロックを破りやがったぞ。あいつらガキだろ? どうなってるんだよ?」

「最近のガキはあなどれないぞ」

と別の一人が言った。四人は顔を見合わせて、走る速度を上げた。

「来るぞ!」

「平気だよ」

 ロイはエリザベスを最後に扉の中に引き込むと、ガシャーンと扉を閉じた。

「くそっ!」

 四人の兵士は、ほんのタッチの差で閉め出されてしまった。

「司令部に連絡しろ。クロノスの格納庫に、四人のガキが侵入したと。戦力の大半をこちらに回して、クロノス奪取を阻止されたしと!」

「はい」

 一番の下っ端らしき男が、無線に必死に叫んでいた。


 格納庫の中は真っ暗だった。窓がないのだ。

「ほいよ」

とロベルトがサーチライトを点灯させた。

 そのライトの明かりの中に浮かび上がったのは、漆黒の巨大な戦闘機だった。

 それは戦闘機と呼ぶには、あまりにも巨大で、むしろ小型の駆逐艦といったサイズのものだった。スキュラと呼ばれる特攻機が、やはり小型艦クラスの大きさであったが、クロノスはそれより大きかった。

「こんなものが、空を飛ぶのかよ。船だぜ、まるで」

とロイは溜息混じりに呟いた。

 エリザベスとシェリーは、その異様な形の戦闘機を見て、言葉を失っていた。

「こんなものが空を飛んで月まで行ったら、間違いなく月は、昔の姿に戻っちまうな」

とロベルトが言った。シェリーがやっと、

「ホント。つくづく、人間て恐ろしい生き物だよね」

と声に出した。エリザベスもジッとクロノスを眺めていたが、

「そうね」

とだけ言った。ロイは、

「さてと。こいつを動かしてここから脱出だ。多分今頃、この格納庫は軍に取り囲まれているだろうからな」

「そ、そうだな」

とロベルトはロイを見た。シェリーとエリザベスは顔を見合わせて頷いた。ロベルトがリュックサックから操縦マニュアルを取り出して、ロイに渡した。ロイはそれをパラパラとめくり、

「ここが入り口のようだ」

と大きなレバーを引いた。するとエアロックが開き、中が見えた。

「さっ、乗り込むぞ」

 ロイが先頭で中に入った。続いてエリザベス、シェリー、そしてロベルトが後ろ向きに入り、エアロックは閉じた。


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