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39:カルチャーショック?

 さて。頭の痛い時間がやってきた。

 組み合わせを考えなければならない。


 刑事達は常に2人一組で行動するのが基本だ。たいていはベテランと若手、本部と所轄の刑事が組になることが多い。

 けれど。和泉を誰と組ませたらいいのだろう……?


「あ、高岡さん」

 宇品東署の刑事課長は聡介が警部に昇進した時の研修で一緒だった同期で、顔見知りである。

「悪いんじゃけど、組み合わせは……本部はそっち同士で……頼めるかのぅ?」

「……うちの問題児とは、誰も組みたくないってことですか?」

「……まぁほら、そこは察して欲しいんよ……」

「わかりました」


 それならそれでいい。

 いつものコンビで動こう。


「じゃあ日下部とうさこ、友永と葵は明日以降も再び、現場周辺の聞き込みを頼む。仕方ないから彰彦、お前は俺と……」

「班長」

 突然、友永が手を挙げた。

「どうしたんだ?」

「もしかすると、途中で抜けることがあるかもしれません。そうなると葵に迷惑をかけることになるので……」


「どういうことだ?」

「……すんません」

 何かあるらしいが、言いたくないらしい。


 それでは困るのだが、

「じゃあ、葵ちゃんは今回、僕とコンビね!!」

 和泉が言い、駿河の肩に手を回す。


「何て店だっけ? 『下駄履きました』だったかな。いこいこ、今はちょうど流川もいい時間帯だよ」

 聡介が呆気にとられていると、

「ほらほら、日下部さんもうさこちゃんも、早く出かけようよ」

 そうして捜査本部となった会議室には、聡介と友永だけが残った。


「もし、俺がいないと困るって言うんなら……何とかします」

「詳しいことを話してくれないか?」

 それが警察の決まりごとだから、とは言わないでおく。


 友永は、彼にしてはめずらしく曖昧な表情を浮かべ「はい」も「いいえ」も答えてくれなかった。


「……簡単に言えば、家族のことです……」

「家族?」

 確か彼は離婚歴があり、今は独身のはずだ。


「ガキが1人、いましてね……病気で、もう長くないって……」

「……なんでもっと早く言ってくれなかったんだ!! 病院か?! すぐに行ってやれ!!」

 しかし友永は迷っているような様子を見せた。


「……息子はいいんです……ただ、元嫁が……」

 聡介は黙って次の言葉を待つ。

「今まで、仕事ばっかりで子供をほったらかしにしておいて、今になって父親ヅラして……ってね」

 そんな訳なんで、と友永は顔を上げる。

「あんまりお役にたてるかどうか、自信がありませんや。ただ、俺の情報ネットワークが必要だって時があるなら言ってください。流川には檀家がごまんといますんでね」

「緊急事態が発生したら、いつでも捜査を抜けられるようにしておけよ?」


 ということで、今回は聡介が彼と組んで動くことにした。


 

 ※※※


 ドイツ語で【秘密】の意味を持つ『ゲハイムニス』と言う店。

 被害者の家で見つかった紙片に書かれていた午後10時。和泉は駿河を連れて、店に向かった。


「葵ちゃんも、もっと世の中のことを知らないとね。世間知らずのお坊っちゃまだなんていつまでも言われたくないでしょ?」


 その店は表通りから一本奥に入った路地裏の、実にわかりづらい場所にあった。そう簡単に見つかるようでも良くないかもしれないが。


 既に店はオープンしていて、2人ほど、怪しい男達が入って行くのが見えた。

 彼らに続いて和泉達もドアを開く。

「いらっしゃいませ~……」

 店内はごく普通にどこにでもありそうなバーの様相である。


 声をかけてきたバーテンダーは一目でこちらが警察だと見抜いたようだ。緊張の面持ちで、作った笑顔を貼りつけている。


「ちょっと訊きたいんだけど、いいかな?」

 こちらも営業スマイルを貼りつけ、こっそり手帳を見せながらカウンターに肘をつく。


「この男、最近こなかった?」

 被害者の顔写真を見せる。

「さぁ? 残念ながらいちいち、お客様の顔は覚えていませんので……」

「こんなに特徴のある顔なのに? 一度見たら忘れられないよね~」

 相手はまだ迷っているようだ。


「僕ら、生活安全課じゃないから安心して」

 すると。なんだ、という様子で一気にバーテンダーの表情が和らぐ。

「ええ、確かにいらっしゃいました。初めてのご来店は確か……先週あたりでしたかね」

「連れは? ここきっと、会員制でしょ」

「そうです。どなたかのご紹介でしょう。私は詳しいことは存じませんが」

「先にどっちが来てた?」

「お連れ様の方……っと、まぁ……会員様です」


「ちなみにその【会員様】って、どういう趣味の人?」

「我々、お客様同士の会話を聞いたりはしませんので」

「じゃあ君は? 美少年を愛でるタイプ?」

「私は……って、そんなことどうでもいいじゃないですか!!」


 その時、奥の扉が開いて、見てはいけない物を見てしまった。

 オフショルダーというのだろうか、肩の出るタイプのドレスを身にまとい、厚い化粧をした筋骨隆々の男性が出てきた。


 人の趣味をどうこう言うつもりはないが、これはすごい。


「ねぇ、今日の私、どう~?」

「とてもお綺麗ですよ」

「そう? じゃあ、行ってくるわね」


 どちらへ? 和泉は胸の内でつっこんだ。


 駿河は声を失っている。元々無口な彼だが、もはや何も言えない状態のようだ。

「……なんだったっけ?」

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