特別講座(スペシャルクラス) (1)
第四章 特別講座
風魔が目を開けると視界は玲美の美貌で埋め尽くされていた。
「おはよう、玲美?」
「何で疑問形なのよ」
疑問形になるのも当然である。俺の部屋にいないはずの玲美がいるのだから。
「玲美、抜け駆け禁止だ」
声の主は金色の短い髪の精霊、『時空の精霊』だ。
「珍しく意見が合ったわね。私もそれを思ったのよ」
続いて白銀の髪を持つ『空間の精霊』が言った。
「私と何処か遠くに行きませんか?」
(それは突っ込みどころ満載だ)
「『何であんたと?』と風魔も思っているわよね」
凄く強い口調で玲美が言った。
「別にそんなことは………」
「あら、こんなところにも傷があるわ」
言葉を遮るように玲美が言う。
それに対し、『空間の精霊』の顔が曇る。
「そこは、傷はないけど……」
実際、大体のところは治っている。
「そうだ、風魔私昔の呼び名思い出したわ」
凄く嬉しそうに『空間の精霊』が言った。
「本当か。呼びにくいからな。なかったら作ろうと思っていたくらいだ。で、どんな呼び名だ?」
「白です」
少し恥ずかしそうな顔で言った。
「はい?」
あまりにもシンプルすぎて――
(どんな反応が満点なのだろう?神よ知恵を授けて)
「だから『白』です」
「ああ。それは解った」
「白です」
「ああ」
「白です」
「うん」
「白です」
「ああ」
「あんた達懲りないわね」
不機嫌そうな声が聞こえた。
玲美の声だ。ちなみに意見に対しては俺もそう思っていた。
「白―――――――」
「はい。何ですか」
「呼んでみただけだが……」
とても嬉しそうにしている。
「じゃあ、『白』でいいんだな?」
「はい」
全力の笑みで白は答えた。
「あんたたち、何勝手に盛り上がっているの?」
玲美だ。全力の冷やかな笑顔が特に怖い。
これなら劇の鬼役も素顔でこなしてしまうかもしれない。
(敵に回したら大変だ)
風魔は本気でそう思った。
「風魔、我の呼び名を教えてやろう。人間ごときに教えてやるなどあってはならない」
「はぁ」と迫力負けする。
「だが、風魔、お主なら教えてやる。我のことをティムと呼ぶがいい」
本人は気付いているのだろうか?単に『Time』由来していること
だがそこには突っ込まないことにした。
「そうか、ティムよろしくな」
「了解した」
そんな感動シーン。しかし、風魔はあの邪悪な存在を忘れていた。
あの鬼の存在を………………
玲美だ。めちゃくちゃ怖い。冷やかな笑顔で見つめている。
「風魔君? なにいちゃこらしているんじゃボケ、クズ、変態、さっさと出ていけ人間のごみ」
かなり傷ついた風魔を見て白たち精霊は悲しい顔で眺めている。
「誰か助けて?」
肝心の白とティムは玲美の『目』でまるでメデューサの石化能力を行使されたかのように固まっている。
(玲美の『目』には精霊でも勝てないのかよ)
チートだよ、それ。強すぎるよ。キレて睨むと相手が動かなくなるなんて。そんなことも考えながら風魔は精霊に目を向ける。
「助けて?」
勿論精霊、白達に向けて言った言葉だ。しかし、何故か玲美が回答した。
「人間のごみはこの部屋から出て行って」
とても楽しそうに言われた。
「ええと……」
この部屋は勿論風魔の寮の部屋だ。
「ごめん。私が間違っていいたわ」
(解ってくれたのか?)
「ごみはゴミ箱に!」
「えっと……」
(俺は外に行くどころか屑籠の中に行くのかよ)
「行ってらっしゃい」
「何処に?」
「クズには日本語すら通じないのね。解ったわ」
「何が解ったかさっぱりわからん」
「やっぱりね」
「何が『やっぱりね』だ」
「クズの行き先」
「屑籠だよ」
「り、理解しているの!」
後ずさりながら玲美が言う。
「一応、人間だからな」
驚いた表情で玲美が言った。(明らかに作ったようだったが……)
「何故驚く!」
「当たり前でしょ。そこから解っていないのだから」
「一応聞いておきますがそこからとは……」
「勿論、自分が『人間』でなく『クズ』と分類されることよ」
「人間ですから。多分……」
これだけ言われてしまうと自然と自信がなくなる。やっぱり洗脳って怖いな。玲美の……。
「じゃあね。この部屋から出て行って。屑籠には失礼のないようにね」
(その文脈では屑籠の方が俺よりも位が高く感じる)
「そうだ、白、ティム。一緒に買い物でも行かない? 風魔君『ここにいたい』だって」
(何故そうなる?)
「そうですか。ならしょうがないですね」
正直、否定してほしかった。
玲美が振り返って口を開いた。
「今日はありがとう」
「ああどうも」
投げやりな口調でいった。
「そうそう。学長室に行けって先生が言っていたわよ。今日の授業終わり次第だけど。何かまた悪いことしたの?」
「心当たりは……ないこともないかも」
居眠りの回数―多数。
先生への暴言―数多。
説教―――――――――――――――――数えたことがありません。
ちなみにどれも数えると時間が無限に必要なので数えていません。
これだけの経歴をお持ちの方がいるのだろうか。
でも、不良ではないからね。ここ重要。
「風魔君、あの…………」
言いかけて口を閉じた。
「それとなんだよ」
少し顔を赤らめて玲美が言った。
「また今度にする」
「今度って……」
風魔はきき返そうとしたがやめた。
「今言ったら白たちの約束果たせないから」
誰にも聞きとれない程の小さな声で言った。