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65:ヤバいって、マジで

 初めは。智哉は賢司に対して恩義を感じていたし、それぐらいのことなら、と軽い気持ちで引き受けた。


 でも今は。

 どうして自分がその役割を引き受けなければいけないのだろう?

 そう思うようになった。


 でも、今まで親切にしてもらった恩を仇で返す訳にもいかない。


「驚いたね。智哉は、警察の人間なんて誰も信用ならないって、そう言ってなかったっけ?」

「……それは、確かにそうです」

「だいたい、本物の悪人ほど善人ぶって自分を良く見せるものだよ。【偽善者】っていう言葉があるぐらいだからね……」


 賢司が何を考えているのか、智哉には理解できない。

 しかし今は、しなくてもいいと思っている。


「あの……僕がこんなこと言うの、おかしいかもしれませんけど。周は、賢司さんの弟でしょう? 心配なら、自分で和泉さんに『近づくな』って言えばいいんじゃないですか?」


 言ってしまった。

 もう取り消せない。


 賢司は黙っている。

 冷たい視線でこちらを見つめつつ。

「だって、家族でしょう? 家族なら……他人の僕なんか巻き込まなくても、直接話し合えば済むことじゃないですか……」


「じゃあ、智哉はそれができるの?」

「え……?」

「お母さんと何でも話し合える? 何もかも、包み隠さずに話、できるの?」

 返答に詰まった。


「ねぇ、智哉」

 賢司は笑って続ける。「家族って、なんだろうね?」


 車は、見たことのない道路を走り続ける。

 それから賢司は、通りかかりに見つけたコンビニに入り、車を停める。


 智哉はシートベルトを外し、

「家に帰ります」

 失礼します、と車を降りた。

「今まで本当に、ありがとうございました。賢司さんには心から感謝しています」


 ※※※※※※※※※


 噂には聞いていたがこれほどとは。


 楽屋の前でのファンと、スタッフおよび警備員達の揉み合いは、マスコミが騒動を起こした有名人にマイクを向けるあの時と同じほど、まさにカオスな状態であった。


 マネージャーの中原に話を聞こうと待ち構えていた和泉達は、その集団抗争に巻き込まれ、身動きができない状態であった。

 ほとんどが樫原詩織のファンのようだが、中には他の2人の子を推しているファンもいるらしく、ワーワーと大騒ぎをしている。


「ここに詩織はいません!!」

 探していた中原優香里が、大きな声で叫ぶ。

「皆さん、応援はありがたいですが、まわりの迷惑も考えてください!!」


 なんだ、いないのか。あちこちで聞こえる舌打ちの音。

 波が引くようにぞろぞろと、集まっていたファンたちは散らばっていく。


 そうして残ったのは十数名の若い男性だった。

 残り2人のファンはこれぐらいしかいないのだろうか、と思ったら何だか和泉はかわいそうな気がしてしまった。


「ほら、とっとと散れよ、散れっ!!」

 文字通りハエを追い払うような仕草で腕を振り回すのは、角田道久であった。彼は学校をやめて、プロダクションに就職したのだろうか。


 なんだよ、とぶうぶう言いながら去っていく若者達。


 しかし1人だけ、地蔵のように動かない男性がいた。先ほど和泉が【不審者】として認識した人物である。


「帰れって言ってんだろ!!」

 角田が男性の胸ぐらをつかみ、腕を振り上げる。

 傷害の現行犯で別件逮捕して、ここなら広島北署で……じっくりと事情聴取と行こうかな、などと考えていた時だった。


 角田が急に動きを止めた。


 彼はゆっくりと膝から崩れていき、床の上に倒れていく。


 何が起きたんだ?

 不思議に思って注視していると、クリーム色の床にみるみる、血溜まりが広がり始める。


「ひゃ……ひゃははっ!! 天誅、てんちゅーっ!!」

 男性は血のついたサバイバルナイフを高く振り上げ、狂喜している。


「やった、やったぞ!! いやったぁあああーっ!!!!!」


 長い刑事人生の中で、和泉は久しぶりの現行犯逮捕を経験した。

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