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27:秘密のお店

「……なんだ? これ」

「確か、ドイツ語で【秘密】という意味ではなかったでしょうか?」

 淡々とした口調で彼は答える。

「ドイツ語がわかるのか……?」

「いいえ、たまたまこの単語だけ知っていただけです」


「なんか、流川あたりの飲み屋かバーの名前っぽいですね~」

 などと、呑気なことを言う日下部の台詞を聞いて、もしかすると本当にそうかもしれないと聡介は思った。


「彰彦、調べてくれ。そういう名前の店が市内にないかどうか」

 はい、と彼は再びスマホに目を落とす。


「……普通の検索ではヒットしませんね。ひょっとすると、表に出せないような、いかがわしい店なのかもしれません」


「だったら足で稼ぐのみ、だ。皆、行くぞ」


「ちょい待ち、班長」と、友永。

 彼は自分の携帯電話を掲げて見せると、ニヤリと笑う。

「そういうことなら、生安の知り合いに聞いてみます。今時、足だけで情報を稼ぐなんて流行りませんや」

 少しばかりムっとしたのと、ほっとしたのが半々といったところか。この男も余計な一言が多い。


 それから改めて室内を見回した。ほとんど荷物らしい荷物はない床の上にはカップ麺の容器、弁当の空箱、ワンカップ日本酒の空き瓶などゴミが散乱している。


 しかしそんな中、部屋の真ん中に鎮座しているローテーブルの上にはパソコンが置いてあった。


「あ、これ……最近発売されたばかりの最新型ですよ」と、和泉。

「このパソコンが、か?」

「ええ、よくテレビで宣伝してます」


 刑務所から出てきてそれほど経過していないのに、こんなものを所有しているなんて。

 あの中で働いて得る金銭などたかが知れている。


 しばらくして。

「そうか、ありがとな」

 電話を切った友永は、

「薬研堀通りにある、いかがわしいことで評判の店ですよ。表向きはごく普通のバーとして営業していますが、特にその手の変態が集まるらしいです」

「その手の変態……?」

「まぁ、言ってみればロリコンとか女装趣味のあるやつとか、ムチで叩かれたい奴とか」

「……」

「班長や葵の奴には、仕事でも絶対に足を踏み入れさせたくない場所ですね。卒倒しちまいますよ?」


「あ、じゃあ僕がいきまーす」

「お前さんにはぴったりだよ、ジュニア」

「……どういう意味です?」

「お前なら何を見てもたいして驚かないだろ。そういう意味だ」

 確かに……。


「じゃあ、今夜さっそく行ってみましょう。友永さん、案内よろしくです」

 和泉はどこか嬉しそうに言った。



 それから聡介は、既に臨場していた所轄の刑事達と、自分達の部下をコンビにして周辺の聞き込みに当たるよう命令を出した。

 和泉の場合、誰も面倒を見切れないだろうから、自らが連れて行くことにする。


 ここはまわりに小規模な店舗しかない古くからの住宅地で、夜になると人通りがほぼ途絶えてしまう。

 この付近は街灯も少ない、実に寂しい場所である。周辺の聞き込みをしてはみたものの、これといった目撃情報は得られなかった。


 おまけに、情報の代わりにクレームをつけられた。


「聞きましたよ。その亡くなった人って昔、小さな女の子を誘拐して殺したっていうじゃないですか!? なんでそんな人を世の中にまた出しちゃったりするんですか?! うちにも小さな女の子がいるんですよ。何かあったらどうしてくれるんです?!」


 気持ちは分かる。

 だが、その件に対して聡介たちには何も回答できない。


 出所した犯罪者が果たして、今度こそ本当に真人間になるのかどうかなんて、本人以外には誰もわからないじゃないか。


 とりあえず、この近辺の警戒を強めるよう進言することぐらいしか。


「こないだだって、近くで誘拐未遂事件があったそうですよ?」

「本当ですか?」

「ええ、もう少し行った先ですけど。幸い、未遂に終わって助かったらしいですけどね。本当に、警察は何をやってるんですか?!」

「その件に関して、何か聞いていませんか?」


「さぁ? そういう事件があったっていうことしか」


 礼を言って聡介はその家を辞した。


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