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133/138

133:エピローグがはじまったエビ

え~、こっから先はシリーズ1と3を読んでくださいとしか……(-_-)

「さて、話はそう……今年の5月頃に戻ります。とある、不良グループを率いるSという少年がいましてね。そこそこいい家のお坊っちゃまですが、親が放置したせいか素行が悪く鼻つまみ者だったようです。夜な夜な繁華街に出没しては、家の中に居場所のない若い同年代の子供達を仲間に引き入れ、刹那の快楽に溺れているような……そんな子供がある日、何を思ったかホームレス襲撃事件を起こしました。彼らには人権などない、そんな愚かな思考の末に、ストレス発散のはけ口として暴行のターゲットに決めました」

「……それで?」

「もちろん、襲われた方は反撃なり防衛なりに出ます。そうして仲間の1人が激昂したのか、何かしらハイな状態になってしまったのでしょうか。角材を持ち出してきて、ホームレスの1人を殴り殺してしまいました」

 ビターと銘打ってあるチョコレートは少し、苦すぎる気がした。


 和泉は続ける。

「さて、困ったのはSです。その少年が捕まってしまえば、即座に自分も警察に逮捕される。政治家がよくやるように、尻尾を切ってしまいたい……そこまで考えたかどうかはわかりませんが」

「……それから?」

「実行犯の少年は逮捕されました。しかし彼は……何をどう考え、結論に至ったのか今では闇の中ですが、自ら命を絶ってしまいました。それこそ生きているのが面倒になってしまった、そんな……理屈にならない理由でしょうか。さて。その少年には当然ながら両親がいました。父親は特に、息子を可愛がっていました。息子を悪の道に引き込み、挙げ句人殺しにした……と、Sをひどく恨んでいました。父親は現職警官でしてね。その気になればすぐ、調べをつけることができるのですよ。その結果、誰が息子を悪の道に引き込んだ末、死に追いやったのか……知るに至りました。Sに復讐すべきだ、とね」

「ほぅ……それで?」

「Sは自分が狙われていることを悟りました。そこで助けを求めました。よく利用するSNSで知り合った【Rain】という人物にね……」


 ※※※


「Sの話によればRainという人物から『宮島に行って、ミサキという名前の女性を頼れば助けてもらえる』と言われたそうなのです。ミサキという名前は決してめずらしくはない、でも。人口がたった1600人程度の島で『ミサキ』という名前の女性……すぐに特定できますね。そう、あなたの奥様ですよ、藤江美咲さん」


「美咲が……なぜ選ばれたのです?」

「もちろん、ただの嫌がらせです」

「嫌がらせ? 彼女が誰かに何か恨みでも買っていたのですか」


 おかしくなって、和泉は思わず吹き出してしまった。

 賢司がムっとしたのがわかる。


「彼女は他人の恨みを買うようなタイプではありませんよ。ただ悲しいかな、勝手に恨む人間はいるものでしてね……それは一方的な羨望だったり嫉妬だったり、実に子供じみたつまらない理由です」


「たとえば?」

「自分から大切な父親を奪った、憎い女の娘……そんなところじゃないでしょうか」


 無表情だと思っていた男の顔に、ようやく人間らしい感情が垣間見えた気がした。



「……興味深いお話ですね。どうぞ、お続けください」

 それでもまだ余裕があるのか、賢司は足を組み替える。


 それでは、と和泉はバックミラー越しに彼の目を見つめた。


「美咲さんには何の罪もありません。でも、感情は時として理性を凌駕する。それだからこそ殺人事件も起きるわけですが。おっと、脱線してしまいました。日本人と言うのは何よりも家族を、血のつながりを大切にする民族です。犯罪者の子供は犯罪者、そういう眼鏡で見る……つまり美咲さんは、言葉は悪いですが、他人の夫を奪う泥棒の娘。そういうレッテルを張って見る人間がいるわけです」

 自分で言っていて気分が悪くなってきた。

 和泉は買ってきた缶コーヒーに口をつける。

「そんな女性が、平気で他人を傷つけるような知能の低いサルに乱暴されようが何しようが、知ったことではない……そんなふうに考えたサル以下の人物がいたとして」

 藤江賢司の表情が変わったのがわかった。


「おや、何かお気に障ることでも言いましたか?」

「……いえ」

「もっとも、その人物はちゃんと救出の手立ても考えていました。もし本当にそんなことにでもなれば……自らの身にも少なからず影響が及びますからね。その助け手として選出されたのは、長い間、美咲さんに思いを寄せていた男性……これをきっかけにあわよくば少しでも彼女の関心を自分に向けさせることができるのでは、と思ったようです」


「面白い筋書きですね」

「……そうですか? 僕に言わせれば、陳腐な出来損ないとしか言いようがないと思うのですがね。せいぜい中学校の文化祭か何かで上演する、素人が書いた脚本並みです。もっとも中学生が演じるには少し刺激が強過ぎる気もしますけど。テレビ番組の【やらせ】でももっと上手いこと筋書きを立てるでしょうね」


「……それで、どうなったんです……?」


 まだ尻尾を出さないのか。

 その自制心の強さは恐らく、長い時間をかけて培われた妙なプライドによるものだろう。あるいはどこまでも自分を抑えることに慣れたことの結果か。


「結論として美咲さんは巻き込まれ、危険な目に遭いました。もっとも我々の活躍により無事救出いたしましたが」

 くくっ、と賢司は笑う。

「自画自賛ですか」

「それぐらいしないと、やって行けない仕事ですのでね」

 缶コーヒーを飲み干し、ドリンクホルダーに空き缶を差し込む。

「さて、その愚にもつかない嫌がらせを思いついて実行した【Rain】なるハンドルネームの人物……あなたのことではありませんか? 藤江賢司さん」


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