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95:なんでやねん

 円城寺は周と智哉、物理的な距離の近い方から2人の顔を順番に見つめて言う。

「角田に恨みを持つ人物……それこそ、数え上げればキリがないほどだが……このタイミングで事件が起きたことからして、比較的最近の出来事ではないかと睨んでいるようだ」


 ずっと黙っていた智哉が、口を開いた。

「円城寺君、どうして流川なんかにいたの? あそこには近づくなって、校則で決まっているはずだよね?」

 そう言えばそうだった。

 しかし円城寺はこともなげに、

「……母を迎えに、だ。あの日は夜半に雨が降ると言っていたし、夜が遅くなればなるほど危険度が増す」

「お母さん?」

「流川のキャバクラでホステスをしている」

 そ、そうなんだ。


 円城寺は眼鏡のつるをくい、と持ち上げ、

「それと……余計なお世話かとも思ったが、周。君の力になれないだろうかと考えたというのもある」

「俺の……?」

 いったいなんだ?

「実は母から、何度か町で君のお兄さんらしき人物を見かけたという情報を得たのだ。もしかすると、お義姉さんとの協議に何かしら有利になる情報を得られないかと……」


 それはつまり兄に不貞行為があったかどうかとか、そういうことだろうか。

 あまり期待はできない気もするが。

 それでも、周は素直に嬉しかった。


 まさか円城寺がそこまで考えていてくれたなんて。

 ただ、今このタイミングで、智哉の前でその話はちょっと。ちらりと親友の様子を伺うと、彼はどういう訳か青い顔をしていた。


「ちなみに。僕も先日、君のお兄さんを見かけた……」

「え、そうなの?」

「石川秀則教授……今は、県会議員の先生だ。その人と一緒だった」

 誰だそれ、と思ったが黙っておく。

「なお、その先生は……ああ、やめておこう。ところで周」

「……何?」

 

 がらりと空気が変わる。

 なぜか妙に緊張感を強いられた。


「君はお兄さんとの関係、良好なのか?」

 なんで急に?

 周は少し困惑したが、とりあえず当たり障りのないことを答えておく。

「別に、顔も見たくないほど憎み合ってもいなければ、いつも一緒じゃなきゃ嫌だっていうほどでもないぞ」

 いつも一緒にいてベタベタするような関係でもないし、そうかと言って顔も見たくないほど険悪な訳でもない。

 もっとも顔を合わせることさえ少ないのだが。


「自分がお兄さんからどう思われているか、考えたことは?」


 一度もない。賢司は周が藤江の家に引き取られた頃からずっと優しかった。

 血のつながらない彼の母親が周を疎んじ、手でも口でも攻撃してきた時、兄はいつも庇ってくれた。


 たとえ半分しか血がつながっていなくても家族として、弟としてちゃんと認めてもらっていると、周はそう確信していた。それを疑ったことは一度もない。


「ないよ、そんなもん」

「そうか……」

「何なんだよ?」


 円城寺はしばらく悩んだ様子を見せた後、口を開く。

「実は君のお兄さんが、さっき事情聴取に来ていた刑事とその相棒と思われるもう1人に……君が先日、角田とトラブルになったことを話していた」

「……え?」

「僕は少し離れた場所にいたのだが、どうも……こう言ってはなんだが、君のことを疑うよう進言していたようにしか聞こえなかったのだ」


 どうして?


 頭の中では何度もその単語がグルグル回るのに、声に出そうとするとなぜかつっかえてしまう。


「初めは僕の考え過ぎかと思ったのだ。しかし、その後……刑事達も同じ意見だったことがわかった。幸い、彼らは君のことをよく知っているみたいで、鵜呑みにはしていなかったようだが」


「なんで?!」

 周の代わりにそう叫んだのは智哉だった。

「どうしてそんな、酷いことするの?! 周は賢司さんの弟だよ!! たとえ、半分しか血がつながっていないとしても……」


「智哉、落ちつけよ」

「そんなのおかしいよ!! わざわざ、周が疑われるような……」

 智哉はフラフラと、室内の一番奥にあるソファの手すりに腰かけた。


「余分なことかと思ったが、黙っているのも何か申し訳ない気がして。なお、僕の判断が吉か凶なのか、そこは君に判断して欲しい。そして何かお兄さんとの間でトラブルがあるのだとしたら、早めに解消した方がいい。」


 そんなこと言われても。


 今の周にはただただ、困惑……それしかなかった。


挿絵(By みてみん)


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