表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/138

74:おさらいしてみましょう

「今までのことを、改めて整理してみるぞ」


 捜査本部はガランとしている。所轄の刑事達は皆、帰宅するなり、引き続き目撃情報の収集のため出払っているかのいずれだ。

 会議室の隅っこに集まり、聡介の部下全員が顔を合わせている。


「初めに猪又の遺体が発見された、死因は毒物が混入された栄養ドリンクを服用したことによる中毒死。殺人及び誘拐未遂の罪で服役していた猪又は今年の春、刑務所を出所したばかりだった。そんな奴に接触していた人物は保護司の角田幸造、そして……薬研堀通りのバーで会ったという男女の区別がつかない人物……仮にXとしておこうか。そのXが猪又に毒を飲ませた……と」


「しかし、猪又に接触してきたのは保護司とXの他にも、角田道久という高校生がいました。何の目的で会ったのか、我々が当人に事情聴取に向かった矢先……殺害された」


「彰彦、それじゃお前は……2つの事件がつながっていると?」

「そう考えて無理はないと思います」


「皆はどうだ?」

「異論ありません」

「私もそう思います」

「俺もです」


「友永……お前はどうだ?」

「……」

「友永?」

「え? ああ、すんません……俺は出たり入ったりしてたもんで、あまりよくわかってない部分もあります」

 綺麗に剃った顎を撫でながら、彼は答える。


「犯人は猪又に対し、強い殺意を抱いていたと思われる、15年前の事件の被害者遺族は既に亡くなっている。ということは……だ。また別の件で動機を持つ人物がいるということだな?」


「別の事件と言えば」

 和泉が口を挟む。

「出所して間もなく、未遂に終わりましたが、幼い少女を誘拐しようとしましたよね?」

「宇品で起きた事件だったな」

「そうです、周君の友人の妹だと聞きました。そう言えばまだ、その件で本人に話を聞くことができていないのですが……その少女の家族が、腹いせに復讐を考えた……なんてことは……?」


「実害を受けたんならそれもあり得るだろうが、未遂だろ?」

「仮に、の話ですよ。たとえ未遂でも、その少女の心には深い傷になって残ったに違いありません」

「確かにな……でも、そうだからと言っていきなり殺したりは……」

「いずれにしろ、家族に話を聞く必要はあるでしょう」


「まずはバーで接触したというXが誰か、それを特定すべきだと思います」

 駿河が挙手して発言する。


「バーテンダーの話では、漁師かと思ったと言っていたな?」

「ああ、タラと港の話ですね。確かに猪又は鳥取県米子の出身ですが、およそ海の仕事とは関係がなさそうです」

 和泉はパソコンのキーを押し、

「猪又の経歴についてざっと調べてみましたが、米子市内の高校在学中、市内で傷害事件を起こしています。その後中退し、広島に出てきて……某魚谷組系列の会社に入社していますね。借金の取り立てだの、家出してきた未成年を風俗店に引き渡す仲介役……そういう役回りをしていた……まぁ、生活安全課の敵ですね」

 そう言って友永の方を見つめて笑う。


「……なんだ、ジュニア。俺を疑ってんのか?」

「まさか。友永さんは元、生安でしょ。今は立派な刑事です」

 友永は鼻を鳴らしてそっぽを向く。


「さて。僕がもっとも気になるのは……Xはもちろんですが、猪又が出所後に接触した人物達について、です。ねぇ、日下部さん」

 いきなり話を振られた日下部は、

「え、俺?!」

「もし日下部さんが刑務所に入ってたとして、出所後すぐ、誰に会いに行きます?」

「……なんで俺をそういう例えに使うんだよ」

「いいから」

 と、彼を窘めたのは和泉ではなくうさこの方だった。


「……そりゃまぁ、嫁さんだろうな」

「とっくに離婚されてると思いますけど?」

「和泉、てめぇはよー?!」

「落ち着いて。他には?」


「……生きていれば、家族だろうな。とっくに勘当されてるだろうが」

「僕もそう思います。調べたところ、猪又は両親も兄弟もなく、婚姻歴もありません。そんな孤独な男が、誰かを頼るとしたら……?」

「保護司だろう?」


 すると和泉は頬を歪めるような笑い方をした。

「ま、仕事と住まいを与えてくれるという点では頼りになったでしょう。しかし、思い出してください。猪又の性癖……」

「ロリコンか……」


「猪又の部屋には最新型のパソコンがありました。いくら充分に稼いでる保護司だからって、そんなものをプレゼントする訳がない。そもそも盗人に追い銭ですよ。ネットを駆使して獲物を狩り放題です」


「つまり彰彦、お前が言いたいのは……猪又には誰か強請ることのできる相手がいた、ということか?」

 聡介が訊くと和泉は、今度はにっこり笑って、

「さすが聡さん!!」


「……その、強請られていた相手が、猪又に毒を飲ませた……と?」

「仮説ですけどね、いかがでしょう?」

 反論する者は誰もいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ