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76:どんな色だよ?

 あれは何日前のことだっただろうか。猪又の件で聞き込みに回っていた時、和泉が角田道久とその取り巻きの少年達を見かけたのは。


 さらに、彼らの向かった先へ、周も訪ねて行ったのを見かけた。


 直前に聞こえた少年達の不穏な遣り取りから、周の身に危険が迫っていると直感的に予測した和泉は、彼らの後を尾行(つけ)て行った。


 そして案の定……。


 賢司が黙っているので、和泉は続ける。

「原因は詳しく知りませんが、周君のことです。お友達を悪く言われたか、あるいは……何か彼を怒らせることがあったのでしょう。とにかく僕もあの角田という少年に1、2度会いましたが、まるでチンピラでした。何かのきっかけでトラブルになって、周君は奴に呼び出されて……ひどく殴られました」


 あの時は本気で、周の可愛らしい顔に傷痕でも残ったら絶対に許さない、そう考えたものだ。


「そこまでご存知なら、これ以上言わなくても、お察しいただけるでしょう?」

 賢司はコーヒーカップを手に、等分にこちらを見守る。


 表情からも瞳の色からも、相手が何を考えているのか読みとることはできない。

 でも、伝わってはくる。

 強い【悪意】と呼べる感情。


 それは自分達、警察官に向けられたものなのか。

 あるいは……。


 聡介が驚いて息を飲んだのがわかった。


「まさか、あなたは……周君が角田という生徒を……?」


「私はライブが終わったすぐ後、それこそ事件が起きる直前に、周とは別行動を取りましたのでね。あの子がその後どうしたのか把握していません」


「賢司さんはどちらへ?」

「……仕事ですよ。私のことはこの際、関係ありません」

「それはこちらが判断することです」


 段々と険悪なムードになってきた。

 もしかしてこの男は、わざとこちらを怒らせたがっているのではないだろうか。


 賢司はコーヒーカップを口元に運び、深く溜め息をつく。

 溜め息をつきたいのはこっちだ。


「私が懸念しているのは……警察の方が被害者少年と、周との間にあったトラブルを突き止め、弟に疑いをかけるのでは……ということですよ」


 和泉は父の横顔を見た。

 特に大きな変化はない。というよりも、弟のことを本気で心配している、優しいお兄さんだと考えてすらいるかもしれない。しかし。


 和泉にはこう聞こえた。


『どうぞ弟を疑ってやってください』


「……詳しい情報をお伝えする訳にはいきませんが、こちらとしてももちろん、あらゆる可能性を考慮に入れて捜査に当たります。もしかすると周君にお話を伺うこともあるかもしれませんが、その際にはご協力いだだきますようお願いいたします」


 当たり障りのないことを述べて、聡介は立ち上がる。

 和泉も続いた。


 レストランに来て水すら口にせず、何も注文しないで帰るとは。少しだけそう思ったのだが、これ以上ここにいて、この男の顔を見ていたら胸が悪くなりそうだ。

 既に軽い眩暈を覚えている。


 だが。

 一歩踏み出した瞬間、和泉は足を止めて賢司を振り返る。


「ああ、賢司さん。そのネクタイ、とても素敵ですね。よくお似合いですよ」

「……それはどうも」


「排水溝のドブ色って感じで」


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