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エクステンドソルジャー (未定)  作者: お料理に便利な5点セット
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006

 初対面のフラウ達は色々と情報交換を行っていた。

 どこに住んでいたか、どこでゲームをプレイしていたか、何時頃ゲームをしていたか。

 場所は日本全土を点々としていたが、最後に見た時間だけは大体合っていた。


 情報交換が進むうちに、ゲーム感覚だったのが、だんだんと現実味が混じり、全員の顔に影が生まれ始める。

 感情を顕にしないが、心相ではどう思っているのか大体の予想はつく。

 全員の年齢は、23が3人。18が1人。16が1人。

 まだ、親が必要な年齢だ。23であれ、指導者が必要な年齢なのだ。

 フラウは縋るような思いでレザールを見る。

 情けない話だが、こういう時フラウは何もできない。1番力がある、全てを任せられる人に縋るしかないのだ。


 周りを見ると、全員がレザールを見ていた。

 レザールは全員を順に見ていた。


 レザールは少し頭を振り、唇を濡らす。

 フラウ達はレザールを向き直し、姿勢を正した。


「現状、俺達は生活できる空間へと移動することができた。時間になれば食事もできるだろう。そして、睡眠もだ。

 衣類はまだわからないが、潔癖でなければそのまま5日は着続けることができるだろう。

 その間に俺が先の艦長、副艦長と交渉し、なんとか衣類を調達する。これで生活面はどうにかなるだろう。

 次に、戦闘面だ。先の戦闘を経験し、前線に出ていたレグナントは敵機を弱いと言った。クリスの機体は無傷に近く、クリスに張られたシールドビットの耐久値にフラウは一度も危険値突入と言わなかった。

 俺達は皆、強い。数の暴力で襲われたらどうなるかわからないが、先の戦闘では無事、誰も欠けることなく勝つことができた。これは事実であり、変わることない結果だ。

 だが、この戦力比を簡単に覆すことができる可能性がある。それが何だか、誰か分かるか?」


 レザールは一度言葉を切り、全員を見渡す。


 ハルトは一つの可能性を導き出す。だがこれが合っているかは分からない。もし違ったら恥ずかしいという消極的思考で、沈黙を続けた。


「裏切り、寝返り行為だね。

 高機動のレグが裏切ったら誰も追いつけない。ハルトが裏切ったら、不意打ちの高火力で消し炭、レザールが裏切ったら遠距離で一人一人潰されて、フラウが裏切ったら訳も分からないうちに機体を行動不能にさせられる。ボクが裏切ったら、精々機体が蜂の巣にされるくらいかな」


 クリスが苦い顔をしながら言う。

 レザールは浅く頷き、言葉を続けた。


「クリスの言う通りだ。絶対に裏切ってはならない。

 裏切りが発生した瞬間、全員が死ぬと思え。

 不満があれば全員で言い、全員で聞け。個人的なことまでは共有しなくていいが、できる限りの情報を共有しよう。

 俺は絶対にレグを、ハルトを、クリスを、フラウを裏切らない。裏切るのであれば、全員で相談し、一斉に裏切ろう。

 俺は死ぬのが嫌だ。それはお前達も同じだろ?」


 レザールは右手を前に突き出す。

 全員は深く頷き、その手に重ねる。


「とりあえず今からこれの艦長と話し合いがあると思うが、交渉を任せてくれないか?必要最低限は掴んでみせる。多少不利になると思うが、これから結果を残し、少しずつ改善していこう」


 全員が重ねた手を拳に変え、お互い軽くぶつけ合う。

 そこでハルトが遠慮がちに手を挙げた。


「すまねぇ。俺もう100円硬貨がないんだ。誰か貸してくれねぇか?」


 その一言に、3人は動揺した。

 唯一動揺しなかったレザールは、メガネを掛け直して、機体のコックピットを指さした。


「このゲームで硬貨を呑まれたことはあるか?」


 揃えて首を左右に振る。


「最新式のゲームとは言え、誤作動は極僅かに起こる物だ。俺は一度呑まれたことがある

 そこで見た。店員に報告したら、効果投入口の下の部分に鍵を通し、蓋を開け、ボタンを1度押した。

 そしたらゲーム1回分のクレジットが筐体に追加されていた。聞いたところ、一部業界では〝赤字クレジット〟と言うらしい。

 後で艦長に相談し、ここの整備兵から工具を借りようと思う。これで安心して何度でも出撃ができると俺は踏んでいる。犯罪とは言え、生き残るにはこれしかないんだ」


 レザールは肩の力を抜くと、腰を落とした。

 腰を落とした反動で、レザールの身体が宙に浮く。低速で上昇を続けるレザールの身体を駆け寄ってきた女性が受け止めた。


「無重力はお嫌いですか?レザール隊長様?」


 軍服と思われる衣装を身に纏った、ロココ色の髪を持つ女性。

 受け止めた際に少しはにかんだように見えた。

 その後ろには2人の軍服男性が傍に付いている。明らかに若い。


「すまない。慣れないことをして不覚を取った。あの4人に向かって投げてくれ」


 女性はえい!と可愛らしい声を上げてレザールを押した。

 ゆらゆらと迫ってくるレザールをフラウとクリスが受け止める。


「感謝する。その声を判断材料として、貴女を艦長、ドーレッタ艦長とお見受けします」

「はい。私が連合軍所属アナト級戦艦空母。学徒艦1号〝アナト〟の艦長。ドーレッタ・フォンテ大佐です。ようこそアナトへ、レザール隊長及び団員の方々」


 ドーレッタ艦長は右手を胸に置き、左手を腹部に当てた。

 その姿を見た後ろの二人は、慌てたように同じ姿勢を取った。


「着艦許可、及び入艦許可を感謝します。ドーレッタ艦長。私が傭兵団のリーダー、レザールです。機体側から見て、ハルト、レグナント、クリス、フラウです」


 レザールはこちらがよく知る敬礼。右手を頭に添える敬礼をした。

 それを習う様に遅れて4人は呼ばれた順に敬礼をしていった。


 軍服男性の内、髪が艦長と同じ男性がバインダーに何か書き記している。状況を見るに、全員の名前と容姿だろうか。


「では、契約を結びますのでこちらに」


 ドーレッタ艦長に誘導されるがまま、その後を付いて行った。





 機体格納庫から艦内へ移動する際に、壁からスプレーが吹き出してきたが、消毒用と言われたのでそう納得した。

 消毒成分とは別に、機械油を分解する成分がこのスプレーにはあるらしく、機械油で手がベトベトになっても、このスプレーを吹きかけて水で軽くゆすげばキレイに取れる。

 自転車のチェーンが外れた時の憎き油汚れとはこれでおさらばできるわけだ。もう自転車には乗れないと思うけど。


 機体格納庫から出ると、よくアニメで見る壁を移動する取っ手を発見した。

 取っ手に捕まるだけで直線移動が容易に安定するこの装置には、これから多用すると思い、操作説明をしかっりと聞く。

 艦内の廊下は片側通行で、基準としては片側にしか進行方向に進む取っ手がついていないことだ。

 左右に扉があり、上下に取っ手がある。なんとなく想像が難しいと思うが、無重力に慣れればどうということはない。住めば都という諺が浮かぶが、まだ住んでないじゃないかという脳内ツッコミで押さえ込んで無表情で後に続く。


「こちらが交渉の場、私達がいつも使っている会議室です。既に3人室内にいますが、順に紹介しますのでそれまでお待ちください。入って左側に椅子が5つ用意されています。手前をリーダーであるレザール隊長。残りの4席にそれぞれ座っていただけると光栄です。

 私は一度ブリッジへ戻り、契約書を持ってまいります。

 それではレスタ。少しの間頼みます」


 そう言い残し、ドーレッタ艦長は機敏な動きで壁を蹴り進み、あっという間に視界から消えていった。


「はっ、ではこちらへお進みください。」


 残された軍服男性のうち、艦長と髪の色が同じ方が返事をした。


「ボクはなんだか高校の面接を思い出すよ」

「俺はバイトの面接だな。在学中だからって理由で蹴られたな。学生歓迎って書いてあったのにな」


 クリスとハルトは面接と思っている。今から行こなわれるのは傭兵の雇用と考えれば面接なのかとフラウは納得する。

 面接と考えただけでフラウの背筋に冷や汗が滴り落ちる。無重力空間なのになぜ汗は下に落ちるんだろうと思いつつ、体を少しほぐす。


 レザールが先に会議室に入り、残り者もそれに次いで入っていった。




 レザールが最初に座り、隣にフラウ、レグナント、ハルト、クリスの順で座る。

 座る順についてはレザールが指示したから意味はあるのだろうが、その意味は全員イマイチ理解できていなかった。


 全員が座った瞬間、会議室全体が暗くなる。クリス以外は一斉に中腰になる。

 戦闘訓練とかそういうのを受けていないが咄嗟に体が動いたのだろう。


「すまない。シアターを作動させたんだ。先に忠告しなかった我々が悪い。すまなかった。落ち着いて席に座ってくれ」


 声で判断するに艦長と髪色が同じ軍服男子だろう。


「こちらこそ急に席を立ってしまった。謝罪しようレスタ副艦長」


 レザールは軍服男子の片方を、先の通信で聞いた声の人と即座に見破る。

 レザールが座ったのを確認して、立った3人も座る。

 後ろからプロジェクターの光が差し込み、映像を映し始めた。



 最初に映されたのはニュース映像だ。


『本日、午前2時にエジン帝国がウルガ連合に連盟するコロニーを侵略しました。帝国の侵略行為に対し、ウルガ連合は軍を派遣することを閣議決定し、1週間後に出軍、交戦は3ヶ月後になるそうです。次のニュースです』


 ここで映像が途切れ、違う映像が流れる。


『交戦開始から5ヶ月が経ち、今も帝国軍と連合軍は引き続き交戦が継続しています。

 長引く戦線に、連合軍の一部小国が正規兵とは別に義勇軍として学徒兵の派遣を決定しました。

 学徒兵について各国から賛否両論の声が出ていますが、学徒兵の出兵はほぼ確定だと情報が入っています。次のニュースです』


 ここで映像が消え、部屋全体が明るくなる。

 レスタ副艦長が手を数回回し、全員の視線を集める。


「さて、傭兵の方々、なにか質問はありますか?」


 その問いにレザールが手を挙げる。


「3点。1つ、その後、連合軍はどうなった?2つ、この艦はニュースで聞いた小国の艦か?3つ、この艦は殿(しんがり)として戦場に残っていたのか?」


 その問いにレスタ副艦長は答える。


「お答えします。最初の質問。その後の連合軍についてですが、戦略的撤退とし、前線をティスターンデブリ群まで後退しました。この位置です」


 プロジェクターが再起動し、明るい壁に映し出す。

 少し見にくいが、凝らすと見えるので文句は誰も言わなかった。


「薄くて見えにくいと思う。それについて謝罪します。

 続けます。この位置に各艦隊を再編し、再攻撃を仕掛ける。これがその後の連合軍の動きとして、返答とさせていただきます」


 レスタ副艦長は軽く頭を下げる。


「次の質問です。小国の戦艦かという質問ですが、それは違うと回答します。この艦は連合軍の総本部であるウルガで建設させた艦です。我々義勇軍は小国の民ですがこの艦は違います」


 義勇軍、のところでレスタ副艦長が顔を歪めるが、誰も指摘はしない。

 その前にレザールが声を発したからだ。


「質問の途中だがひとついいか?」

「どうぞ」

「たしかこの艦は連合軍所属アナト級戦艦空母。学徒艦1号だったな。アナト級は複数存在するのか?」


 この質問に対し、レスタ副艦長は傍に座る3人を見る。3人は少し相談したあと、首を振った。


「機密ですので全て話すことはできません。これは私の独り言ですが、アナト級は3隻存在し、輸送型1号、強襲型2号、修理艦3号が存在します。この艦は1号です」


 レスタ副艦長が言い切った瞬間、3人が批難の目で副艦長を睨む。

 そんなことも気にしないレスタ副艦長は言葉を続けた。


「最後の質問です。この艦は殿を務めたか。という質問に対し、結果的に殿を務めたと回答します。

 この艦航行速度は連合艦隊の平均航行速度を大きく下回っています。結果置いて行かれました。

 置いていかれて3日後、追い付いてきた帝国軍の高速艦と交戦、戦場に介入してきた傭兵団のおかげで我々は助かったのです」


 レスタ副艦長が言い切ると、会議室の扉が無造作に開いた。

 入ってきたのは先のドーレッタ艦長。それと腰まである赤髪に眼帯をした、背格好の良い女性だ。


「遅くなりました。少しブリッジで時間を取られました」

「へぇ。いい面構えじゃないか。イケメン揃いでお姉さんは嬉しいよ」


 ドーレッタ艦長の手には薄い紙が5枚。美人の女性は厚い本を5冊持っていた。

 フラウは重そうだなと思ったが、ここは無重力で重さが緩和される宇宙空間だと思い出す。


「どこまで話しました?」

「過去と現状だけ。機密は話していないので後は任せます」


 レスタ副艦長は空いた席に座り、正面を見る。まるで全てを見通すように。

 緊張で汗が1滴頬を伝う。レスタ副艦長はそれを見て、持っていた紙に何かを書き込んだ。


「では傭兵団の皆様は状況を理解していますね。只今この艦は帝国軍から攻撃を受け、尚も追撃の可能性は十分にあると思います。それでもよろしければ契約書にサインを」


 目の前に紙が置かれる。


「帝国軍の追撃部隊は確実に来る。俺が帝国の指揮階級にいたのならそう指示するからな。この5機のデータを取って来いと」


 レザールが紙にサインを書く。この場合のサインは名前を書くのが普通で、レザールは見慣れた漢字を書き、二重線で消して、『レザール』と書き直した


「俺達、傭兵団との雇用期間は連合艦隊へ合流まで。その後の契約更新はその時になったら、か。1日最大6食と衣類の支給。部屋はゲストルームを使用。行動規制は機体格納庫、ブリッジ、宿泊エリアを含む軍管理エリアのみ移動可能。それ以外のエリアは艦長が許可し、士官付き添いが絶対条件。会話等の規制はなし、か」


 レザールが紙の字をなぞりながら呟く。

 フラウはレザールがサインしたのを確認してサインする。また、それに次いで順にサインを書いていった。


「契約成立だ。早速だがトイレに連れて行ってもらいたい」


 レザールは勢い良く立ち上がり、またもやふわふわと宙に浮くのだった。


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