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82/138

82:気合い入れて、バンかけいきまーすっ!!

 奢ってやるから、飲みに付き合え。


 コンビを組んでからおよそ半年経過。

 今まで一度だって言ってくれたことはないのに。友永から急にそんな申し出があり、いったいどういう風の吹き回しだろう? と、駿河は訝しく思った。


 その上こちらはまだ仕事中だというのに、友永に無理矢理手を引っ張られ、気がつけば流川の町に来ていたのだった。

  明日からは鳥取まで出張だから、早めに帰って休みたかったのだが……。


 夕方まで降り続いていた雨は止んだ。

 鼻歌を歌いながら少し前を歩く友永の背中からは、なぜか哀愁のようなものが漂っている。


 この頃、相棒の様子がおかしい。

 それだけはハッキリしている。

 班長は詳しいことを知っているようだが、こちらには一切教えてくれない。

 つまり、あまり知られたくない事情があるのだろう。


 夜の繁華街は色とりどりのネオンが客を誘い、1人、また1人と暖簾の内側に吸い込まれて行く。


「給料日前だから、安い店な?」

「……別に、割り勘でかまいませんが……」

「いいから!! 2度目はないんだからな?」

 寛大なのかそうじゃないのか……。


 その時、急に友永が足を止めた。


「どうかしましたか?」

 彼は無言で顎を動かす。あそこを見ろ、と言いたいらしい。

 駿河が視線を転じると、電信柱の影に隠れるようにして、頭にすっぽりとフードを被った男が立っている。手には使い捨てのインスタントカメラ。背格好からしてまだ若いようだ。


 ゆっくりと、足音を立てないように気をつけて近づく。


「ちょっといいですか?」

 駿河が声をかけると、相手はびっくりしたようで、大きく身体を震わせた。

「失礼ですが、そこで何を?」


 初任科の頃のことを思い出しつつ、職務質問の基本を頭の中で確認する。


「恐れ入りますが、フードを取っていただけますか?」

 相手は素直に従い、顔を出す。

 分厚い瓶底のような眼鏡をかけた、若い男性……まだ少年と呼んでいいのではないだろうか。髪型は昭和のオジさんのようだが、肌ツヤは完全に若者のそれだ。


「……警察の方ですか?」

 逆に質問されてしまった。

 少年は自分でもマズイと思ったのか、

「いろいろありまして。もっとも、最重要な目的は母を迎えに来たのですが」

「お母さん……?」

「はい。母はここから100メートルほど先にある『Memoriesメモリーズ』という店で働いております。最近は何かと物騒ですから、仕事が終わった後は必ず迎えに行くようにしているのです」

 物怖じしない、しっかりとした話し方に好感が持てた。が、そうかと言って無条件に解放する訳にもいかない。


「本当にそれだけか?」

 今度は友永が質問を投げかける。

「どういう意味でしょう?」

「人目を忍んだような格好で、カメラなんか何に使うんだ? 探偵の真似ごとか?」


 返答はない。

「母親はホステスか? だとしたら、迎えに来るにはちょっと時間的に早すぎるな」


「……バレてしまいましたか。ええ、そうです。野暮用がありまして」

「何だ? 野暮用って」

「それは……申し上げられません」


 何かある。そう思った時。

「あ、あれは……」少年が不意に呟いて前方を見た。

 駿河もつられてそちらを見る。


 白髪頭の男性が、見覚えのある若い男と2人で歩いている。


「確か、石川秀則いしかわひでのり教授ではないでしょうか? 広島薬科大学で教鞭を取り、時折テレビにも出演される……」

 その名前には聞き覚えがある。何年か前に衆議院選挙に当選して議員を務めたが、解散とともに地元広島に戻った名士である。


 そして隣を歩いているのは。


「こんばんは」

 藤江賢司であった。

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