表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/138

72:お呼び出し申し上げます

「ねぇ、周」

「なに?」

「そう言えばさ、夏休みに会った時……こんなこと言ってたよね? 『誰が嘘をついていて、誰が本当のことを言っているのか、どうやって見極めるのか』って」

 そうだったっけ? と、友人は不思議そうな顔をしている。


「結論は出たの?」

 周はペンを置き、真剣な表情で答えてくれた。


「結局のところさ、自分の目と耳で見聞きしたことだけを信じることにしたんだ。誰かがこう言ったとか、ああ言ったとか、そういうのは一切抜き。何を信じるか、それは俺が決めることだってわかったから」


 智哉は微笑んだ。

「だからなんだね、最近、お義姉さんと仲良さそうなのは……」

「え?」

 イマイチ意味がつかめない。そんな表情をしている友人に、智哉は本当のことを打ち明けたくなってきた。


 しかし、その時だ。

 携帯電話の着信音が響いてジャマをしてくれた。


 ※※※※※※※※※


 智哉は何か言いたそうな顔をしていたと思う。

 元々、おしゃべりなタイプではなく、深く考えてから発言する親友のことを周は深く信頼していた。


 しかし今は、発信元を確認することに集中しよう。ディスプレイに表示されているのは円城寺信行の名前。そうだった、さっきも電話があった。

 ごめんな、と断りを入れておいてから通話ボタンを押す。


『周か? 僕だ、円城寺だ』

「どうしたんだ?」

『突然で申し訳ないが、篠崎君の連絡先を教えてもらえないだろうか?』

 周は思わず、智哉の顔を見た。


「智哉なら、今、俺のすぐ隣にいるけど……代わろうか?」

『ああ、そうしてくれるとありがたい』

 周はスマホを智哉に渡した。


「……うん……そう、え……今から……?」

 友人はチラチラと、義姉と彼の妹がいるであろう台所の方を見ている。

「……わかった、いくらか待たせるかもしれないけど」

「……信行はなんて?」

 周がスマホを返してきた智哉に訊ねると、

「……角田の事件、彼も聞いたみたいだ。その件で少し、話したいことがあるって言われて……彼の家と僕の家は幸い、同じ町内だから。帰りにでも寄ってみるよ」

「そんな呑気なこと言ってていいのかよ?」


 その時だった。

「お待たせ~、おやつできたよ~」

 美咲の声が聞こえた。

 甘くて香ばしい匂い、焼き立てのクッキーなのだとすぐにわかる。


「義姉さん、緊急事態なんだ。ちょっと連れて行って欲しい場所がある」

「周……!!」


 実は先ほどから、雨が降り出していた。

 どう友人を送ってもらおうと考えていたついで、だ。


「俺も一緒に行く。俺だって、まったく無関係って訳じゃないし。信行には話したいこともあるんだ」

「いいわよ、行きましょう? そしたらこれ、お土産に包むから少し待っていてね?」


 阿吽の呼吸とでも言うのか、多くを語らずともすぐにわかってくれる彼女に、周は心からの安心感を覚えていた。

 智哉はやや、困惑した顔をしている。


「信行の家には、確か絵里香ちゃんと同じぐらいの歳の子がいるよ。仲良くなれるんじゃないか?」


 ちなみにその幼い少女は、猫を追い回すのに必死で、こちらの会話など耳に届いていない様子だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ