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エクステンドソルジャー (未定)  作者: お料理に便利な5点セット
9/11

009

 

 驚いた。それが彼、メッツ・フライガが傭兵の機体に同乗して最初に思ったことだ。


 驚いた点は2つ。この機体の視野の広さと、コックピット内に発生している重力だ。

 この機体の視野は360度全方位であり、今現在連合軍が開発している全方位モニターの完成版を搭載していることだ。

 実際に振り返ると後方が高画質で表示されている。見慣れた整備員がライトを振って機体を誘導している様がよく見える。


 そして下に向いた重力だ。ソルジャー機単体で重力を操るシステムが存在したのかとメッツは軽くショックを受ける。


「おっちゃん大丈夫か?」

「少し重力酔いをしたが、もう大丈夫だ。レグの後方の視界を俺で遮ってしまっているが大丈夫なのか?」

「もともと座席があって見えないから問題なし!」


 彼は今、ソルジャー隊に配備されている対G用スーツを着て、レグナント機の座席にしがみついている。

 外から見ると、丁度レグナントの頭に被さるように、彼の頭が飛び出ているように見えるだろう。


「そうだ。俺は機体操作に専念するからおっちゃんが通信頼むな」


 レグナントはそう言って、メッツにヘッドホンを渡す。


「いいのか?」

「んー。別に俺がやることは変わらないし、おっちゃんがやったほうがおっちゃんが理解できるでしょ?」


 メッツは「そうだな」と返し、ヘッドホンを装着する。


『艦載機のソルジャー隊は出撃後、戦艦を守るように待機。俺達傭兵部隊からの指示が出るまで待機していてくれ』

『艦載機のソルジャー隊の指揮はレミアスさんに一任されています』

『レミアス大尉ならハルトのソルジャー機に忍び込んでいたぞ』

『確認しますので少しお待ちを。レミアス機から応答無し。艦長の指示で一時的に指揮をレザール様に譲渡するそうです』

『ではそのように』


 ヘッドホンから聞こえてきたのは通信士のティーナと傭兵団隊長のレザールの声だ。

 メッツはレミアスの独断行為には何度か頭を悩ませることはあったものの、ここまで来ると注意しなければならないと思う。

 学徒兵とはいえ、一応は連合軍士官なのだからと注意はしたことがあったが、半場まだ学生なのだろう。

 ましてやこの艦に正規軍人は居ない。学徒兵達は遠足の延長なのだと考えているのだろう。


「レグ。お前はいつからこの機体に乗っている?」


 傭兵業は秘匿すべき情報は多々ある。メッツは少しでも情報を引き出すために声をかけた。


「2年前だな。でもこのチームは結構最近になってからだぞ」


 2年前。2年前といえば帝国と共和国の小規模な戦闘があった時期かと思い出す。


「そうか。そういやレグ、カタパルトは使ったことあるか?機体を見るに初動はいらなそうに見えたが」


 メッツはこの機体の外装を近くで見た時、化物かと思った。

 背部と腰部に大型バーニアを搭載し、足に大型スラスターが搭載されている。

 武器は左腕に内蔵されている小型バルカンとビームシールド。右手にはビームを展開できる近接武器だけだという。

 戦場を駆けるだけでパイロットがGで死ぬのが分かり切った機体にメッツは臆したが、虎穴に入らずんば虎子を得ずという諺を思い出し、意を決めた。


「んー。なんとかなるっしょ。このくぼみに足を嵌めればいいんだよな」


 機体を操作し、機体をカタパルトに接続する。

 目の前にはメッツの教え子がライトを振って出撃を催促する。


「カタパルトに少し振動を与えてくれ。軽くバーニアを吹かすくらいでいいはずだ」

「了解っと」


 視界と座席が少し揺れる。

 その瞬間、視界が宇宙空間に吸い込まれるように流れていった。




「どうなっているんだ?Gが全く感じなかったぞ」

「おっちゃん。それが答えだよ」


 これがレグナントの言っていた答えかと納得する。加速で発生するGを完全に無効化するのが答えだとは思いもしなかったが、実際にこの体で体験したのだから信じるしかない。

 整備士としてGを軽減する方法は知っていても、無効化する方法を知らないという事に研究心が滾るのを感じた。





 出撃してからも、レグナント機は艦体から離れず、一定距離で静止していた。


「レザールからなにか来たら教えてくれ」

「了解した」


 メッツは傭兵達の作戦指揮はレザールが執っていると知っていたが、ここまで訓練されているのはならず者の傭兵としては数少ない実力者だろう。


 〝メッツ。聞こえますか?〟


 ふと、メッツの頭に声が響いた。彼に念波を送れるは長年同じ戦場にいたパートナーであり妻であるフォルケただひとり。


 〝聞こえるぞフォルケ。どうかしたか?〟

 〝この子達の機体はすごいわ。一体誰が何の為に開発したのかしらね〟

 〝ん?ちょっと待て。お前まで戦場にいるのか?〟

 〝クリスの機体に同乗させてもらっているわ。ちょうど貴方の後ろよ〟


 メッツは即振り返る。モニターに両手に小型銃をクルクルと遊ばせながら構えるクリス機を発見した。


 〝そう、その機体よ〟

「レグ。あのクリス機を守りながら戦闘できるか?」

「んー。特に心配はいらないと思いますけどね。レザールの指示です?」


 レグナントはメッツに振り返って聞く。彼は一瞬嘘を言うか迷ったが、あの機体の録画映像の回避技術を思い出した。


「いや、俺個人の意思だ」

「あ、おっちゃんの奥さんが乗ってたりします?クリスと結構打ち解けていたみたいですし」

「まぁ、そうだ。知らなかったとなるとフォルケの独断行動だな」

 〝レスタ君とクリスちゃんに許可はもらっているわ〟


 許可を取ればいいというものではないが、そもそもメッツとフォルケは連合軍本部からある理由で同軍のソルジャー機の搭乗許可を剥奪された身である。

 そのことを理解しているのかと問い詰めたくなるが、それは自分の首を絞めることだとわかっているので彼は口に出さなかった。




『帝国軍のソルジャー機が進軍を開始しました』


 通信士の一言でメッツに緊張が走る。


『了解。傭兵団は直ちに迎撃行動に向かう。艦載機は全機、艦を守るように展開。奇襲に気を張ってくれ。レグとクリスは陽動を、ハルトとフラウは各自行動へ』

『了解!敵ソルジャー機を誘い出すよ!』

『了解だ』


 傭兵団員の声がヘッドホンに走る。メッツは言葉を逃さず記憶した。


「交戦開始だ。レグは前衛でクリスと陽動行動らしい。艦載機は全て艦の守りに付き、アタッカーは傭兵部隊だけで行うらしい。できるか?」

「できるさ。いくぞおっちゃん!」


 レグナントは覚悟を決めた新兵のような気迫で返事をすると、機体を大きく加速させた。









 両手にツインハンドガン、腰部にツインバルカン砲を装備する灰色の機体。

 クリス機は今回の出撃の為に少し武装を変更していた。

 通常なら背部に高機動を補助する追加バーニアMK-Ⅲが搭載されているが、今回の出撃はそれを外し、攻撃面と防御面を大幅に強化するトラロックウィングという武装を選んだ。

 トラロックウィングは攻守一体型の武装で、外見は甲虫の翼のように実体剣を畳んでいる。そのため背部の防御力が格段に上がる。

 しかし、トラロックウィングの真価は防御力に有ず、翼を広げた時に隠された武装が顔を出す時である。

 広げた前羽は大きく左右に展開し、大きな実体剣となる。その下に隠された後羽は追加バーニアMK-Ⅲと遜色ない姿勢制御性能を誇っている。



 現在クリス機にはパイロットであるクリスと機体性能を確かめる為に同乗したフォルケ保健医の2人が搭乗している。

 2人は通信機から流れてくる情報に耳を傾けていた。


『レグナント機からフラウ機へ、こっちに攻撃系ビットをいくつか。それとクリス機に防衛用のビットを送ってくれ』

『その声は、フライガ整備長?訓練の時に同乗するんじゃなかったのです?』

『レグが実戦の方が情報を多く手に入れられるとかで半場無理やりな。クリス機にはフォルケが同乗している』

『あー。了解です。レグナントにBS(ビームショット)ビット、ES(エクスショット)ビットを、クリスにスタンビット、シールドビットを射出します。AP(弾薬パック)ビット、WR(ウェポンリペア)ビット、AR(アーマーリペア)ビットは戦場中央に待機させますので必要になったら言ってください』

『ビットの種類は分からないが、正しく伝えておこう。通信は以上だ』



 フォルケは戦場で聞くことがないと思っていた声に思わずはにかむ。


「ねぇクリス。今言ったビットの種類はわかる?」

「詳しいことはわからないけど一応わかるよ」


 フォルケは意味もなくクリスを撫でる。

 メッツとの間に子を成したらクリスのように育つのかしらと軽く想像する。

 傭兵団の中で唯一髪の色がシルバーであり、育った母星の標準色であったため、フォルケはクリスに対して警戒心があまり持たなかった。

 メッツもクリスに対して警戒心を特に持っていなく、比較的幼かったので大丈夫だと会議室で念波を使って会話をしていた。


「じゃあ私達に送られてくるビットの説明をしてくれる?」

「じゃあ最初にスタンビットだね。

 スタンビットは接触した敵機に1秒間硬直を与える機能を持つビットだよ。

 シールドビットはその身で敵のビームやバズーカ砲を無力化するビットだね。

 スタンビットは3機、シールドビットは6機の編成でフラウは送ってくるよ」

「なるほどね。スタンビットは足止め、シールドビットは身代わりって感じかしら?」


 フォルケは2種のビットの性能を考察する。実物をまだ見ていないからか深く思考ができなかったが、クリスの一言で靄が晴れる。

 フォルケが考察に意識を取られている間に、菱形の機材のような物、シールドビットはクリス機を守るように展開されていた。

 遅れて三角形の形をしたスタンビットが現れ、計9機のビットがクリス機の周りを飛んでいた。


「フラウはシールドビットに視点を移して。レザールはボクに向けてレールガンを撃って。シールドビットの性能が見たいんだ」

「ちょっと!」


 シールドビットが意思を持つように一箇所に集まり、合体する。

 その不思議な光景にフォルケは目で追っていると、シールドビットに閃光が走った。

 歪に変形したシールドビットの集合体はその合体を解く。

 6機だったシールドビットが4機に減っていた。


『スコアは?』

『2機撃墜。1機損傷大。残りは無傷だ』

『そうか。レールガンのモジュールを少し変更してみたが2機落とせれば十分だな』

『その代わり弾速が落ちているような気がしたぞ。クリス、損傷のあるビットを撃ち落としてくれ。クールタイムが終わったら追加で送るからな』


 フラウとレザールが感じたことを言い合う。

 だが、試験射撃のはずのこの発砲が両軍の戦闘開始の合図となってしまった


『敵艦の発砲を確認しました!』

『試験射撃が仇となったか。レグとクリスは前面に展開。ハルトは敵艦に対し射撃を開始。フラウはレグのビット操作とシールドビットのCT(クールタイム)が終わり次第射出。俺はレグとクリスのバックアップをする』


 通信士の声が耳を貫く。

 それと同時にレザールが指示を出す。

 指示を出した瞬間。レグナント機とクリス機のブースターに火が点った。



 クリスはサブモニターのマップを見る。

 マップには自機とチームのアイコンしか表示されていなく、敵機の反応は1つもない。

 これじゃあ裏をかかれても文句は言われないかなとクリスは微笑み、駆け回るスタンビットを過敏に意識する。


「大丈夫よ。クリスなら出来るわ」

「なんだってボクは、不可能を可能にする男だからね!」


 クリスはメインモニターに最初に映った敵機をロックオンする。

 敵機は編成を組み、6機編成でクリスに強襲する。敵機はレイとフラウの会話から24機と聞いていたので4グループに分かれていることをクリスは瞬時に把握した

 クリスは威嚇射撃をし、敵機を散開させた。


『こちらレグナント機。帝国は24機のソルジャー機を、6機編成4チームで進軍してきている。

 肉眼で3チームを確認したが、1チームは発見できていない。アナトは各センサー使用し索敵、警戒を密にしろ。

 正面は傭兵団に任せろ。アナトは奇襲だけに気を張っていればいい』

『了解しました。こちらでも帝国機は18機確認しています。ステルス性の高い機体については警戒を密に、定期機銃掃射で反応を見てみます』

『仲間には当てるなよ!』


 メッツが戦艦アナトに指示を飛ばす。

 それを聞いたクリスはふと思いつく。


「残り時間は2分を切ってる。よし、ボクが探す!」

「相手は目の前の6機よ。まずはこの状況を突破しなさい」


 クリスの発言にフォルケが釘を刺す。

 彼女の全盛期でも一度に6機相手では分が悪い。それをクリスは気にしないと言わんばかりの反応にフォルケは少し焦りを感じた。


「帝国機の性能はわかったから大丈夫。レザール!ブーストの許可を!」

『許可する。6機片付いたら高範囲の索敵を頼む。フラウはサーチビットを積んでいない。クリスが頼りだ』

「了解!」


 クリスは帝国機にツインハンドガンを掃射し、距離を取る。

 サブモニターを操作し、トラロックウィングをディフェンスモードからオフェンスモードに切り替える。

 帝国機は回避運動を終え、標準装備と思われるマシンガンをクリス機に集中的に浴びせる。

 クリスは咄嗟に開きかけたトラロックウィングをディフェンスモードに切り替え、背部の実体剣で実弾を受けきる。

 その間に腰部のツインバルカン砲で相手を牽制、回り込んできた帝国機をハンドガンで確実に狙っていった。


 クリスは残り時間を確認する。

 1クレジットで戦闘できる時間は8分30秒。その1クール目があと1分で終了する。

 タイムアップと同時に追加でコインを入れなければ機体は停止してしまうが、追加のコインが既にカウントされているとノータイムで戦闘が継続されることはすでにレザールが検証済みだった。


 クリス機は残り時間が35秒になるまで回避運動と牽制射撃を繰り返し、32秒で大きく距離を取る。

 サブモニターを素早く操作し、再度トラロックウィングをオフェンスモードへ切り替える。

 帝国機の追撃が激しくなる一方、クリスの表情は笑っていた。


「よし!ここで墜とす!」


 クリスは左右のレバーと、両足のフットペダルを同時に押す。

 メインモニターに赤みが帯びる。

 一度経験しているクリスはなんともなかったが、フォルケが連合のソルジャー機では機体損傷危険域を意味するモニターの反応だと勘違いした。


「大丈夫。ボクの機体が赤くなるのはプロジェクターで見たよね?」

 〝安心しろ。クリスの機体に目立った損傷はない〟


 2人に説得させられたフォルケは落ち着きを取り戻したが、少々納得のいかない様子。

 ちなみにメッツがクリス機の損傷具合が分かったのは、レグナント機のメインモニターに表示されているチーム内の残り耐久を示したバーが減っていなかったからだ。


 オーバーブーストを発動し、トラロックウィングを開放したクリス機に対し、6機の帝国機は無力であった。

 赤く煌きを放った瞬間に、クリスは全ての武装を掃射する。

 帝国機は慣れた動きで回避をしようとしたが、クリス機の放った弾丸が意思を持つように帝国機を追尾した。

 虚を衝かれた帝国機は無抵抗に銃弾を浴び、戦花を咲かせた。


「逃がさないよ」


 帝国機は不利と見たのか後退を開始した。それを見たクリスは彼等に向かって弾丸をありったけ放つ。

 先程までのクリス機の機動力ならどうにか逃げられると踏んでいた帝国機は、トラロックウィングの解放された圧倒的機動力を知る由もなく、そのデータを残すこともないまま次々と撃破されていった。


「帝国のソルジャー機をこんなにも早く」

「こちらクリス。敵機を排除したから索敵に行くね」

『了解した。レグの方ももう少しで終わる。帝国艦も損傷は少なくないだろう。追加の機体が出てないことから勝利は揺るがないだろう。消えた6機の捜索を頼む』

「了解!」



 クリス機は赤い尾を引きながら戦場を駆け抜けた。


 だが、結局行方を眩ませた6機は見つかることはなかった。


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