84:未成年を飲み屋に連れて行く警察官
「おい。何なんだ、あの男は?!」
「わかりません……」
友永は完全に憤っており、駿河も他に答えようがなかった。
「待ってください!!」
後ろから先ほどの、不審な行動をしていた少年がこちらに走ってくる。
「僕は円城寺信行といいます。藤江周の同級生で、友人です。今のは……もしかしなくても周のお兄さんですよね?」
「違うな」
友永の返答に駿河は驚いてしまう。
「あんなこと言う奴は、家族でも身内でもねぇ!!」
「お怒りはごもっともです。しかし……」
「もしかして君は知っているのか? その、周が関わったトラブルというのを」
思わず駿河は口を挟んだ。
「ええ。何しろ原因はこの僕なのですから。お2人は周のお知り合いですか?」
「そうだ。詳しいことを話してくれ」
周のことが心配でたまらない。
駿河は少年の腕をがっしりとつかんだ。
「なぁ……お前も一緒に来るか? 安い飲み屋だけどな。おふくろさんの仕事が終わるまではまだ、かなりの時間があるだろう」
※※※
煙草の煙と、焼き鳥を焼く煙が充満した店内は、空気そのものが淀んでいた。
こんなところに未成年を連れて来ていいのか、と駿河は危惧したが、円城寺と名乗った少年はまったく憶した様子もない。
彼を挟むようにして3人でカウンター席に座る。
友永はここを出たらもう帰る気満々のようで、生ビールを注文する。駿河と少年はウーロン茶を頼んだ。
「実は……学校からの通知があったのも確かですが、僕も母の持つ独自の情報ネットワークから、昨日、ライブハウスで殺害された被害者が角田……僕達の同級生であることを知りました」
「まぁ、この町で働いてりゃそうだろうな」
気になることがいろいろあったが、この際は黙っておこう。
「母が心配していたのは、僕が角田に対して動機を持っていると、警察から疑われることです。聞けば現行犯逮捕だったということですが、誰かに頼まれたというような供述をしているそうですね?」
「……なんで知ってるんだ……?」
「そこはあまり突っ込まないでください」
確かに、今はそれどころではない。
「お前さん、奴にイジメられてたのか?」
「……いいえ。僕は全く相手にしていませんでしたので、正確に言えば角田の一人相撲といった方が正確でしょう」
変わった子だな、と駿河は思ったが、友永は笑っている。
「お前さん、ほんとに17か?」
「よく言われます。しかし、僕がそう考えていたとしても、まわりはそうは見ないでしょう。現に周は、僕が角田達に絡まれ、下品な言葉で罵られているのを見て、僕の為に本気で怒ってくれました。その時に彼はつい、角田に手を挙げてしまったのです……」
生お待ち、とビールジョッキがカウンターにドンと置かれる。
ウーロン茶も同じサイズのジョッキに入って出てきた。
円城寺は律義に両手を合わせてから、お茶を一口含む。そして、
「それが……先ほど、彼のお兄さんらしき人物が言っていた【トラブル】の一部です」
「一部……?」
「全容、と言いたいところですが……その事件があった翌日、周は学校を休みました。聞いた話では、角田に謝罪に行った折り、殴られて怪我をしたと……恐らく病院へ行って診てもらったのでしょう」
「怪我の具合は?」
思わず駿河は円城寺の肩を揺すった。
「何も心配はいらない、と言っていました」
ほっとした。
「しかし……僕のような素人が、こんなことを申し上げるのは生意気かもしれませんが」
「今さらだ」
「先ほどの、周のお兄さんを名乗る人物の供述は微妙に……矛盾しているというか、チグハグな感じがしませんでしたか?」
どこがだろう?
現職の刑事である自分が、素人である学生に後れを取るなんて。
そう思ったのは一瞬で、あの男の言うことがあまりにも不愉快だったで、冷静ではいられなかったということにしておこう。
「いいだろう、言ってみろ」
友永は上から目線な言い方をしたが、少年はまるで気にした様子もなく、
「事件のこと、詳しくは知らないと言っていました。でも、事件のあった場所に我々もいた、と」
そうだ。ニュースも新聞も見ていないと言っていたくせに。
「周がとても心優しく、利他的な人間だと言っている割に、すぐに暴力に訴えるようなタイプであるとも……」
確かに彼の言う通りだ。
あの男の発言の裏には、弟に対する侮蔑や憎悪が見え隠れしている。
「やめやめ!! 気分が悪くなるから、もう、さっきの話はもう終いだ!!」
友永はせっかく綺麗に整えた髪を掻き回し、ジョッキのビールを一気に飲み干した。




