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81/138

81:3連休なので

 気がつけば車は、自宅のすぐ近くに到着していた。

 しかし、玄関先に見慣れない車が停まっている。


「あの車が出たら、もう少し前に車を出すから。ちょっと待ってね?」

 雨に濡れないようにとの配慮なのだろう。


 ふと智哉が目を上げると、前に停車していた車から母親が降りてくるのが見えた。

 運転席の窓が開き、知らない男性の横顔が彼女に向かって何か言っているようだ。


 ああ、そういうことか……。

 すぐに絵里香の様子を確認する。何も気付いていない様子だった。


 ※※※


 とうてい足のつかない、高い場所の窓を拭いている途中で梯子を外されてしまった。

 そんな気分だ。


 明日の予習をしておこうと参考書を開いた智哉だったが、なかなか頭に入ってこない。


 さっき見かけた男性が今後、自分達の父親になるのだろうか?


 どんな人だろう?


 産みの父をずっと見て育ってきた智哉は、父親に対するイメージが決して良いものではない。

 周は父親に可愛がられて育ってきたようで、たまに父親の話をすると顔が綻ぶ。あまり話題にしないのは、亡くしてしまった悲しみを思い出すからだろう。


 そう言えば子供の頃。平日の昼間から夕方にかけてはいつも一緒に遊んでいたのに、土日になるとお父さんが遊んでくれるから、お出かけに連れて行ってくれるからと、周は智哉と遊んでくれなかった。


 そのことが幼心にひどく羨ましく、妬ましくもあった。


 どうしてうちのお父さんは……。


 やめよう。

 仮に新しい父親ができるとしても、自分はもう上手く距離を取ってやっていける自信がある。問題は絵里香の方だ。


 ただでさえ人見知りが激しい妹が、知らない男性を父親だと紹介されても、懐くわけがないのだ。


 時々ニュースで見聞きする、幼い子供の虐待死事件。たいていは内縁の、あるいは再婚相手の連れ子が言うことを聞かないので、腹が立って暴力を振るい死に至らしめたと聞く。


 溜め息が出る。

 こんなこと、誰に相談したらいいんだろう?


 智哉は思わず手を伸ばし、携帯電話をつかんだ。

 ふと頭に浮かんだのは。


 まだたった1度か2度ぐらいしか会ったことのない、あの中年男性。


 でも……悩んでいると、急に掌の中で電話が震えだした。

 ディスプレイに表示されている名前を見て、智哉は驚きを禁じ得なかった。まさに今、頭の中に思い描いていた本人からだ。


「も、もしもし……?」

『よぉ。あれからどうだ、元気にしてるか?』


 身体は元気だ。

 でも、心も頭も疲れきっている。


『明日も休みだろ、何か予定あんのか?』

 そう言えば今日は祝日で、明日は振替休日だった。

「いえ、特に何も……」


『じゃあ、どっか行くか?』

「え……?」

『妹がいるって言ったな。一緒に連れて来い』


「でも……」


『どこ行きたいか、考えておけよ』

「と、友永さん……お仕事は?」

『刑事ってのは祝日が休みなんだよ』


 本当だろうか?

 日曜も祝日もなく、いつも働いているイメージが強いが。

『ああ、ただし昼過ぎからになるけど……それでもいいか? それまでにどこへ行きたいか考えておいてくれ。ただし、市内でな』


 わかりました、と答えて智哉は通話を終えた。

 どうせ何も予定なんかない。

 

 彼が妹の面倒を見てくれると言うなら、素直に甘えよう。



 ※※※※※※※※※


 明日から鳥取へ出張だ。

 準備のため、和泉はいったん家に車を走らせた。


「どう思いました? 聡さん」

「今の男の子か? いろいろと複雑な事情がありそうだが、嘘を言っているようには見えなかったな……」

「僕もそう思います。ただ、彼が角田に脅迫されていた内容によっては……話が変わってきます」

「そうだな。それにしても……誰かに似ていないか?」

「誰かって、誰です?」

「ほら、あの子……あれ、何て言ったか……」


「あれとかそれとか、指示代名詞が増えるのは歳を取った証拠ですよ?」

 あ、怒らせてしまった。

「えーと、僕も似てるなと思ったんですよね。あの子に……」


「だからあの子って誰だ?」


「……樫原詩織……」

「あ、それだ!! しかし……もし2人の間に何かしらの関係があったとして、何か事件に関わりがあるんだろうか……?」

「そこは何とも……」

 ピピピピピ……何か言いかけた聡介を遮るように、彼の携帯電話が鳴った。


「ああ、友永か。なに……ああ、そうか。わかった……そういうことなら」


 何だろう?

 しかし、聡介はこちらの問いに答えてはくれなかった。

挿絵(By みてみん)


いろいろ、いつもありがとエビっ!!

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