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49:それは秘密です

 和泉はさっそく【太平堂】で検索をかけてみた。


 すると。いったい誰が考えてゴーサインを出したのか知らないが、一度見たら忘れられないインパクトのある、言ってしまえば不細工な顔立ちのキャラクターが出てきた。


 その顔をしげしげと見つめていると、不意に思い出した。

 先日出会った、猪又の保護司である角田幸造によく似ている。


 そして連鎖的に、周に怪我を負わせたあの憎たらしい高校生の顔が浮かんでくる。


 待てよ? あのクソガキも確か、角田って言わなかったか……?


 さらに。

 あの顔、他にも一度、どこかで見た……。


「葵ちゃん、ちょっとこれから行きたいところがあるんだけどいい?」



 角田幸造は不在だった。

 面白くなさそうに玄関先で応対に出てくれたのは、先日も見かけた派手な格好の女性である。今日はそれでもちゃんと、服を着ていた。

 相変わらずだらしのない服装ではあるが。


 聞けば商工会議所の主催で、海外旅行に出かけているらしい。


「向こうが気に入ったら、しばらく帰って来ないかもね」

「……そういう、なんというか鉄砲玉のような方なんですか? 角田氏は」

「まぁ、そうね。お金だけは充分持ってるから。仕事の方は、他の人に任せっぱなしで自分は口を出すだけらしいわ」

「失礼ですが、あなたは角田氏の奥さんですか?」

「あたし? まぁ……そんなところね。パパは戸籍上、独身よ」

 つまり内縁の妻ということか。


「ところで、角田氏の親戚にこんな感じの高校生ぐらいの男の子はいませんか?」

 和泉は【太平堂】のイメージキャラクターのイラストを見せた。

「ああ、これ!! あたしもそっくりだと思ってたのよ」

 内縁の妻はきゃはは、と甲高い声で笑い出した。


「誰のことです?」

「パパの甥っ子でね、角田道久っていうんだけど……このエロザル、ほんっとにどういう教育されたのか、親の顔が見てみたいわ」

 この女性にしてそう言わしめるとは、よほどなのだろう。

 和泉はそう思ったが、さすがに口には出さないでおく。


「何かあったんですか?」

「何かも何も、こいつ……何度かあたしにやらせろって迫ってきたわけ。まぁ、高校生男子なんて盛りのついた動物なんだってわかってるけどさ。でもあたしはパパだけって決めてたから断ったの。そうしたらあいつ、あたしのこと殴ったのよ?!」

 内縁の妻は思い出して怒りがこみ上げてくるのか、顔を歪めた。

「ボクシングだかプロレスだか、何か習ってるって聞いたことあるんだけど……あたしその時は、本気で殺されるかもって思ったわ」


「それは、お気の毒に……その時、警察に届け出はなさったのですか?」

「……パパが、頼むから示談にしてくれって言うから……ま、あたしも大ごとにして警察の人と関わり合いたくなかったし」

 パサパサの真っ赤な髪をかきあげつつ、彼女は苛立たしそうに答えた。

「パパはあの子が来る度に甘やかすし、実の親は両方とも仕事にかまけて息子をほったらかしだし、まったく躾のなってないクソエロガキなのよ。あんな子がクラスにいたら、まわりの子は迷惑でしょうね……」

 その点は激しく同意する。


 それにしても、よくしゃべる女だ。

「あの子の学校って男子校だったっけ? 共学じゃなくて良かったわよね、ほんと。でも女の子みたいに可愛い顔した男の子だったら、危ないかもね」


 ふと、篠崎智哉の顔が頭に浮かんだ。


「ところで」

 和泉は本来の目的を果たすことにした。

「この男性のこと、覚えていますか? ご主人が保護司をなさっていた……」

 猪又の顔写真を見せる。

「あたしは知らないわ。だいたい、こんな特徴のある顔、一度見たら忘れられないじゃない?」

 ごもっとも。

 訊きたいことは以上だ。


「では、お帰りになられたら連絡をいただけるようお伝えください」

 和泉達は名刺を置いて帰ろうとした。


「ねぇ刑事さんたち、独身?」

 内縁の妻は面白そうに訊く。

「それは……秘密です」

 和泉は作り笑顔を貼りつけて、角田工務店を後にした。


 保護司である角田幸造と面識のある猪又辰雄の自宅を訪ねていた若い男は、もしかすると角田の甥である道久かもしれない。


 しかし、いったい何の用件で?

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