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91:母性本能

 その後も境港市内を巡って、猪又のかつての同級生を探したが、見つかったのはほんの3名ほどだ。

 その上、土産物屋の女性から聞いた話以上の情報は得られなかったという結果に終わる。


 しかしすべての人物が共通して語ったのはやはり、猪又も中原優香里も金銭への執着心が強かったということだ。

 2人揃って【金の亡者】などと、いうありがたくない呼称をつけられていた。


 そうして初めて踏む鳥取の地で、広島の刑事達は一泊することになった。


 ※※※※※※※※※


 和泉と駿河は鳥取へ旅立ったし、日下部とうさこは被害者、角田道久の交友関係を洗っている。

 聡介は資料に目を通しながら、今後、どういう方針で捜査を進めて行くかを考えていた。


 被疑者少年の取調べは別の刑事にバトンタッチした。とてもではないが、付き合いきれない。


 相変わらず意味不明の言動。それでいて、何者かに頼まれたのだと繰り返す。

 その【何者】がわからなければ意味がない。


「戻りました~」

 うさこの声だ。

「おかえり。どうだった?」

「いや~……もう、散々って言うか……ねぇ?」

角田(ガイシャ)あちこちで恨みを買っていたようですよ。何しろ父親が銀行の支店長だかなんだかで、随分と偉そうにしていたらしいです。しかも息子の通っている学校に多額の資金援助をしていたとかなんとかで、まぁ、やりたい放題だったみたいですね」

「そうか……」


 私立の学校は法人として【経営】して行かなければならない。だから、資金援助してくれる相手の息子を粗末には扱えまい。


「今のところ、ガイシャといつも行動を共にしていた生徒の名前を2名ピックアップできました。今からでも、事情聴取に行きますか?」

「……そうだな。そこは、友永に任せた方がいいだろうな」

「ああ、友永さんって元少年課でしたもんね」


「でも班長、友永さん……最近ちょっと様子が変じゃないですか?」

 日下部が声を潜めて言う。

「……そうか?」


 実は詳しい事情を、聡介は聞いている。ただ。本人から、仲間達には明かさないで欲しいと言われている。


 別れた妻が連れて行った1人息子が病気で亡くなった。

 でも、あいつら(仲間)に気を遣われるのはまっぴらごめんです。


「とにかく、お前達も少し休め。特に日下部。お前は今夜ぐらい家に戻って、嫁さんと夕飯でも食べて来い。そもそも今日は祝日だぞ?」

「はぁ……でも」

「家族サービスしようと思ったら、肝心の家族がいなくなってた、なんて言うのは笑い話にもならんだろう?」


 日下部は少し悩んだ末に、

「じゃあ、すんません。今日はこれで……」

 大きな背中を見送った後、聡介は若い女性刑事に声をかけた。


「うさこ、お前も少し休め」

「私はあと少し、報告書を仕上げたら……」


 そこへなぜか友永がやってきた。

 確か今日、彼は息子の葬儀の日だったはずだ。


「お前、どうしたんだ? 今日は……」

「仕事に決まってるじゃないですか。こう見えても、刑事の一人ですぜ?」

 

 言いたいことはいろいろ頭に浮かんだが、今は、彼の思う通りにさせてやろうと聡介は考えた。


 ほどなくして、報告があります、と友永が小さな声で伝えてきた。

 聡介はうさこに聞こえないように、会議室の隅に移動した。


「……ガイシャの交友関係ですが。いや、正確には恨みを買っていた相手について……です」

「多数、該当がいるらしいじゃないか?」

「そうです。その件で……」と言いかけて、彼は部屋の中を見回す。


「葵の奴は……ああ、そう言えばジュニアと鳥取でしたっけ?」

「なんだ、寂しいのか?」

 聡介は冗談のつもりで言ったのだが、

「まぁ……だいぶ組んでて違和感がなくなったっていうか。なんでしょうね。あいつ、妙に母性本能を刺激するんですよ。俺ぁ、男ですが」

「わかる気がするな……」


挿絵(By みてみん)


 その時、聡介の携帯電話が鳴った。

「ああ、彰彦か。どうだそっちは……何?」


 中原優香里という女性について至急調べてくれ、との依頼だ。

 聡介はメモを取ってパソコンの前に座った。


 ふと、画面が切り替わるまでの待ち時間、聡介は友永の顔を見た。 

 なんとなく様子がおかしい気がする。


「友永……何かあったか……? 確かに今日は普通じゃない日だっただろうが……」

「え? ああ、いや……まぁ、ちょっとしくじっちまいまして」

「何をだ?」

「ガキの扱いには慣れているはずだったんですがね……」


 彼はポットから温かいお茶を2人分入れて、聡介の隣に腰かけた。

「今のガキどもは、俺達みたいな中年にはわからない機械を駆使して、独自のネットワークを持ってるんです。俺も班長も、これイマイチ苦手でしょう?」

 と、友永はパソコンを指差す。

「そうだな。高校生にもなればもう、誰もかれもがスマホを持っているらしいな」

「スマホって言うやつは……親に見られることなく、了承を取らなくても、何でもできる便利な機械です。こいつを殺した奴は【頼まれ】て、わざわざ茨城くんだりからこっちにまで出向いてきた。誰が依頼したのか、自分なりに探ってみようと……いや、あの子が無実だってことをどうしても証明したくて……焦っちまいました」


「あの子?」

「智哉っていって、俺の……亡くなった息子と同じ名前の……」

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