77:腹違いの兄弟
「……何だったんだ? 今のは」
店を出て開口一番、聡介がこちらを振り返る。
「聡さん、どう思いました?」
運転席に座ってシートベルトを締める。
和泉は現在のところ、激しく苛立っていた。
元々嫌いな人間の顔を見たという事実に加え、その言動にもムカつきを抑えきれないでいる。
父は首を横に振る。
「……俺は、少しおかしいのかもしれん」
「何がです?」
「もし俺だったら……俺が周君の兄だったら、って考えてみた。まず、被害者と弟の間にトラブルがあったことを、わざわざ警察の人間を呼び出して話したりしない。むしろ、調べられて突き止められても、知らないフリをする。それが……身内感情ってもんじゃないのか?」
激しく同意。
仮に自分が同じ立場であっても、きっと聡介と同じことを考える。
「聡さんはいたってまともです。あの男が少なからずおかしいんですよ」
「賢司さん……あの人はいったい……?」
「いくら異母兄弟だからって、まるで周君を警察に売るかのような……」
「え?」
「聡さんの『え?』っ、ていうのは、どこにかかってるんです?」
「初めて聞いたぞ。周君と賢司さんは、母親が違うのか?!」
「そうです。ありていに言ってしまえば、賢司氏のお父さんが、婚姻関係外の女性との間にもうけた子供……それが周君です」
聡介は愕然としている。
「……だからなのか、どうりで顔が似ていないと思っていた」
実を言うと和泉はだいぶ前からそうなのではないかと、疑問を感じていた。
確証を得たのは美咲から聞いてからだ。
顔立ちもそうだが、人相というのだろうか。明るくて朗らかな弟に比べ、兄の方は整ってはいるが翳りが強く、ありていに言ってしまえば陰気な感じがする。
「聡さん。今の賢司氏の話、絶対に周君には……」
「言う訳ないだろう!!」
少し、2人の間に沈黙が降りた。
「とにかく、周君に話を聞かなければならないことが増えました。それに。角田とトラブルがあった人間は、他にも何人もいるはずです……」
言いながら和泉の頭に、周の友人である、あの美少年の顔が浮かんだ。
「彰彦? どうした」
「……なんでもありません。とにかく行きましょう」
※※※※※※※※※
「はいゴール!!」
外は雨が降っているので、室内で双六だのトランプだの、大人数が揃うだけあってやりがいのあるゲームを楽しんでいる時だった。
玄関の引き戸を叩く音がする。
「誰が来た!!」
円城寺の弟の中でも一番年長の子供が立ち上がり、1階へと走って行く。弟たちもそれに続く。
もしかして和泉ではないだろうか。さっき、話を聞きたいと電話をしてきたから。
周も立ち上がり、玄関へ出た。
やっぱりだ。
「はぁ~い、周君!!」
「えっ、知り合い?!」
「周君のお友達?!」
口々にガヤガヤと騒ぎ出す子供達。
「違うよ、坊や達。僕は周君のお友達じゃなくて彼氏なんだからね?!」
「かれしー?」
周がなんと言ってツッコミを入れようかと思案しているところへ、
「お待ちしていました」
円城寺が玄関先に出てくる。
「こちらへどうぞ。お前達、2階に上がっていなさい」
彼の弟たちは素直に従い、ゾロゾロと階上へ昇って行く。
それはさながら、働きアリの行列のようだった。




