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71/138

71:実は3連休でした

 今日は朝から曇り空で、今にも降り出しそうだ。

 それなのに母は妙に機嫌がいい。


「智哉、ちょっと出かけてくるから絵里香のことよろしくね?」

「……仕事?」

「まぁ、そんなところね」

 

 どういう仕事をしているのか知らないが、母は時々めかしこんで、休みの日に出かけていくことがある。いわゆる【接待】なのだろうか。

 知りたいとも思わないが。


 不安そうな顔で母親を見送る妹と見ていると、少なからずやるせない気持ちになる。彼女だってきっと、もっと一緒に時間を過ごして欲しいに違いないのだ。


「絵里香、どこかお出かけする?」

「……うん」

 といっても、せいぜい近くのショッピングモールぐらいだ。雨が降ってきたら面倒だな、と思っていた矢先のことだ。

 携帯電話の着信音が鳴り響く。周だ。


「もしもし、周?」

『智哉か? 昨日の事件……詳しいこと知ってる?』

「昨日の事件って、ライブハウスの? 僕は何も……」

 昨日、自分達がライブハウスを出たすぐ後に、事件があったのはニュースで見た。


『角田らしいんだ、殺されたのは』

「え……?」

『なぁ、智哉。今から会えないか?』

 智哉はちらりと妹を見た。

「……今日は、妹の面倒を見ないと……」

『じゃあ、そっち行ってもいいか?』

「……いや、僕達が行くよ。それでもいい?」

 わかった、との返答。彼の家には猫がいるし、きっと義姉もいるだろう。妹の面倒はそちらに任せられないだろうか。


 路面電車を乗り継ぎ、友人の自宅に向かう。

「いらっしゃい」

 友人の義姉は笑顔で出迎えてくれる。

「あら? ひょっとして……」

 そう言えば妹と彼女は初対面だった。


「僕の妹なんです。あの、ちょっと周と大切な話が……」

「こんにちは。私は美咲って言います。あなたのお名前は?」

 絵里香はいやいや、と首を横に振って智哉の後ろに隠れる。

「絵里香っていいます」仕方ないので智哉が答えると、

「絵里香ちゃん、お姉ちゃんと一緒に向こうで、お菓子でも作らない? 猫ちゃんもいるのよ?」

「猫ちゃん?!」

 そうよ、と彼女は妹の手を引いて奥に連れて行ってくれる。

 助かった。


「あ、周……!!」

「智哉、来てくれてありがとう……」


「まさかとは思うけど、あの角田が……」

「うん……」

 智哉はふと、なぜ周が自分を呼び出したのか、今になって気になり始めた。

「ねぇ、周はなんでそのことを知ったの? 昨日のニュースじゃ17歳の少年、としか言ってなかったよね?」

「賢兄が……もしかしたら、学校から保護者に連絡が行ったんじゃないか?」

 そうだったとしたら母親が何か言いそうなものだが、何も言っていなかった。

「どういう状況なのかさっぱりわからないけど、警察は殺人事件として捜査してるっていいうから……心配で」

「何が……?」

 周は少し言いにくそうに、しかし思いきって、という顔をした。


「前からずっと、気になってたんだ。夏休みが明けてからこっち……なんで、智哉が角田達みたいなのと一緒につるんでたのか」

 そうだろう。

 智哉はそう思ったが黙っていた。

「実は……信行から聞いたんだ。お前、あいつらに脅されてたって本当なのか?」

「信行って、誰?」

「あいつだよ、隣のクラスの円城寺……」

 そんな名前だったんだ。


 そうして智哉にはわかった。

 周が心配している理由、連絡してきた意図。


「……まさか、僕が角田を殺したって考えてる?」

「そんな訳あるか!! ただ……」

「ただ、何?」

「もしかして、刑事の中にはそう考える人間がいるかもしれない、って思ったら……気が気じゃなくなって」


 確かに周の言う通りだ。彼らはきっと『動機』の面から、知られたくないこちらの様々な『事情』を探ってくるに違いない。


「心配いらないよ。和泉さんって……名探偵なんでしょ?」

「え……?」

 智哉は曖昧に微笑んでお茶を濁した。


「そう言えば……和泉さんの連絡先知りたがってたよな? 何かあったのか?」

 じと……と、周が半眼でこちらを見つめてくる。


「ま、いろいろとね。それより周、明日の2時間目は苦手なベクトル先生の授業だよ? 予習しておかなくていいの?」

「それだよ!! どうしても分かんないとこがあって、困ってたんだ」


 そうして2人はしばらく勉強に専念した。

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