117:友永さんって、和泉さんと似てるとこありますよね?
キャラかぶりとか言わないで
「……なんでそう思うんだ?」
だって、と詩織は長い髪をいじりながら、
「周君って、角田のクラスメートだったんでしょう? 私、知ってます」
「確かにな。それで?」
友永の目つきが変わる。
今度は刑事のそれだ。
名案を思いついた子供のような顔で、彼女は話し出す。
「角田って、どうせクラスの中で嫌われていたんでしょう? 弱い者イジメとかして」
「まぁ、そこは否定しねぇな」
「私、子供の頃から周君……彼のことを知っています。力もないのに、正義感だけは人一倍強くて。いつもいじめっ子に立ち向かっては返り討ちにあっていました。そんな彼だけど、成長したら他人を上手く使うことを覚えたんじゃないでしょうか」
「どういう意味だ?」
一瞬だけ、友永が険しい顔をして見せたことに駿河は気づく。
だが彼はすぐに作った笑顔を見せた。
「たぶん周君のことだから、仲の良いクラスメートがイジメにあっているのを見て、許せないって思ったんじゃないですか?」
「……そうだな、それで?」
「だからって自分が直接角田に手を下せば、すぐに大切な友達が警察に疑われる。だからネット上で実行してくれそうな奴を探して……そうだ。あのシィッターで犯人とやりとりしていた【Rain】 とかいうのは、実は周君のことなんじゃ?」
さっ、と駿河の胸の内に強い怒りが広がった。
他人を貶めるようなことを平気で口にするなんて。
こんな少女が【偶像】だと?
震えそうになる手足を、どうにか抑える。
「今回のことは実に、タイミングが良かったんですよね」
ばさっ。
肩に落ちてきた長い髪を後ろに払い、詩織は鼻を鳴らす。
「タイミング?」
「そう。こないだ、うちの事務所の社長が突然、今日から私達の付き人をやってもらう、って角田を連れて来たんです。あいつ、学校を中退して無職の人だったんでしょ?」
「ああ、そうだな」
その件について駿河は知らずにいた。
「学校を中退した……? どうして?」
知りませんよ、そんなこと。
詩織の返答は実に素っ気なかった。
「とにかく、そんなこんなであのキモい角田が……いつも私達の近くにいるようになったんです。あいつ、ほんと気持ち悪くて……聞けば周君のクラスメートだったっていうじゃないですか。それで私、彼に……周君に相談したんです。幼馴染みのよしみってことで」
そんな相談を受けたのかどうか、あとで周に確認しておかなければ。
「そしたら彼、何とかしてくれるって言ってくれたんです」
「ふーん……」
ふわぁ、と友永は大きな欠伸をした。
詩織がさっと怒りを浮かべたことに、駿河は気付いた。
「つまり、こういうことか? 【幼馴染みの周君】は【私のため】に、気持ちの悪い角田を始末するよう、ネットを通じて知り合った実行犯に依頼した。ちょうどクラス内でイジメの被害に遭っていた生徒もいたことだし、動機を持つ人間は複数いるからバレないだろうって考えた……」
「そう!!」
友永はなるほどな、と頷いてみせ、
「……だよなぁ~……熱狂的なファンのいる樫原詩織にくっつく悪い虫、かつクラス中の嫌われ者を成敗した、それも自分の手を汚さずに。そうなりゃ一躍ヒーロー扱い……って、本気であいつが考えたとでも?」
「違うんですか?」
友永は殊更にゆっくりとした口調で、相手を見つめる。
「自分でも、愚にもつかない推測だって思ってんだろ? ついでに教えてやるよ。藤江周はお前さんのことなんかこっから先も覚えてなかったぜ。わかるな? つまり、あいつはお前にこれっぽっちの興味も関心も持ち合わせていない……そんな相手のために高いリスクを冒すような真似、普通はしねぇよな」
詩織の顔が強張る。
「他人を貶して自分を優位に立たせようとするのは、親の愛情を知らない子供の特徴だ。そうしないと自尊心を保てないからな。かわいそうに……」
がたっ、と詩織は立ち上がった。
憤怒の表情を浮かべて。
「周君は私のこと、覚えてないフリしてただけです!!」
「……だといいな?」
※※※
「……友永さんは……かなり、和泉さんと似ているところがありますね……」
「なんだと?! やめろ、そういうことを言うのは!!」
「事実です。わざわざ相手を怒らせるのが得意なあたりとか、そっくりです」
「俺をあんな変人と一緒にするな!!」
「へーっくっしょんっ!!」