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35:そりゃヒロインのピンチにはあらわれるよ

「へへっ、何て顔だよ。おい、鶴! 写真撮っとけ、写真!!」

 反応がない。


「……おい、返事はどうした?!」

「鶴は気を失ってるんだよ!!」亀山が悲痛な叫びを上げた。

 あぁ? と、角田は手下の少年を睨みつける。


「さっき自分で殴っておいて、忘れてるのかよ?!」

「なんだとぉ?」

 角田は、今度は亀山に向かって拳を振り上げる。ひっ、と悲鳴を上げて彼は、玄関へ向かって逃げて行く。


 周はフラフラしながら、壁に手をついてゆっくりと立ち上がる。


「……今日のこと、とりあえず謝ってはおく」

「ああ?」

「でも、言ったことは撤回しない」


 てめぇは正真正銘のクズ野郎だ。周は声に出さず、胸の中で呟いた。


「何を訳のわからんこと言うとるんじゃ!!」

 角田が再び拳を振り上げたその時、ピンポンと玄関チャイムが鳴り響いた。


「出るな!!」

 そう怒鳴りつけて、角田は再び拳を振り上げる。周はきつく眼を閉じた。


 しかし予測していたような衝撃は来ない。


「ぐ、ぐえぇ……っ」

 つぶれた蛙のような声という表現があるが、これがそうだろうか?

「ぐ、ぐるじぃ……だじけて……」


「少年院ってご飯が美味しいらしいよ?」

 ああ、この声と口調は……。

 どういう訳か目の前で和泉が角田の首を締め上げていた。


「じ……じぬ……っ」


 どうしてここに?

 どうやって?


 周の頭の中でいろいろな疑問がわき出てくる。


「殺しはしないよ。これでも一応、法を遵守しなければいけない立場だし」

 ぱっ、と和泉が角田を解放する。ごほっ、ごほっ!! と咳き込む音。


「……てめぇ、ごほっ……さっきの……!!」

「あ、覚えててくれたんだ? だからって別に嬉しくもなんともないけど」


「……勝手に上がり込みやがって、住居不法侵入だ!!」

「へぇ、難しい言葉を知ってるんだね。でも残念ながら今の状況には当てはまらないんだよね。ここは彼のお家で、彼は訪ねてきた僕を中に入れてくれたんだから」

 和泉は亀山を見た。

 角田に睨まれた亀山は、短い悲鳴を上げて部屋の奥に引っ込む。


「さて、と。本当は君に用事があったんだけど、もうどうでもいいや。周君、病院に行こう?」


 和泉が手を差し伸べてくれる。拒む理由はない。

 周は素直にその手をつかんだ。


 その腕に包み込むようにして抱かれると、一気に緊張と不安が溶けていく。この時ばかりは周も女の子みたいな扱いするな! と文句を言う気にはなれなかった。


「待ちやがれ! まだ……」

「そこで気絶してる彼、殴ったの君だよね? 傷害の現行犯で逮捕されたいのかな」

 和泉は気を失っている鶴岡を見て言った。


「な……に?」

「通報があったから駆けつけてきたってことにしてもいいんだよ」

「てめぇ、何言ってやがる……?」


 大きな溜め息をついて、和泉は内ポケットから警察手帳を取り出す。

「さっきも見せたよね?」

 角田だけでなく亀山も青い顔をして静まりかえる。


「君ももう少し、いろいろ考えたり勉強した方がいいよ? すぐに力に訴えるのは頭が悪い証拠だから。安佐南高校ってわりと偏差値高いはずだよね?」

 角田の顔が真っ赤に染まる。


「じゃ、おじゃましました。余計なお世話だけど、尻拭いは早い内パパに頼んでおく方がいいよ? もし、この子達が君を訴えるとなったら、圧倒的に不利になるのは君の方なんだから。目撃証人が複数、その内1人は現職警官だってこと忘れないでね」


 じゃ、行こうか。

 和泉が何やら不穏な動きをしようとしたのを察知し、周は咄嗟に身をかわした。


「お姫様抱っこだけは、絶対に嫌だからな……?」

「なんでバレたの?」

 わからないでか。


「それよりも和泉さん、なんで……?」

「話せば長くなるからやめておくよ。まぁ、ある程度は予想通りだったというか……」

「何が?」

「な・い・しょ。僕と周君はきっと、運命の赤い糸で結ばれた者同士なんだよ」

 この人、本気でそんなこと言ってるんだったら病院に行った方がいいな。


「何か言った?」

「何も」

「とりあえず、病院へ行こうね?」


 あんたもな。

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