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105/138

105:ピンチを救ったのは名もなきモブだった!!

 ああ、思い出した。賢司()の母親だ。


 周が初めて藤江の家に行った時のこと。

 彼女は確かこんな顔で自分を見下ろしてきた。


 憎しみは人の表情をここまで歪めるのか、と。


 あまりにも恐ろしくて、たまらず、父にしがみついたことを思い出す。

 

挿絵(By みてみん)


 どれぐらい時間が経過したのだろうか?

 取調べに当たった刑事の方も疲れを覚えたらしい。周が決して認めようとしないのを見て、聞こえるように舌打ちをする。


 ようやく口を開くタイミングが見つかった。


「……義姉に連絡させてください……」

 当然ながら持ち物はすべて取り上げられている。スマホも、だ。

「なんだと?」

「兄にも……」


 喉が渇いた。

 でも、渇きを癒す飲み物は用意されていない。


 その時、ノックの音と共に扉が開いた。

 スーツにネクタイの男性。どこかで見たことがあるような、ないような。

「これは、任意の取調べですよね? 保護者の許可は取ったんですか」

 胸を反らし、鼻息も荒くその男性は訊ねる。

「緊急措置だ!! 逃走および隠匿の恐れがある!!」

 男性はやれやれ、と肩を竦める。

「相変わらず、警察には時代について行けてない人がいるものですね。先ほどから取調べの様子を見せていただきましたが……まるで恐喝ですね」


「何なんだ、お前は?!」

「藤江家の弁護士です」

 彼はそう言って胸元に光るヒマワリと天秤をモチーフにしたバッジを見せた。


「もう一度お訊ねしますが、保護者の許可は取ったんでしょうね?」

「い、今、手続き中だ!!」

「では、彼の保護者に確認しましょう」

 弁護士はスマホを取り出して電話をかけ始めた。


 すると刑事は盛大に舌打ちしつつ、立ち上がる。

「もういい、出て行け!! 今日のところは見逃してやる!!」

 ほぼ捨て台詞だ。

 周は複雑な気分で立ち上がった。


 ※※※


 廊下に出ると少し、足元がふらついた。

 詩織の方はどうなっているだろうか?


 気になるけどでも、早く帰らないときっと義姉が心配する。


「大丈夫? 大変な目にあったね」

 名前も知らない、藤江家の弁護士を名乗る男性が訊ねてくる。

「だ、大丈夫……です」

「僕のこと、覚えてないかなぁ? 賢司君の知り合いなんだけど」

 申し訳ないが覚えていない。


 その時だ。

「周君!!」

「周!!」

 自分を呼ぶ声が聞こえる。それも複数。

 智哉に円城寺そして高岡さん。もう1人、見知った顔の刑事。


「大丈夫か?!」

 とりあえず、うん、と頷いておく。

「何があったんだ、話してくれないか?」

 隣家の刑事が問いかけてくる。

「……はい、あの……何もかも、まったく訳がわかっていないですけど」


 樫原詩織に呼び出され、コンビニに向かって、それから……。

 説明しようと、頭の中であれこれとまとめていた時だ。

「周」


 驚いたことに友人と顔見知りの刑事達の後ろから、賢司がこちらに歩いて来るのが見えた。兄は彼らを押しのけるようにして前にでると、

「帰ろう」

 周の腕をつかみ、

「先生、ありがとうございました」

 それだけ言って立ち去ろうとする。


「待ってください、周のお兄さん!!」

 そう兄に声をかけたのは、意外にも円城寺であった。

「少し、お訊ねしたいことがあります。よろしいでしょうか? 僕は弟君の友人で、円城寺と申します」


「忙しいのでね、またにしてくれないか」

 賢司は彼に一瞥くれるとスタスタ歩き出し、周は引きずられて行く。


「どうしてですか? 篠崎君に、いったいどんな恨みがあるって言うんですか?!」

 しかし彼は躊躇することなく、大きな声で叫ぶ。

 ぴたりと兄の足が停まる。


「彼があなたに何をしたって言うんですか?!」

「……君に答える質問ではないよね、それは?」

 円城寺は黙り込んでしまった。


 ※※※


 それは自分がまさに今、彼に聞こうと思っていたことだった。

 でも。周もいる、他の人の耳もある。

 智哉は躊躇していた。


 先ほどのことは簡単に言えば、変態で知られる大学教授に、賢司が自分を売り渡したということだ。 

 幸いなことに、無事に助け出されたけれど。


「……篠崎君、すまない。つい余計なことを……」

 円城寺が項垂れる。

「ううん……」

 それ以外に言えることは何もない。


「班長。とにかくあの子は無事に解放されたんですよね? 俺はこいつらとちょっと……外に出てきますんで、あとよろしくお願いします」

 行くぞ、とこちらに向かって友永が顎をしゃくる。

「どこへですか?」

「晩飯にだ」

「……刑事さんのおごりですか? だったら、僕は行きません」

「アホ。利益供与なんかするつもりはねぇよ、ほら行くぞ」


 その時だった。

 前方から聞き覚えのある女性の喚き声が聞こえた。


「冗談じゃありません、断固たる対応を取らせていただきますからね!! このままでは絶対に済ませませんかから!!」

 あのスーツ姿の女性は……。

 そして彼女の影に隠れるようにして立つ少女の顔を、智哉はよく知っていた。


 向こうもこちらに気がついたようだ。しかし、互いに知らないフリをしてやり過ごす。


「あーあ、やっちまったな。手柄を焦って、保護者の許可もないままに引っ張ってきた手合いだろうな。あとでとんでもないことになるぞ……」

 友永はおかしそうに言い、こっちだと廊下を歩いていく。


 駐車場には以前、彼に乗せてもらった軽自動車。

「何が食いたい?」

「……何でもいいです」

「刑事さんの懐具合におまかせします」と、円城寺。


「お前らな……」

 友永はバックミラーの位置を確認しながら、溜め息をつく。


「とりあえず、家族に連絡しとけ」

 2人とも言われた通りにした。

サブタイトルに【名もなきモブ】とありますが、実はいちおうシリーズその2に登場していた【上田】という名前のある人です……。

覚えてなくて当然です。


私だって、そういやそんな人を登場させてたな~という認識ですもんね(笑)


確か、未成年者への任意同行は保護者の許可が要ると聞いたような(;一_一)……だから、そういうことは本文中に書けと……えび。

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