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封印聖剣と精霊  作者: depression
2/6

私が風魔の契約精霊です

もう朝か……その時、風魔はいつもとは違う感覚を覚えた。柔らかい……この感覚はもしかして……

「風魔はどこを触っているのですか。エッチ!」

(胸?)

初めての感覚なので確定まではいかないが……。

いや、触っているな。現在進行形で……。視覚で確認した。

「今の不可抗力だろ!」

「不可抗力なら今も触っているのは何故なのですか?」

「お前があたってきているだろうが」

「風魔が契約を拒むからでしょう」

「契約……って何だ?」

「契約も分からないのですか。風魔にも解るように言うと私とのパスのようなものです。契約……したことないのですか」

風魔は生まれてこの方『契約の経験談』などきいたことがない。そもそも現代において『契約を経験しました』という人は存在するのだろうか。この精霊が封印される前の時代にはいたのかもしれないが……。

「それはねぇだろう。俺は『契約したことある人』なんか聞いたことないぞ」

「では、初めて、やるのですね?」

 その、初々しい態度に、風魔の頬は紅く染った。

「言い方、それ誤解を招くぞ」

「えっ。誤解……ですか」

落ち込んだ表情になる。

「つまるところ、俺は少なくとも見たことも聞いたこともない、ということだ」

精霊は、「ああそういうことですか」と言って納得する。

「では、ここ付近では風魔が一人目ということですか?」

「俺の知っている範囲でいうとそうなるな」

「それは凄いではないですか。何でも一番になることはいいことだと思います」

「風魔、ごはんできたわよ。って、あんた何しているの」

がたんと音が鳴った。その人影に風魔はとても見覚えがあった。

「玲美! これは……」

玲美が来た。凄く冷やかな目で見ている。もう一度状況を確認してみる。ベッドの上にはあの精霊と俺のふたり。しかも精霊はほとんど全裸だ。弁護のしようがない。

「そうですか。そんなに封印されたいのですか。何千年がお好みですか。それとも死んで償いますか。長い付き合いだったから選ばせてあげる」

 棒読みで物騒なことを言い始めた。

 正直、何故棒読みで物騒なことを言っているのかは全くほんの一ナノミリも解らんが。

冷たい玲美の声。

これを率直にとってみる。封印を選択すると死にはしない。しかし変だな。単位が……どちらを選択しても似たようなことだな……そんな中、精霊は口を開いた。

「玲美さん。私と風魔は今とても大事なことをしているのですから、邪魔しないでいただきます」

何てことだ。弁護してくれるのかと一瞬でも期待した俺が馬鹿だった。むしろ火に油を注いだ。

「だ、大事な、話?」

少し動揺しているようだ。

だが、勘違いしている。

(トーク)ではなく、動作(ムーブ)である。

ちなみに俺は動作(ムーブ)のほうが駄目だと思う。

「俺は……」

「知ってる?精霊と人間はそもそも『種』という壁があるのよ」

「種の壁なんか、関係ないです」

又もや。精霊、恐るべし。

「ふ~ん。『種』なんか関係ないか……」

「そうです」

 そんな火に油を注いでいる精霊を止めようと、

「やめて……」

「「風魔は黙っていて」」

玲美と精霊が同時に言う。

(あーあ。これはやばいわ)

 そして、何より、

(これ以上、玲美との関係崩さないで)

「後から来たくせに!」

「貴方こそ、風魔の傍にいなかったじゃない」

論争が激しくなる。

玲美が怖い顔で見てきた。

「風魔の馬鹿!」

そんな悪魔の呟きとともに風魔は危うく命を落とすところまで追い詰められた。


     ・・


翌朝、風魔は読書中の玲美に声をかけた。

「玲美?」

「……」

「お~い、玲美さん?」

「……」

完全に無視されている。

「お前、玲美にフラれたのか?」

「いい感じだったのにな」

「もしかしたら、チャンスあるかも」

クラスメイトが口々に言う。

(振られた、というか、付き合っていた自覚はないんですけど)

「玲美?」

「もう、五月蠅い(うるさい)わね。ろくに本も読めないじゃない」

「すみませんでした」

この圧迫感。これを知らないからみんな玲美を好いている。

(何で俺だけ)

普通のこの年の男子なら『俺だけ』とか、特別扱いされると喜ぶのだが風魔は違う。だって悪い意味で特別扱いされているから―――。

「風魔」

 栗色の髪の少女が声をかけてくれた。

「何ですか……」

 語尾が不鮮明になる。

 勿論、玲美の威圧感が原因だ。

「貴方、許されたくないの?」

 「貴方」という語に対して、クラスの何人かが反応する。

『風魔め』

『チャンスだと思ったのに』

『リア充めっ』

『妬ましい……』

 済みません。立場、変わってみますか?

 そんなことも耳にしながら、

「それは……そうだけど……」

 それを聞き、玲美の顔が僅かにゆるむ。

「じゃあ、おごる?」

「玲美が?」

 あ、いつものノリで……。

「ホントに許されたいの?」

「……本気です」

 あ、終わった……。

 そう思っていたのだが、玲美の顔は又もや笑みを浮かべる。

「いいわ。じゃあ、明日おごってね」

『彼奴なんなんだよ』

『玲美と食事?』

『不公平』

『爆ぜろリア充』

『もげろっ』

 こんな声に、玲美の一言はかき消されてしまった……。

「え?」

(聞こえなかった……玲美確実に………)

 だが、玲美の反応はよかった。

 機嫌がよかったのだろう。

「最後よ。何かおごって」

「えっ」

「何か一緒に食べに行ってくれたら許してあげてもいい」

俺の出費を―――。

断ったら……最期を迎える………。


 最期

 >

出費

 ……………訂正

 


 最期

  <

  出費

「ありがたくおごらさせていただきます」

「じゃあ、決まり。明日ね」

「解りました」

俺に―――明日があれば……



そのあとの学院の昼休み。風魔は屋上へと足を運んでいた。

「死にかけた……」

「あんな疑わしいことするほうがいけないのよ」

玲美が階段をのぼりながら答えていた。

「お前、どうして俺がここにきていることが解った!」

「ふん、そんなの簡単にわかるわよ」

(確かに俺は短絡思考だがここは、この場所はばれないと思っていたのに)

「悪かったな、昨日は」

「もういいって。明日、一万円程度の高級なケーキおごってくれるんだから。そんなに贅沢言わないわよ」

(えっ、一万円)

諦めました。さようなら、諭吉さん。

「そうか。話し戻すが、でもあそこまでする必要ないだろう。」

「あっ、ごめん……」

「まあいいが」

「本当?」

「ああ」

「じゃあ、明日の――――」

しかし、風魔はそっちのけで外を眺めていた。

「風魔、聞いている?」

「ごめん。なんだったっけ」

「もういい。風魔のことだから考え事でもしていたのでしょ。」

「お見通しか。あの精霊のことだ」

「あの精霊、どうかしたの?」

「契約を俺が拒んでいるということが少し引っかかっている。名前も聞いてないし……」

俺はまだあの精霊の名前すら知らないのだ。知ったところでどうこうということもないのだが……。

「風魔、そんなにあの子のこと気になるの?」

少し恥ずかしげに玲美が言った。

「まぁ」

 その答えに玲美が睨む。

(あれっ?何で機嫌壊れているのだろう?)

「風魔だからしょうがないことにしておいてあげる」

「ありがとう?」

「何で疑問形?」

くすっと笑いながら玲美が言った。

それにつられて風魔も笑う。

「二人して何やっているのですか?」

華麗な声。あの精霊だ。

「名前の件ですがまだ風魔は知る必要はありません」

何時(いつ)来た。何時からいた。ここは学院の屋上だぞ」

率直な疑問を投げかけた。

「私にしてみればたやすいことです。少し空間を歪ませて……」

少し長い説明となりそうだ。

「じゃあ、続編はまたの機会にでも……」

「遠慮せずとも……でも今は諦めます」

 がっかりした表情になる。

 沈黙の時が経過する。

その間、冷静になると疑問を感じた。

「お前、昨日は疲れるから嫌だって言っていただろう」

 そう、この精霊は、疲れるから力は使いたくないとか遺跡で言っていたのだ。

 その結果、俺はこの精霊を負ぶることになったのだが。

「気のせいです」

「白を切る気か」

「はい、じゃなくてそんな気なんかないです」

「本音言いかけたよな? てかもろ言ったよな……」

「気の―――」

その時、再び静寂の時が訪れる   

少し強い風が吹いた。

思い返す―――ここは屋上。強い風は当たり前。


いくら見えても不可抗力のはず……


つまりこれは……俺は悪くない。そう、これはたまたま。神からのプレゼント(ごほうび)。

「……っ」

 精霊と隣にいた玲美が硬直する。

(俺、悪くないよね?)

 だって、これは不可抗力なのだから……

「「風魔の馬鹿っ」」

「ぐはっ」

 俺の戦闘力は果てしなく0に近づいた。下手したら「横棒(マイナス)」になっていたのかもしれない……。


「風魔」

そこに親父がいた。

「そうか、俺も逝くのか……」

 自分の魂が天に……って駄目じゃん!

 

理性をどうにか取り戻した俺はこの世に戻ってきた?


「大丈夫ですか、風魔」

 何かがおかしい。

 原因を再度確認する。

 まず……

「ぐほっ」

 出血が多量化する。そう、鼻からの。

「大丈夫なの?」

(はい。ぼくだめかも。思い出すと…あれを)

「ごめん。少し記憶が、あの時の記憶が鮮明に―――」

 その時、玲美が反射的に動いた。

 玲美の拳が目の前に現れる。

(勝てない)

 生命的危険性を感じた俺は回避行動に移行する     

 ジャンプする。

 全力で。

 そして膝をつく。

「誠に申し-訳、ございませんでしたっ!」

 そう、これが本当の、土下座(ジャパニーズ土下座)っ!

 しかし、玲美の拳は空を切………らなかった。

 はいさようなら……。

 後方に飛んでいくのが実感できた。

 まあ、それは命に別状はなく……そして珍しく意識もあり…………。

「ホント、あんたって駄目ね」

 朦朧とした意識の中、玲美が俺に問うた。

「えっ」

「今度から気をつけなさい」

 上から目線。腕を組んでいるかのような口調。

勿論顔を地に伏せている俺には分からないことだが……

考え直す。一見不自然でないかの流。しかしこれはおかしい。

「殴ったことに対しての謝罪は……」

「ありがとうっ」

 玲美の全力の笑顔。

(か、可愛い!)

じゃなくて

「それは謝罪じゃないと思うのですが……」

土下座して踏まれながら言った。

「ちゃんとさっき謝罪ならしたわよ」

「そうか。俺の耳が……じゃないだろ絶対」

「そうかしら?」

「絶対そうだっ」

「この話はこれくらいにして。風魔君、何か言いかけて、精霊が答えようとしていたわよね。その話を進めるべきだと思うの」

 妥当な言い分だ。納得出来ない節もあるが、無視することにした。

「何故来た」

本題の疑問だ。

「風魔に会いたくて来たのです。学院に興味があるのですが……」

「風魔に会いたくて?」

玲美が冷やかに言う。

「お前は帰っていろ!」

「そんなこと言うんだ。じゃあ……」

「すみませんでした」

精霊と幼馴染は二人して冷やかな目で見ている。まるで悲しい人を見るような目で。

風魔は言いすぎたと少し後悔した。

「何故ですか。風魔様は私がお嫌いなのですか?」

「言い過ぎ」

二対一。戦況はこちらが圧倒的不利。勝てない。負ける。ポツダム宣言でも何でもするからこの状況から助けてくれ神様っ!

でも状況を再確認しよう。玲美は冷やかな目。

でも精霊の方は―むしろご褒美?近距離で下目で見てくる。正直可愛いい。

「そうじゃないけど……」

「風魔、もう時間よ。もうすぐチャイムが鳴るわ」

「わかった」

再び精霊に目を向ける。

「ということだ。またあとでな」

「でも……」

「帰っていろよ、後でなんでもおごるから」

風魔は走りながら念押しした。

精霊ってどのくらいの請求をされるのだろうか。俺の財産後いくらだったか?先月本勝ったから後  。結論は一〇〇〇円以内なら大丈夫となった。もしかしたら桁が5つとか……でも今は気にしないこととした。


     ・・


授業も終わり放課後が来た。廊下では、女の子たちが噂をしていた。

一人はポニーテールの藤崎さん。

もう一人は、一学年上の髪が肩ほどの長さの吉村さん。

そして、その友達のお(おなか)に夢いっぱいの村上さん。

普段から階段付近でよく話しているお馴染みの人たちだ。

「ねぇ、聞いた?あの子のこと」

「あの銀色の髪の子のことね」

銀色の髪……もしや……。

「その子、どこにいる」

一応聞いてみる。

「風魔君、浮気はいけないわ」

(いったい俺の彼女は誰だろう)

 そんなことも思いながら、

「探しているんだ」

 息切れしながら言う。

『二股?』

『風魔君に限って……』

『風魔君なら純愛だって信じていたのに』

『私にもチャンスが……』

 酷い思われぶりだ。

 唯一よさそうな言葉(最後の)は、あれはあれで村上さんの言葉。クラスで最も栄養たっぷりの体を誇るお方だ。というわけで……ランキング(非公式)で、最下位を争っている。まあ、非公式だから、本人は知らない訳だが。

 そんなことはともかく、どうせなら聞けないように徹底的にやってほしい。

「どうして……」

「それは、どうしても知りたいからだ」

 断言した。

 女子たちの反応はまたしても同じ(?)

『これ、本物よ』

『そうね。決定ね』

『私にもチャンスが……』

(君たち、聞こえないようにお願いします)

「興味あるの」

 一学年上の、髪が肩程度の先輩が言った。

「えっ、まぁ」

 それを聞き、女子たちはうろたえる。

『これは疑いようもないわね』

『そうね』

『私にもチャンスが……』

(もうやめてっ)

 傷つく俺。

「えっ、風魔君興味あるの?ええと……校庭のほうに……。」

 やっと答えてくれた藤崎さん。

 流石は同級生の中でも有数の美少女に(非公式ランキング参照)入るだけある。。

「ありがと」

 勿論、藤崎さんに向けた言葉だ。しかし、何故か村上さんがうっとりした表情になっている。

 「もう嫌だっ」とも思いながら風魔は校庭に足を向けた。

このことが噂として流れないように……。



 風魔がいた新校舎から見て、旧校舎―――現教員塔の方角。教員塔の先に校庭がある。

 そこには見覚えのある姿があった。腰まで伸びる白銀の髪。間違いない。あの精霊だ。しかし、鎧のような装備は止め、制服に着替えていた。

「おい」

凄く嬉しそうに振り向いた。

「あっ、風魔。私に会いに来てくれたのですか」

精霊は近づいて抱き着いた。精霊もやわらかい。人間と同じくらいに。故に、少し顔が赤みを帯びた。

「一時は嫌われたかと思いました。でも会えて嬉しい」

涙目で見てきた。

(精霊のくせに可愛いい!)

少しばかり顔が赤く染まった。もう何でも言えるような気がしていた。玲美もいないことを確認した。

「俺もお前に会えて嬉しい」

後方から殺気を感じた。

(さっきはいなかったよな?)

「一応聞いておきますが、何時からそこに……」

「そうね。抱き着いてイチャイチャしていたところから」

(あれっ、つまり死刑判決ですか)

こういうシーンの玲美はゲームのラスボスにまで匹敵する戦闘力を有する。言葉で表すとすると―最強―絶対に勝てない。かといって降伏もできない。『もしかして先程の言動を聞きましたか?』と聞く必要もないだろう。こうなると何も聞かないから―

怪我では済まない……

「あなたたち、何時まで何しているの?」。

「それは勿論、風魔と会えたことを喜んでいたところよ。」

またか……。半分諦めたが一応聞くことにする。

「玲美さん……朝のようにはしないですよね」

「ええ」

もしかしたらもしかするかも。

嬉しく感じた。

助かったのかもしれない。

でも玲美のことだ。『嘘だよ』とかいうのだろう。

「まあ、心優しい玲美さんだから当然ですよね」

当たり障りのない言葉を使う。

「ええ。解っているじゃない。勿論、朝みたいに中途半端にはしないわよ」

やはり。俺はまたみることになるのか。かの有名な川。大きな川。この世には存在しない河を。その名は ―――――――三途の川。

「不潔、変態!」

今日一日で二回目。人生最高記録を更新した。


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