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エクステンドソルジャー (未定)  作者: お料理に便利な5点セット
5/11

005

「死にたい。自爆装置はどこだ」


 フラウは意味もなくモニターを眺め、星であろう光点を眺めていた。


『諦めろフラウ。録音してあるから無駄な抵抗は止めてさっさと交渉するぞ』


 レザールはなにも言わなかったから無事に済んだとフラウは愚痴を吐く。この恥ずかしさは思い出すだけで瞬時に絶頂してしまうほどの破壊力があることをレザールは知る由もない。


『ボクも死にたい。でもあのテンションのフラウだったら僕が被弾した瞬間にビットで回復させちゃうし、結局死ねないのかな?』


 彼女、いや彼もフラウと同じ、戦場の高揚によって生まれた被害者のひとりだ。

 女だと意識すれば女声に聞こえるハスキーボイスの持ち主。クリスも今、必死になって自爆装置を探しているだろう。

 そしてビットの件だが、瞬時回復させていただろう。支援厨は伊達ではない。


『でもよかったじゃねぇか!みんな生きていてよ!為せば成る!敵さんもそこまで強くなかったしいいじゃねぇか!』


 そしてコイツ。レグナントはリーダー的存在で全員を引っ張っていく人材だとフラウは思っていたが、現実は違った。能天気な馬鹿野郎ってことが判明した。

 ちなみにレグナントの機体には目立った外傷はない。無傷だった。敵艦隊の中央に攻め込んだのに無傷。どういうことなのかはよくわからないが、本人曰く、敵が弱かったらしい。きっと脳にチップでも入っているのだろう。



『カチッ

「両軍。直ちに戦闘を止め、軍を退け!これは一時警告である!次の警告で戦闘を停止しなければ、攻撃行動を先に起こした軍を殲滅する!」

 カチッ

BS(ビームショット)ビット4機。ES(エクスショット)ビット4機。スタンビット3機。シールドビット6機編成。AP(弾薬パック)ビット3機。WR(ウェポンリペア)ビット4機。AR(アーマーリペア)ビット4機。今俺の全武装を送った。死なないでくれ。頼むから」


 うん。ちゃんと録音できているから大丈夫だ。音質も結構良いだろう?ククク』


 フラウは即座にサブモニターを操作し、近距離迎撃用ビットを選択。選んだビットはスタン、BS、ESの3種。素早く標的をレザール機に設定し、ビットを射出する。


『無駄だよフラウ』


 レザールは小型サーベルを抜き、ビットを切り落とす。

 攻撃用ビットは耐久力が低く、また壊れやすいため、慣れれば迎撃がしやすいのが弱点で、上位のランクではビット落としが必須スキルと言われることもある。


『サーベルに被弾した。やはり触ると爆発するESビットは撃ち落とすに限る』


 フラウは無言でWRビットを操作し、レザールの小型サーベルの耐久値を回復させた。

 このマッチポンプヒーリングと言われるこの行動は、初心者でもしない初歩的なミスだ。例を挙げると、ビット操作を誤って浮遊物に当ててしまい、ぶつかった衝撃で動いた浮遊物にわざとぶつかり、自機に損傷を付け、損傷箇所をヒーリングする流れだ。




 5人中2人が自殺志願、1人はマイペース。1人はクククと笑い。最後の一人は全く声を発さない。

 このふざけたようなチームが、この戦場の勝者なのだ。


 遠くに思えた宇宙戦艦が、気付けば結構近くに寄っていたことに驚きつつも、フラウは瞬く星を眺めていた。





『交渉って言っても俺はよくわからんぞ』


 レグナントが交渉という単語に臆したように言う


『交渉といっても難しくはない。俺達は最低限の衣食住が提供されれば一息つけれる』


『とりあえず意志を示す。あとはそれからだよ』


「お前それって……」


『もうボクは振り切った。それにしてもなんでこう反応するの?こっちが恥ずかしいじゃん』


「あぁすまん。最近見直したから意外と覚えるものさ」


『どうでもいいが、全員残り時間は大丈夫か?全員それが生命線だと思えよ』


 ゲームの残り時間はまだ余裕がある。彼の手元にコインが2枚残っているから17分延長できる。それでも、たったの17分だ。


『コンタクトはどう取るの?やっぱお馴染みの接触回線?それともまた……』


 クリスが口を塞ぐ。最悪の場合、またオーブの姫様をやらねばならないとか考えているのだろう。

 フラウは心の中で絶賛した。やればいいじゃないか。自分なんて半泣き声が録音されていたんだぞ、と。


『いや、俺の予想だと向こうからなにかしらのアクションがあると信じている。こちらからは一方的に喋ることしかできないからな』


 レザールはほんと頼りになる。なんだかこのまま任せてしまえば万事解決な気もしてくるのは自分だけではないはずとフラウは呑気に伸びをする。

 陽気に妄想をしながら、フラウはレザール機の後ろに付け、引っ張られるようについていった。



 宇宙戦艦から通信が入ったのは、その間も無く後だった。


『unknown機。聞こえますか?こちらは連合軍所属アナト級戦艦空母。学徒艦1号〝アナト〟。私は艦長のドーレッタ・フォンテ大佐です。先の戦闘の逃走支援、誠に感謝致します。可能であれば、そちらの所属を、そしてこの戦闘に介入した意をお聞かせ願いませんか?』


 ヘッドホンから女性の声が聞こえ、フラウは脳内でアニメ作品の女性艦長を並べた。その中で大佐を検索する。だがヒットなし。無知であるが故の想像力のなさを実感した。


『学徒だと?そこまでこの戦争は切迫しているのか?』


 他にもレザールは、学生が左官だの、逃走支援だのと、非現実的な事をブツブツと呟いている。


『学徒ってなんなのさ?』

『この場合の学徒は主に成人の学生だ。日本でも第二次末期で出兵している』

『おいおい。マジかよ同世代だって?』


 クリスが疑問を呟き、レザールが答えた。その答えに対し、レグナントが驚愕した。

 レグナントの年齢が大まかに分かったところでレザールが更に言葉を続ける。


『最悪高校生も徴収されている可能性も無きに無い。だがそんな人間を指揮階級まで昇格させるものなのか?』

『もしかして枠が空くまで消耗したのかも、それとも量産型だったりするの?』

『佐官が量産されてたまるか。とりあえず返答はしておこう』


 レザールは咳払いをし、返答した。先程まで話していたのは結構小さな声で会話していたから相手には聞こえてないとフラウは信じている。

 聞こえていたら聞こえていたで、もうどうにもならないと思ってのことである。


『こちら、unknown機。ドーレッタ艦長へ。俺達は軍に所属していない。流れの傭兵団だ。俺はレザール。細長い武器を持った機体のパイロットで、この傭兵団のリーダーだ。

 して、この戦闘に介入した意。

 それは、俺達を雇ってもらいたい。戦闘力は十分にあると自負している。良い返答を望む』


 レザールは返答を言い終えると、深い溜息を吐いた。彼は緊張しているのか、それとも他のなにかしらあるのか、場の雰囲気を和ませるからだろうか。よくわからない。


「とりあえず頑張れリーダー。全部任せたからな」

『それにしても傭兵団か!なんだかカッコイイな!』

『傭兵ねぇ。ロボットアニメは傭兵業が盛んだからね。そこに需要を見つけるとはレザールもボクと同じ人種なのかもしれないね』


 ロボット物のゲームをやっている人の6割はそれに関連したアニメや書籍を見ているというデータを最近テレビで見たことがあった。

 だが、アニメを見ている人の3割程度しか書籍を見たりやゲームをしていないらしい。同じ番組でやっていたのをフラウはよく覚えていた。


『とりあえず手札をさっきの戦闘で見せた。それで十分通用する。これで断れば余程の馬鹿だろう』

『だろうね。ボクなら断腸の思いで了承するよ。艦内に空き部屋がないとか機体格納庫に空きがないとかならまた話は変わるけど』


 断腸の思いの使い方が若干違う気もしなくないが、フラウは日本語マイスターを自負していないので、構わずスルーした。


 ヘッドホンに掠れたノイズの音。宇宙戦艦からの通信が入る。




『副艦長のレスタ。レスタ・フォンテ少佐だ。先程の戦闘での貴殿の介入を感謝する。

 それで先の返答だが、雇う際の人数と最低限の戦闘報酬をお聞かせ願いたい。

 この艦は学徒艦がゆえ、大した報酬も用意できないが、貴殿の戦力は正直に言うと非常に魅力的であり、こちらとしてもお願いしたい。どうか返答を』


 あ、男の声だ。としかフラウは感想が出なかった。宇宙戦艦さんは結構乗り気なようで、よくもまぁ畏まったセリフが出るなと感心しながら爪を噛む。


『レスタ副艦長へ。俺達は5人。最低限の報酬としては、1日3回の食料提供。全員の個室の用意。衣類の提供を基本とし、ある程度の行動と発言の自由を要求する』


 レザールが間髪入れずに返答する。

 これについては戦闘前の宇宙漂流していた時に5人で決めたことだ。

 最低限の食事とパーソナルスペースは最初に意見が出て、少し遅れる形で衣類の話が出た。

 ハルトとは一切言葉を交わしていないが、機体のモーションで受け答えが出来ていたので意思疎通は出来ていたのだ。


『金品は必要ないというのか?』


 さっきの男の人の声。フラウは名前を覚えようと思っていなかったせいか、名前を覚えていなかったが、副艦長という役職のことは覚えていた。



『艦内で売買が行われる際に特殊な通貨が必要とあれば、多少融通をお願いしたい。

 次の通信で最後とする。返答を期待している』


 レザールはそう言い、また溜息を吐いた。


「どうしたレザール。悩みなら聞いてやるよ。解決案は出せないかもだけどな」


 一人で悩むのは良くないと思い、フラウは善意で話しかける。

 ハルトは機体をレザールに向け、レグナントとクリスも心配そうに話しかける。


『構うな。ただの尿意だ』


 善意は時に悪となる。フラウはいらぬお節介を焼いたことを謝りつつ、相手の返事を待つ。


『要求を呑みましょう。ソルジャー隊が誘導します。ようこそ、学徒艦アナトへ』


『オーレッタ艦長。良き判断に感謝する』



 どうやら交渉は終わったようだと、フラウは安堵し、噛んでギザギザになった爪を嚙み切る。

 宇宙戦艦から赤い機体が近づいてきた。

 フラウは連合軍なのに赤い機体がいるのかという馬鹿げた感想を抱きつつ、戦場の勝者達はその赤い機体に先導されて、宇宙戦艦の機体格納庫へと足を進めた。




 どうやら、今使っている通信は一度ブリッジへ経由してから各エリア、各機体へ伝わっているようだ。

 先のレスタ副艦長からの追加通信で『接触回線装置は積んでいるか?』と言われ、レザールが『無駄な装置は積んでいない』と答えていた。

 その後レザールが『指揮、いやブリッジ経由で指示を出しているのか』と言っていたので、多分そうなのだろう。

 フラウは別に考えることを放棄しているとかではなく、それ以外に考えることがあったのだ。

 宇宙空間では星ばかり見ていたフラウだったが、今は機体格納庫の中にいる。そう、自分達の機体以外の機体があるのだ。それも結構数がある。

 ぱっと見、強襲機に見えるがどこを見ても近接武器が見えない。

 腰にビームサーベルの柄のようなものがあるが、あれが近接武器だろうか。機体格納庫の壁には様々な銃が取り付けてある。

 出撃の時は壁から取って出撃するのだろうか。他にも興味からの好奇心が溢れ出てくるフラウだった。




『あ!筐体から出られるよ!』


 レバーを動かし、赤い機体に導かれるまま機体は進み、指定された位置へと移動した。

 指定された位置へ進むと上からアームが伸びてきて、ガシッと機体を掴む。


 傭兵団の機体の収容位置は、傭兵だからか出撃カタパルトから近い位置だ。

 順はレグナント、レザール、ハルト、クリス、フラウだ。

 この順は先に格納庫に入った順で、特に意味はなく、これからも変わることはないだろう。


 ふと前の機体、クリス機を見ていると、不意に腰の背部が動いた。

 下から上にシャッターを上げる動作。もう外に出られるのだろう。クリスと思われる人がこっちに手を振っている。

 あの顔立ちは、日本人じゃない。いや別に日本人じゃなきゃダメとかじゃないけど日本語が流暢だから日本人だとフラウは思っていた。

 度肝を抜かされるとはこういう事を言うのかと、地味に実感していた。


 不意の事態に弱いフラウだったが、ここは積極性を出さないと感じ、オーバーブーストを発動させる。

 メインモニターを見ると機体から薄黒い粒子が発生しているのが分かる。フラウの機体から黒い粒子が発生しているため、ちょっと恰好良く見えるだろう。


 メインモニターにはクリスが両手を振って喜んでいる。このリアクションにフラウも喜ぶ。自分の積極性は報われたのかと喜び、フラウも筐体から脱出した。




 脱出したフラウは無重力に襲われた。

 コックピット、筐体内はなぜか重力が発生しているとレザールが言っていたが、フラウはすっかり忘れていた。

 地から足が離れ、感じたことがない感覚にフラウは戸惑う。

 脳がパニックになる前に、防衛本能をフル作動させる。

 彼の脳が導き出した答えは、バッグを上着の中にいれ、膝を抱えることだった。






 機体格納庫と慣れない無重力空間を良い事に、彼は縦横無尽に空間を漂っていた。

 慣性を利用とか、壁を蹴って進むとかアニメでよく見るが、最初のひと蹴りを失敗すれば誰かに止めてもらわないと上手く止まらない。

 フラウは整備員と思われる人達に好奇な目で見られながら漂っていたが、既にこの無重力空間をモノにしたクリスに支えられ、なんとか機体傍に行くことができた。



「フラウ?でいいんだよね?ボクはクリス。よろしくね」

「こんな格好ですまないが、フラウだ。よろしく」

「いきなり機体が透明になったときは驚いちゃったよ」

「支援機のオーバーブーストは不可視化だからな。そうだったか」


 衣類のボールと化した彼を運ぶフラウ。いい年した中年を青年が運ぶ図は滅多に見られないだろう。

 ふと周りを見ると、高学歴っぽい人がスマホをフラウに向けてはにかんでいた。

 アレは間違いなくレザールだ。そしてあのスマホはいずれ、破壊しなければならないとフラウは誓う。


「ふっ。5人集まったか。お互いの自己紹介は簡潔にしよう。俺はレザール。ロングスナイパーだ。よろしく」


 高学歴スマホ野郎。服装はリクルートスーツ一式で、会社帰りにこの世界に巻き込まれたとフラウは推測する。


「んじゃ次は俺だな。俺はレグナント。スピードアタッカー?だったかな?よろしく!」


 レグナントもリクルートスーツ。社会人らしく正しい服装で爽やかスマイルだ。


「あー。俺はハルト。パワーガンナーだ。レザールとフラウの指揮、采配は正直助かってる。そんで、まぁ、よろしくな」


 ハルトはジャージにジーパン、髪は白に染めていてちょいヤンキーだ。

 彼はマイク付きヘッドホンを持っていなかったらしく、それで会話には参加できなかったらしい。


「ボクはクリス。ファイトスナイパーだよ。よろしくね!」


 クリスは学生服を身にまとっていた。発音に苦はない外人、フランス系だとフラウは推測する。

 だとしたらなんだという話になるが、唯の直感である。今後スマホ破壊作戦を持ちかけるために仲良くなろうと心に誓った。


 して、フラウに視線が集まる。彼は自分の役職を記憶の中から探し出す。そして、見つけた。


「俺はフラウ。サポートビッターだ。よろしく」


 戦場の味方機をビットでサポートする。それがフラウの役目だった。






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