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135/138

135:愚にもつかない

 感心している場合ではない。

『それで、どうなりました?』


『……あの人、妙なことを言い出したんです。サキちゃんが断ることのできない状況を作り出した方がいい、なんて。何のことかと思ったら、悪役を仕立ててそいつに彼女を襲わせ、俺が助け出して恩を売る……要するにヤラセです』


『もしかして、その悪役が緒方翔だった……?』

『そうです。俺、あんまりニュースとか新聞読まないんで、まさかあいつが本土で事件を起こしたクソガキだったなんて、何も知らなかったんですけど……』

『未成年ですから名前は報道に出ていないでしょう。でもそうすると、賢司氏は緒方翔を知っていたということになる……』

『そうみたいです。どういう知り合いなのかわかりませんが』


 奴はネットで知り合った【Rain】という人物から、宮島に行って【ミサキ】という女性を頼るように言われた、と供述していた。


『あいつは彼に言われたからなのか、自発的になのか知りませんが、サキちゃんに手を出そうとしました。あ、ホントだったって驚くやらあきれるやら……その後は、刑事さん達も知ってるとおりです。でもまさか、あのお客さんのことは何も知らなくて、聞いていなかったからびっくりしましたけど……』


『あのお客さんと言うのは、緒方翔を追いかけてきた……?』

『そうです。あの後、サキちゃんを人質に山に立てこもるなんて話、俺は聞いていませんでした』


 和泉はしばらく黙って頭の中であれこれと考えていた。


『あの、刑事さん……賢司さんは何か、罪に問われるんですか?』

『え?』

『だってほら、俺バカだから法律とか全然詳しくないけど、犯人を逃がしたっていうか……匿ったっていうか……』


『あなたは少しもバカではありません。バカなのはむしろ、そんなくだらないことを言い出した藤江賢司の方です。あなたが望まないのなら、この件はここだけの話にした方がいいと思います』


 彼は両手を合わせて拝むような格好を見せた。

『お願いします!! サキちゃんを、周を……もう、トラブルに巻き込みたくないんです。ただ……』

『ただ、何です?』


『賢司さんはあの2人のことを憎んでいます』

『どうしてです……?』

『俺も、最近知ったんですけど……サキちゃんのお母さんって、賢司さんのお父さんと不倫してたらしいんです。それで、周が生まれたって……』


『……本当ですか?』

『確かです』


 そういうことか。同じ母親から生まれた姉弟だと、美咲からは聞いていたが。


『……俺からは、以上です』

『……よくお話ししてくださいましたね、感謝します』


『刑事さん、サキちゃんのこと、周のことをどうか……お願いします。守ってやってください』


 ※※※


「これで、おわかりいただけたでしょうか? 他人が自分の掌の上で思う通りに踊っている、さぞ楽しいでしょうね……」


 吐き気がしそうだ。

 傲慢かつ、どこまでも身勝手。

 周と同じ親から生まれた兄弟とは思えない。 


 賢司からの反応はなかった。


「ちなみに彼の話には、動かせない証拠があるのですよ。美咲さんを慕うヒーローを、あなたはかなり侮っていたようですね。ですが彼は、想像していた以上にとても慎重で頭の良い人間でした。ちゃんとスクリーンショットを保管していましたよ。実際、それを見た僕は驚きに声が出ませんでした……」

 和泉はスマホを操作し、彼と孝太の間で交わされた遣り取りの一部始終を見せた。

 驚愕するかと思いきや、賢司の表情は相変わらず変化がない。


「さて。ここまでは不本意ながら、民事不介入という縛りでしてね……我々警察の出る幕は残念ながらないと言えます。でも、賢司さん」

 和泉は身体ごと後ろを振り返り、無表情な男の目を見つめた。

「美咲さんと周君が、このことを知ったらどう思うでしょうね?」


「……さぁ?」

「それと、僕は【Rain】はもう1人存在すると思っています。それこそ、あなたが最初に仰った乗っ取り犯がそれではないかと」

「それも立派な犯罪ですよね。取り締まってくださいよ、刑事さん」

「残念ながらそちらは管轄外でしてね。生活安全課に知り合いがいますから、頼んでみるつもりではありますが……」

「そうしてください」


 角田殺害の依頼を出したのは樫原詩織だ。本人がそう供述している。もっとも【相談】を受けたとされる弁護士先生は否定しているが。


 今後、捜査のメスが入ったところで、したたかなあのヤクザ男のことだ。

 証拠は一切、消去しているに違いない。


 この件についてはもう、手出しも口出しもできない。ただ。


「それと、ご安心ください。僕はこの事実を墓場まで持って行くつもりです」


「……ほぉ、なぜです?」

 初めて賢司の顔に少しの変化があった。

「あまりにもバカバカしくて、ご家族に聞かせられるような話ではありません。それに何よりも、周君にこれ以上、辛い思いをさせるのは本意ではありません」

 手が届くなら、殴ってやりたい。

「それと。他人である僕が言うのは正論であり、一般論ですが。親御さんのことで美咲さんや周君を恨むのは筋違いですよ。彼女にも彼にも、何の罪もない」


「ええ、本当に……一般的な正論ですね」


「僕はあの2人を守ります」

「そうですか」


「もしまた、周君を傷つけるような真似をしたら……タダではおかない。僕はあなたを許さない、絶対に」


 バックミラー越しに見える相手の表情は、やはり【無】であった。


このへんはなので、シリーズ1から3を読んでエビ?(^_^;)

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