29:保護司って?
保護司と言うのは、簡単に言えば、犯罪者が社会復帰するのを助ける役割である。
ボランティアであり、人格者であること、健康であることなどが求められる。
角田工務店と看板のかかった広い敷地内に足を踏み入れる。
応対に出た事務員の女性に手帳を示し、社長である角田幸造を呼んでもらった。
応接セットに腰かけるよう勧められ、しばらく待たされた。やがて、
「ワシが角田ですが、何か……?」
大柄で日に焼けた毛深い男性がやってきた。ギョロリと大きな眼をせわしなく動かし、警察を名乗った2人を検分する。
どうも威圧感を覚えるのはなぜだろう?
「県警の高岡と申します。実は、猪又辰雄さんのことで……」
「また何かやらかしたんか?」
「また何か……と仰いますと?」
「うちもちょうど人手不足だったもんで、力仕事ができるって言うから、いくつか現場に連れて行って働いてもらったんじゃが……あれはいかん」
「と、言うことはこちらの会社で働いていたのですね?」
「おう、日雇いじゃけどな。様子を見て、使えそうなら今後、契約社員になってもらってもいいかと思っとったんじゃが……ありゃいかん」
事務員の女性がお茶を運んでくる。
角田幸造はそれをがぶっ、と一気に飲み干した。
「あの人、変わった趣味があってのぅ……ワシにはさっぱり理解できんのですが、何コン言うたかのぅ、小さな女の子が大好きな……」
「ロリコンですね」
和泉がすかさず補足する。
「そうそう。こないだの現場なんて、近くに保育園があってな。まったく……気味の悪い眼つきで小さな女の子を物色しよって、仕事の手が止まるんじゃ。園の方からもクレームがきて……かなわんけぇ、帰ってもらったんよ」
それは気の毒に。
「いつ、どこの話です?」
「えっと……先週木曜日の現場じゃけん、西区の何とか園っちゅう保育園の近くじゃ。詳しいことは事務所におる鈴木さんがよう知っとるけぇ、そっちに聞いてくれ」
聡介は和泉がメモを取っているのを確認した。
「で、猪又さんがまた何か問題を起こしたんか?」
どこか面白そうに角田幸造が問う。
「実は……今朝、遺体となって発見されました」
えっ、と角田幸造は目を見開いた。
「ほんまですか……えぇ……」
「角田さんが保護司をなさっているとお聞きしたので、こちらにお寄りした次第です」
「はぁ~……まぁ、あれですかな。まさか、15年前の事件の被害者が復讐したとか、そんな話じゃろうか?」
「……猪又さんに関し、何か他にご存知のことがあればと思って伺いました」
保護司は少し頭をひねって考えていたが、
「うーん……出所前にも何度か、面会したことあったけどのぅ……こう言っちゃなんじゃけど、全然反省しとる様子は見られんかったな」
これ以上、あまり情報は得られそうにない。
聡介はそう判断した。
するとその時、
「パパ~、どこー?」
と、奥の方から女性の声がした。
「お腹空いたから、どっか連れてって~」
ネグリジェを着た女性が姿をあらわす。今まで寝ていたのだろう、派手な色の髪はボサボサ、大きな欠伸をしながらやってくる。寝間着は布地が薄く、下に着ている物がくっきりと透けて見えていた。
目のやり場に困る。
「おぉ、ほんならどっか行こうか」
明らかにパトロンの方の【パパ】だろう。恐らく水商売をしているのであろう女性は、社長の腕にからみつき、何か囁いている。
聡介たちは礼を言って立ち上がり、工務店の事務所を後にした。
「保護司って、人格者が求められるんじゃなかったでしたっけ……?」
言うな、と答えて聡介は事務所にいる『鈴木さん』を探した。
「鈴木さん、とおっしゃるのは……?」
「はい」
立ち上がった鈴木さんは眼鏡をかけた、30~40代ぐらいの地味な女性である。
「先週木曜日に行かれた、現場の場所を教えていただけないでしょうか?」
こちらです、と広げた地図上に指を指してくれた。
聡介は付近にある保育園の名前をチェックするため、地図に顔を近付けた。確かにある。
『ひかり保育園』と書いてあった。
住所は東区。山側である。ここは近年、住宅地として開発中の場所だ。
住所と園の名前をメモしておき、外に停めてあった車に乗り込む。




