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10:ビッグダディ

 昼の休憩時間。周は急いでお弁当を食べ終えて隣のクラスの教室へ向かった。


 しかし、円城寺はいない。


「ジョージ探してんの?」濱崎が声をかけてきた。

「ああ……」

「昼になるといつも消えるんだよなぁ。校内のどこかにはいるんだろうけど」


 周は濱崎に礼を言って、校舎から出てみることにした。学生食堂や購買、思いつくところを回ってみたが見つからない。まさか職員室だろうか?


 それから周はダメでもともとで、めったに生徒が寄り付かないゴミ焼却場の近く、体育館の裏側へ行ってみた。すると円城寺は一人でいた。何のためそこに置かれているのかわからないボロボロのベンチに腰掛け、膝の上で開いている分厚い本を読みながらパンをかじっている。


「見つけた!」周が思わずそう言って近寄ると、彼はびくっと全身を震わせた。


「な、な……?!」


「あのさ、俺2年3組の藤江周って言うんだ。濱崎から聞いたんだけど、法律に詳しいんだって? ちょっと相談に乗ってもらえないかな」

 彼はきっと高校からこの学校に入った生徒だろう。中学生の頃には見たことがない。


「……詳しいんじゃない、専門家になるんだ」

 円城寺は分厚い眼鏡をくいっと指で押し上げた。


「らしいな。それで……」

「悪事の加担や尻拭いなら御免こうむる」

 周は思わず吹き出してしまった。

 この円城寺という少年は、喋り方が妙に時代がかっていてオッサンくさい。きっちり七三に分けた髪型といい、分厚い眼鏡といい、なんだか漫画の中から抜け出たキャラみたいだ。

「何がおかしい?」

「いや、だって……」笑いが止まらなくなってしまった。

 どうやらご機嫌を損ねてしまったようだ。


「あ、ごめん。気を悪くしたんなら謝る」

 周が言うと円城寺は、

「……ずいぶん素直なんだな」


「実は……」

 前置きはなしに、周は内容を話そうとした。しかし円城寺は掌でそれをとどめる。

「まだ食事中だ。後にしてくれ」

 仕方ない。周は彼の隣に腰掛けて宙を見つめた。

 今日も快晴だ。


「相談に乗るのはいいが、条件がある」

 食べ終えたらしい円城寺は、唐突に言った。

「条件……?」

 相談料だろうか。がめついことを言うものだ。


「放課後、黙って僕について来てくれ」

「放課後に何かあるのか?」

「ついてくればわかる」


 いったいなんなんだ……?



 それから放課後。じゃあ行こうか、と言われるままに円城寺について行く。


 どこへ行くのかと思えばスーパーマーケットだった。


「今日はお一人様1パック限り卵が98円なんだ。君がいてくれたら2つ買える」

 随分所帯じみたことを言うものだ。


 それに男子高校生が食材の買い出しにくるとはめずらしい。自分もよく義姉と一緒に買い物には行くが。


 円城寺は慣れた感じで店内を回り、山ほど買い物をして半分荷物を周に持たせた。


 それから歩くこと約10分。およそ人が一人通るのがせいぜいだろうという細い道を通り、背の高いマンションとマンションの間、いったいいつ建てられたんだ? という古い木造二階建ての一軒家にたどり着いた。

 がらがら、と今時懐かしい引き戸を開けると、

「兄ちゃんお帰り!!」と、複数の黄色い声がした。


 1、2、3、4……赤ちゃんから10歳ぐらいまで、幼い子供が合計5人も玄関に出てきたことに周は驚いた。子供達は見知らぬ人物が唖然と立っているのを見ると、

「兄ちゃんが友達連れてきたー!」と大騒ぎし始めた。


 すげー、めずらしい! カッコいい! 男の子が3人、女の子が1人、赤ちゃんは性別がわからない。


 女の子は黙って赤ちゃんをベビーベッドに寝かせると、円城寺が買ってきた食材を奥に運んでいく。


「……もしかして、全員弟と妹?」

「そうだ。弟が3人、妹が2人だ」

「すげぇな……」


「それで、相談というのは? この近くにファミレスがある。家はこの通りだからまともに話なんて……」

 言っている傍から弟二人が円城寺の足元にまとわりつく。

「にーちゃん、遊んで!」

「公園行こう、サッカーしよう?!」


「お前達……空気を読め……」


 三人目の弟と思われる幼い少年が、周の膝元でじっとこちらを見上げている。

 周はしゃがんで少年の頭を撫でた。


「こんにちは」

 すると少年はニコッと笑って周の首にしがみついてきた。

「こら、尚史!!」

「あはは、いいって。『ひさし』君って言うんだ?」


 周は少年を抱き上げて立ち上がった。急に視線が高くなったのが嬉しいのか、彼は歓声を上げた。


「ずるいー!! 僕もー!!」

「お兄ちゃん、僕もー!!」

 これでは相談に乗ってもらうどころではなさそうだ。


「……うるさい……」

 円城寺の妹、セミロングの少女が静かな低い声で言うと、男の子達は一斉に黙った。

「もうすぐお母さん帰ってくるって言ってたから、出掛けてきても大丈夫」

「そうか、わかった」


 円城寺はじゃあ行こう、と周の腕から弟を降ろして踵を返した。


 彼の母親はきっと若くして円城寺を産んだに違いない。

 それにしても、あの弟や妹の人数は半端ない。


 父親は大変だろうな……。


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