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111:生活安全課ってのはさ

「いくら当時、僕が子供だったとは言っても……そんな写真、恥ずかしくて……」

 現物を見せられた時のショックと恥ずかしさは、何とも言葉では表現できない。


「お前、それは立派な犯罪だぞ? 猪又も、角田もだ!!」

 友永はかなり怒っている。コーヒーカップを握る手が震えていた。

「刑事さんの言う通りだ」

 円城寺も言う。どうやら彼が、今の話を聞いても引いてはいないようだったことに智哉は一安心した。


「今まで、そのことを誰かに相談は……?」

「誰にこんなこと、相談できるんですか?」

「警察に話すことは考えなかったのか」

 智哉は思わず、友永を睨んでしまった。

「冗談じゃありません!! 以前だってストーカーのことで悩んでいた時……」


 思い出しても腹が立つ。

 連鎖的に、嫌な記憶が甦った。


 今年の春頃の話だ。

 智哉が通っている塾の同じクラスに、他の高校に通っている男子生徒がいる。名前は知らない。

 授業の前後に何かと話しかけてきて、初めは感じが良かったので、連絡先を交換したりした。

 が、段々と様子がおかしくなってきた。


 帰る方向が正反対のはずなのに、わざわざ遠回りをして一緒に帰ったり、智哉が少し遅れて教室を出ると、待ち構えていたりした。


 初めは考え過ぎだろうと思っていた。


 だがその内、智哉が講師や他の塾生と会話をしていると、やたらに邪魔をしてくるようになった。


 極めつけはバレンタインデーと言われる日のことだ。

 巷で『本命チョコ』と呼ばれる高価なチョコレートの包みを渡された。


 冗談だろう。初めはそう思った。

 友チョコだから、と相手は言ったが、さすがに智哉も恐ろしくなって受け取ることを拒んだ。

 しかし、相手はあきらめなかった。

 根負けする形で受け取ったのが間違いだった。


 それからだ。向こうのストーカー行為が始まったのは。


 僕は男だ、と何度説明しても無駄だった。そんなことは承知の上だったらしい。


 どうしよう? こんなこと誰にも相談できない。


 悩んでいたちょうどその時、賢司から連絡があった。

 少し時間の余裕ができたから遊びにおいで、と。

 そこで智哉は彼に相談することにした。

 

 賢司は親身になって話を聞いてくれて、一緒に警察へ付き添って行ってくれた。

 ところが。

 応対に当たった警察官はとても感じの悪い中年男性であった。


『それ、本当の話? 作り話じゃないよね?』

『君、男の子だろう? なんでそんなことになるの』

『いるんだよねぇ、時々。被害妄想が過ぎて、実際にはなかったことを、まるで本当にあったことみたいにでっち上げる人。承認欲求ってやつ? 自分はモテるんだぞアピールっていうの?』

 まともに話を聞いてくれなかった。

 智哉が男の子だという時点で既に、きちんと応じるつもりがなかったのかもしれない。


 その時、初めは黙っていた賢司が、初めて口を開いた。

『この子に万が一のことがあれば、あなた方警察の怠慢ということで訴訟を起こしますよ』


 あの時の警官の表情は忘れられない。

 結局、何かあったらすぐ連絡するように、とたいした助けを得ることができないまま終わったのだけど。


 あれからもストーカー行為はしばらく続いた。

 いつまでも賢司を頼る訳にはいかないと思い、智哉1人で警察署に行ったこともある。


 ところが。

『いっそ整形でもしたら? そんな女の子みたいな顔してるからだよ。たまにいるんだよなぁ、なんか知らないけど変態に好かれるタイプって』

 呆れて何も言えなかった。


 最終的にストーカーを撃退してくれたのは……きっかけは周で、実際に助けてくれたのはこの人の仲間の……警察官だ。


「そうだったのか……生活安全課の実態っていうのは、そんなに……」

「……俺が元いた部署だ」

 友永の台詞に、円城寺はしまった、という顔で口をつぐむ。



 友永は真っ直ぐにこちらを見つめてくる。

「ごめんな……? 嫌なこと、思い出させちまったな。なんて名前の奴だった? たいていは顔見知りだから、今度見かけたら殴っておくよ」

「もう、忘れました」

 本当は覚えている。だが、今となっては関わり合いにさえなりたくない。


 友永はそうか、と納得してくれたようだった。


「それで……僕が角田を殺すように、誰かに依頼したって考えているんですか?」


 ※※※


「それだけはない、と断言できる」

 友永の答えに智哉は拍子抜けしてしまう。

「僕もそう思う」と、円城寺。


「どうして……?」


「君は」

「お前は」

『そういうタイプじゃない』


「勝手にハモるんじゃねぇよ、メガネ」

「勝手にって何ですか、たまたまでしょう? それに、僕はまだしも、刑事さんがそういうニュアンス的な回答で問題ないのですか?」

「あのな。刑事を何年もやってると、一目見ただけですぐにわかるんだよ。ホントにやったのかそうじゃないのか。それに……」

「刑事歴何年です?」

「えっと、そろそろ半年か……」

「たったそれだけですか?」

「いいだろ、半年でも。そもそも……俺にはわかるんだ。本当に更生が必要な、少年院にブチ込んでやらないとダメなクソガキと、そうじゃない子供の違いは。何人もそういうのを相手にしてきたからな……」


「ああ、そう言えば生活安全課だったと……なぜ刑事に?」

「いいだろ、ほっとけ。とにかく智哉、お前はグダグダ考え過ぎだ。訊かれたことには正直に答えるべきだが、答えたくないことは答えなくていい」

「それ、微妙に矛盾していませんか?」

「いちいちうるせぇな、お前は!!」

 智哉は友永と円城寺の遣り取りをポカンとして見ていた。


 そうして。

 次第に心が軽くなってきたのを感じた。


 今度こそ、本当のことをすべて話そう。


 そうすればきっと救われる人がいる。そして、真に裁かれるべき人が判明することだろう。


「あの、友永さん……僕を警察に連れて行ってください」

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