109:エマージェンシー再び!!
今夜も和泉達は鳥取県警の厚意により、皆生温泉に宿をとってもらっている。
まず、温泉で疲れを癒すことにした。
風呂に浸かって大満足した後に、目の前には今夜も日本海で獲れた海の幸や畑の恵みが、どーんと主張している。本当にいいのだろうかと少し不安になってしまう。
滅多に旅行なんてできないんだから、たまにはいいか。
いただきまーす、と箸を取る。
和泉はさりげなく全体を見回したが、鱈を使った料理は見えなかった。
「あの、和泉さん……」
やや遠慮がちに駿河が口を開く。
「なーに? 僕、食べられない物ってないんだよね」
「そうではなくて……友永さんはいったい、何がどうなっているのかご存知ですか?」
「友永さん?」
「出張の前の晩、急に奢ってやるなんて言いだして……なんとなく様子がおかしいと思いませんか? 妙に暗い顔をしている時もありますし」
確かに。ここ最近の彼は、少しいつもと様子が違う。
が。実はたいして興味もないので深く考えることはしなかった。
「友永さんはね、なんかいろいろ深い事情がありそうだよ」
おそらくプライベートで。
仲間の深い事情を知っておくべきは班長である聡介の役割だし、何よりも本人が、まわりに気を遣われたくないと思っているに違いない。
しかし、駿河の方は何かと気になるらしい。
「ご家族のことか何か……ですか? あの人は、こちらの事情はやたらと詳しく知っているクセに、自分のことはほとんど教えてくれないんです」
「まぁ、あの人はそういうタイプじゃない?」
納得しないだろうな、と思いながら和泉は適当なことを答えた。
案の定、腑に落ちないような……表には出さないのでなんとなく……そんな空気を醸し出す若い刑事に「冷めないうちに食べなよ」と言っておいた。
半分ほど食べ終えた頃だろうか。
緊急の呼び出しに備えてアルコールは飲めない。なので仕方なくソフトドリンクをお供に食事を楽しんでいたところ、携帯電話の着信音が聞こえた。
「はいはい~……っと」
和泉が通話ボタンを押すと、聞こえてきたのは藤江美咲の声だった。
上司からの連絡か? と、目で訊ねてくる駿河に首を横に振ってみせ、いったん部屋を出て廊下に立った。
「美咲さん、どうしました?」
『和泉さん、助けてください!! 周君が、周君が……』
尋常ではない。
一気に緊張感を覚えた。
「何があったんです?!」
『夕方、刑事さんが急に周君を警察署に連れて行って……それでさっき帰ってきたんですけど、でもなんか様子が変なんです!!』
彼女の後ろで猫がニャーニャー激しく鳴いているのが聞こえる。
緊急事態だと和泉は悟った。
『突然、部屋にこもったかと思ったら、急に大きな声で泣き叫んで……そうかと思えば……何か物の倒れるような音がして……!!』
「すぐに戻りますから、待っていてください!! 周君にもそう伝えてもらえますか?」
通話を切って、和泉は今度は鳥取県警の大迫に連絡する。
「大迫さん?! 今すぐに車を貸してください!! 緊急事態が発生して、広島に帰らなくてはならなくなりました……はい、そうです!!」
和泉は急いで部屋に戻り、浴衣の帯をほどいた。