表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/138

26:ロリコン?

 一歩中に足を踏み入れた瞬間、聡介は思わず絶句してしまった。

「……」


 その部屋を一言で表現するなら『異様』としか言いようがなかったからである。


 そして臭い。

 遺体が発見されたのは死後およそ3日。外気温と湿度が高いこの季節だから、腐敗しやすい条件が整っている。


 遺体は既に運び出されていたが、臭気は未だ部屋の中に漂っていた。


 近年、独居老人の孤独死が社会問題とされているが、これがその実態なのか……と聡介はひどく悲しくなってしまった。


 誰にも看取られることもなく、独りきりで最期を迎える。

 なんて寂しい結末だろう。


 しかしそんな聡介の感傷を打ち切るかのように、

「……みごとなまでのロリコンだったんですね」

 白い手袋をはめ卓袱台の上に置いてあったパソコンを触りつつ、和泉が呟く。

 ロリコンに見事もへったくれもあるか。

「なに? どういうことだ」


「見てくださいよ、この画像フォルダ」

 あまり見たくないが、そうも言っていられない。聡介は画面を覗きこんだ。

 まだ3、4歳ぐらいだろうか。幼い少女達の写真が収められている。綺麗なドレスを着せられていたり、和服姿だったり、それだけなら良かった。

 段々と、明らかに法に触れる写真が出てきたのである。


「僕には理解できない世界ですよ」

「俺だってわからん」

「そうかと思えばまぁ……ストライクゾーンが広いんですね。成人女性の写真もありますよ。見ます?」

「見ない」

 聡介はぷいっとあっちを向いた。


 早朝から呼び出しを喰らった。広島市南区宇品のとある木造アパートで男性の変死体が発見された。殺人の可能性が高く、現場へ急行せよ、と。


 駆けつけてみたところ遺体は既に運び出されていた。

「被害者はこの部屋の住人、猪又辰雄。年齢46歳。現在は無職……ですね」

 作業に一段落ついた鑑識員の若い男性が教えてくれた。


 高齢者の孤独死ではなかった。まだ若いではないか。


「これが被害者の顔写真です」

 口から泡を吹き、苦悶の色を浮かべている遺体の顔写真を見て気付いた。


 実を言うと聡介はこの男に見覚えがある。

「こいつは……」

「知ってる人ですか? 聡さん」

「彰彦、お前、覚えてないのか?」

「……何をです?」

「……俺の記憶に間違いがなければ、こいつはあの猪又だ……」

「あの猪又?」


 そう言えば。和泉は人の名前がまったく覚えられない人間だった。


 それは今から約15年前のことだ。


 この男はある日、下校中の小学1年生の少女を見かけてかどわかそうとした。


 場所は広島市内の郊外。まだ開発中の住宅街で、山を切り開いて宅地として整備しかけているところだった。

 しかし少女は抵抗し、ちょっとした揉み合いになった末、足を踏み外して崖下に転落してまい、頭を強く打って死亡した。


 逮捕・送検された犯人は刑務所で刑期を全うしていたはずだ。仮出所でもしたのだろうか。


「覚えてますぜ、俺は」

 すぐ後ろから誰かが口を挟む。いつの間にか友永が後ろから写真を覗きこんでいた。

「あのロリコン野郎、仮出所してやがったのか……」


 日頃はあまり仕事に対する熱意を感じられず、飄々と適当にこなしているイメージしかない彼が、めずらしく怒りを覚えた様子で遺体のあった場所を睨んでいる。


「知り合いか? 友永」

「知り合い、っていう言い方は気に喰わないですね。こいつはあの魚谷組配下のチンピラで、主に家出少年や少女を風俗店に売り飛ばす仲介役をしていた、ただのクズ野郎です」

 そう言えば、彼の前身は生活安全課少年係だった。

「挙げ句、悪戯目的で連れ去ろうとした女の子を崖から転落死させた……確かそのせいでムショに入っていたはずです」


「……どういう事件でしたっけ?」


 和泉はスマホを取り出し、検索を始めた。

 となると。

 もしかしたら、その時被害に遭った少女の遺族の仕業だろうか?


 そう断定するのは早い。


「あ、友永さんの言う通りです。それでつい先月……仮出所してますね」


「班長」

 駿河が何か手紙のようなものを手に、近くへやってきた。「こんなものが発見されました」

 そう言って彼が手渡してきたのは一枚の紙切れであった。


『午後10時 ゲハイムニス』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ