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戦場:スペースエリア501 10vs10 Battle count 08:30 Start count 00:10
そこは人類が宇宙へと進出した際に切り離したロケットブースターや、隕石などの衝突で使用不可能になった衛星探知機や人工衛星が流れ着いた宇宙のゴミ捨て場。スペースデブリと呼称する戦場。
この戦場ではいかに早く戦線を拡大し、敵種を判別するか。敵に見つからず、敵を撃破するか。そして、操縦ミスをせずに宇宙ゴミに衝突しないかが勝利のポイントとなっている。
勝利条件は一定時間以内に敵機を全滅させること、敵基地の耐久ゲージを0にすること、タイムアップまでに敵機をどちらがより多く倒し、コストを奪うかである。もちろん敵機全滅と基地破壊は相手より早く、が前提となる。
1戦場はイベントを除いて8分30秒と設定されており、それ以上の戦闘継続は両軍全員の追加コインによって延長される仕組みになっている。
敵機全滅とはいえ敵機及びチームからの誤射で機体の装甲が0になり、機体が撃破されても20秒のクールタームが終わったら再出撃が可能となるため、そう簡単に両軍全滅とはいかない。
大体が基地の破壊、それかタイムアップのリザルト判定で勝負は決まる。
機体にはコストが設定されていて、高スペックな素体、強い武器や装甲になそれなりの出撃コストが掛かっていて、撃破された際はその出撃コスト分が撃破コストとして相手のチームに加算される。
出撃する機体についてだが、大まかに分けて4機種存在する。
高い機動性で敵機に近寄り、高威力な近接格闘及び近接射撃を相手に叩き込む強襲機。
高い火力の中遠距離武装を複数持ち、圧倒的火力で敵を殲滅する重撃機。
超遠距離からの精密射撃でクリティカルヒットを常に狙う狙撃機。
仲間の装甲値や弾薬を回復したり、敵機の索敵をしたりと、特殊武装を数多く持つ支援機。
この4機種で戦場を駆け巡ることとなる。
と、言っても有料公式サイト登録でメイン武装等を編集、追加課金で強力な装甲や武器を購入し、クリティカル狙いで狙撃機なのに近接戦闘に駆ける変態猛者も少なくはない。
銃撃戦しているのにいきなりサーベルを振ってくるなんてよくあるとこである。
戦場:スペースエリア501 Battle count 08:30 Start count 00:00
戦闘開始
戦闘開始の文字が表示され、俺は操縦桿を今一度握り直した。
この戦場は5人チームを4つ集め、2組に振り分け10人対10人の戦闘が始まる。
チーム5人+味方援軍5人+敵10人のオンラインマッチングだ。
機器に取り付けてあるヘッドホンを外し、自前のマイク付きヘッドホンを装着すれば、チームメンバーと会話出来たりする。
360度全方位メインモニターには残り時間と自機の耐久、武装の残り弾数が表示されていて、手元のサブモニターには簡易マップと特殊武装切り替えが表示されている。
サブモニターはタッチパネルになっていて、マップを縮小、拡大。特殊武装の使用などで使用する。
狭いコックピットの中、正面メインモニターとサブモニターの間を視線が彷徨う。
メインモニターを覗いた時にふと高速で離れていく機体が見えた。
『よっしゃ!先行して敵部隊を叩いてくるぞ!』
メインモニターの左上の位置にはチームメイトの5機のアイコンマーク。
その中で強襲機を意味するブレードマークの横にマイクマークが発生し、その機体から通信が入ったことを知らせる。
ここでチームの簡単な紹介を挟もう。
チームメイトのレグナント。装甲を削り、スラスターとブースターを過剰搭載した超高速型の強襲機乗りだ。
その他に装甲と火力を追求した重撃機乗りのハルト。
超遠距離狙撃型スナイパーライフルでひたすら撃つ標準型狙撃機のレザール。
クリティカル狙いで近距離戦用ツインハンドガンを乱射するクリス
そして俺。支援機専用装備、ビットをこよなく愛する変態支援機マイスター、フラウだ。
フラウは出撃と同時に近場のデブリ帯に近寄り、散らばるゴミをかき集めて身を隠した。
後衛機の必須アクションのセーフティーエリア作成で、ゴミ団子の完成である。
自作したセーフティーエリアの中で仲間の通信を待つ。もし支援機が不要に出歩き、敵の先行強襲機と対峙した場合、高確率で支援機は撃破される。
序盤の探り合いで最初の死が自軍の場合、多少ボルテージが下がるのはどの戦場でも同じ事と言えよう。
残りの低確率はだって?宇宙空間を縦横無尽に駆け回るスペースデブリに当たってくれる極僅かな可能性さ。
『こちらレグナント。敵基地及び敵編成を確認したぞ』
通信が入った。この通信はチーム共有であり、もうひとつのチームには発信されていない。共有されているのはマップに映った敵機の位置だけである。
ちなみにマップには、自機は白。チームは青。援軍は緑。敵はまとめて赤く表示される。ちなみに撃破され、その後の20秒のクールタイム中だけ、撃破された位置で薄く灰色のアイコンを残す。
マップの敵情報は、チーム又は援軍の視認確認から5秒間。被弾から3秒間表示される為、後衛陣は常に流れ弾に気を張っていなければいけない。
ちなみに誤射でも敵のマップに表示されてしまう為、遠距離攻撃持ちは開幕数秒、攻撃ボタンから指を離す人が多いのは豆知識だと俺は思っている。
「了解。続けてどうぞ」
『敵の編成は強襲、強襲、重撃、狙撃、支援のノーマル仕様だな』
「どうみる?」
『強襲の後ろに列を連ねているから…速攻型だと思うぞ』
「了解。攻撃用ビットを飛ばすから到着し次第、姿を見せて後退。狙撃の射程圏内へ誘い込んで」
『おう』
『了解した。引き続き頼む』
『ボクにもビット飛ばして。シールドの奴』
クールに返したのは標準狙撃型のレザール。一人称がボクなのがクリスだ。
フラウは手元のサブモニターを操作し、レグナントには近接援護射撃用にショートビームライフル兵器BSビットと何かに当たるとその場で爆発する実弾兵器ESビットを、クリスには敵の射撃攻撃をある程度無効化するシールドビットを飛ばす。
無言のハルトには弾薬補給をスムーズにする為、予め弾薬回復用APビットを飛ばし、もう狙撃体制に入っているであろうレザールには、奇襲避けに索敵用サーチビットを一定距離に配置し、敵機が通る穴を作らないように配置する。
「とりあえずこれで準備完了。残ったビットは後回していいかな」
フラウは一呼吸置き、サブモニターを操作する。メインモニターの一部にBSビット視点のカメラを出現させ、BSビットの攻撃ボタンに指を置いた。
攻撃用ビットは敵機を見つけたら自動で近づいて攻撃行動をするオートビットシステムと、操縦者がサブモニターを用いて移動、攻撃行動を指示するマニュアルビットシステムがある。
なぜこのようなシステムが分けてあるかというと、支援機も支援用低火力ライフルを持って近中距離戦闘をする場合があるからだ。マニュアル操作だとビット操作か機体操作かで集中力が乱れてしてしまい戦闘にすらならないからだ。
ゲーム機のレバーの仕様上、右腕にライフルが装備されている場合は右手がレバー、左手はサブモニターになり、左腕にライフルが装備されている場合は先程の逆である。
これでは支援機が操作性からして不遇だとユーザーが訴え、これが導入された。これはサービス開始から3日目のことであり、修正を受けた2日ほどは、戦場で支援機が飛び回る異例の事態が発生したくらいだ。
ちなみにフラウはほぼ全てのビット操作をマニュアルで操作している。
前線に出ない支援機ユーザーの多くがマニュアル操作を採用していているからだ。
前線に出ないのはどうなのかと批判する声があったが、マニュアル操作を用いた実況プレイがネットにアップされその声は日に日に落ち着いていった。
その動画は強襲機1機と支援機4機の動画で、強襲機に複数のビットを纏わせ、敵軍を無双するという内容であったが、支援機の様々なビットがその強襲機をサポートしていたのは誰が見てもわかる内容だった。
敵機に囲まれた際には脅威度の高い敵機を様々なビットで牽制し、敵の攻撃をシールドビットで防ぐという徹底ぶり、敵の強襲機を撃破したこちらの強襲機は一直線で敵基地へ、到着した瞬間、全ビット攻撃と強襲機の大型ブレイド乱舞で敵基地を破壊するといった見ごたえがありそうで特になかった動画であったが、敵機が来ない位置でビット操作に集中できるという有用性から、この前線に出ない支援機が避難されることは少なくなった。
今になっては支援機4機はいらないなどと、当たり前のようなことを言う人もいるが、アップデートで性能がちょこちょこ変わるゲームにそのようなことをいうのは野暮だろう。
なんだって当時は強襲5機で大型ブレイドを片手にブンブン振り回す脳筋スタイルが主流だったからだ。いまじゃ考えられない話だとよく思い返すプレイヤーも少なくないはずだ。
『ビットきたぞ。後退する!』
さて、集中しなきゃとフラウは頬を2度掻いた。
「いけっ!そこっ!レグナント!」
『ナイスアシスト!もらったァ!』
『ボクの前に出るからだよ!アハハハ!』
『3...2…1…よし。6キル』
「クリス。そろそろビールドビットの耐久がなくなる」
『了解!後退しつつ隣のチームの援護に行ってくる』
『キルは取るなよ。俺が取るからな』
『レザールはキル取り過ぎ。ちょっとは分けてよ』
『ならお前もスナイプしろ』
『動かないとやってられないのさ』
『なら我慢しろ』
戦況は終盤に移行し、問答無用の総力戦になっていた。
レグナント機が縦横無尽に敵エリアを飛び回り、敵狙撃機を発見し、何事もない様に別方向へ移動する。
見つけられたことも知らない敵狙撃機はレグナント機に照準を合わせ続ける。
敵狙撃機は引き金を引く刹那、発射と同時に爆散した。
『ナイスレグナント。次を探してくれ』
『おうよ』
敵狙撃機が放った弾丸は狙撃を待ち構えていたレグナント機の左腕シールドの耐久値を削るだけの結果に終わり、レグナントは敵後衛を駆逐する作業に戻った。
そこで通信が入る。
『フラウ。盾が壊れそうだ。可能な限りのWRビットくれ』
「はいよ」
WRビット。その名の通り武器、武装を修復するビットだ。
武器の耐久値が0。つまり完全破壊されていなければある程度修復されるが、完全には回復できない。
回復値や火力値の少なさ、CTの長さ、それはビット共通に言えることだ。
それらを解消する為に武器修復専用武器にWRトーチが存在する。
WRビット1機の最大回復量20%に対し、WRトーチ1マガジンの回復量は80%。
CTは圧倒的にトーチが早い。だがトーチは修復する対象に直接当てなければいけない。それに比べてビットは対象に衝突するだけでいい。
実体があるビットが対象に当たると破損するのでは?と思うが、これはゲームなので深く考えてはいけない。
『シールドビットまだー?』
「もうちょいでCTが終わる。ラス1分で飛ばすからブーストかけて暴れてこい」
『キルは俺が貰うからな』
『ブースト中はさすがに渡さないよ!』
『ふっ。言ってろ』
残り時間は90秒。そろそろほぼ全機体がオーバーブーストを発動させる。
オーバーブーストは左右のレバーの攻撃ボタンと両方のフットペダルを同時押しで発動することができる。
オーバーブーストが発動すると、機体が薄く発光し、機動力と武器、武装の威力が上昇し、さらに機種特有の特殊能力が発動する。
発光のカラーリングは公式サイトで月額課金をすると変更することができ、基本色の白に加え、赤、黄、緑、青、紫、黒に変更可能だ。
白以外は相手によりけり近づくな、これは初心者が最初に学ぶことで、仲間なら歓迎されることとなるだろう。
GAME SET
WIN!
試合終了の文字が流れ、モニターには敵基地が爆発する様子が流れていた。どうやら終わったようだ。しかも勝った。やったぜとフラウは微笑む。
残り時間は60秒を下回っていた記憶がないフラウは味方援軍チームが敵拠点を破壊したと予測する。
フラウのチームメンバーも中盤に結構相手基地の耐久を削っていたと思う。その事を考えると十分破壊は可能だとフラウは結論付けた。
それに最終拠点攻撃時は奇声を上げながら攻撃する人が1名いるので、その奇声が聞こえなかったということは、つまりそういうことなのだろう。
「総合リザルトは…評価Bか…まぁキル0だししょうがないか」
戦闘終了後には自機の行動を評価し、それを数値化され、評価を最高評価SからA、B、C、Dの評価をもらう。
評価基準は敵機及び自機撃墜数、敵機及び敵基地に対して与ダメージ、キルアシスト、索敵、修復など多数あり、その評価で武器、武装に経験値を割り振り、機体を成長させていく。
フラウの使用する支援機のメイン武装は大半成長が終わっているので、経験値をそのままプールさせておく。
そのうちアップデートが来て、新しい支援機の武器武装に、その貯まった経験値を流し込むつもりでいる。
戦闘が終わり、フラウは自前のヘッドホンのコードを筐体から引っこ抜き、備え付けのヘッドホンをコード刺す。
別れ際にゲームデータが保存されているICチップ入りカードを抜き取り、上着のポッケに入れる。
そしてレバーを備え付けの殺菌おしぼりで軽く拭く。これで最低限の退出準備は完了した。
「たまにはキル取りたいな。でも低火力ビットじゃ無理かな?フリーマッチングでハイエナでもして…いやそれは俺のエゴか」
支援機でキルを狙うなんて…ビットじゃなく前線用装備ならチャンスはあるが慣れないことはしたくない。
そもそもフラウは前線の忙しなさが自分に合わないと思ってビット選んだ。要はめんどくさがりなのだ。
防音対策で三重になっているシャッターを開けコックピットから、出れない。
「埃が突っかかったか?」
フラウは冷や汗をかきつつも、そんな馬鹿なと思いつつ、シャッターを揺さぶる。が、開かない。
「2枚まで開いたのに…しょうがない。連コするか。平日の午後だし人少ないだろ」
2枚のシャッターを締め、ヘッドホンを再装着。コイン投入口に100円玉を1枚流し込み、ICカードを差し込み読み取らせ、レバーを操作する。
スタート画面が明け、ファーストコマンド画面へ。フリーマッチング、ランクマッチング、機体カスタマイズの3つから機体カスタマイズを選択。少し武装をいじってから、先程と同じフリーマッチングを選択した。
フリーマッチングはそのまま自由対戦。初心者から変態まで仲良くごちゃまぜにマッチングする。
ランクマッチングは別名『階級戦』。世界の軍階級を基準に民間人から大将まで存在し、勝利してランクポイントを上げ、敗北すればランクポイントが没収される。同ランクでマッチングするため、安定した対戦が楽しめる。
機体カスタマイズはそのままの意味で、これから出撃する機体の武器、武装、基本フレームやその他拡張チップなどを設定できる。
ちなみに制限時間は2分で、時間切れになると強制的にフリーマッチングに参加させられる。
フリーマッチングのマッチング時間は3分間と決まっており、その長さには理由がある。
このゲームにはフレンド検索システムがあり、同じ時間帯にマッチングしているフレンドがいたらお互いのサブモニターにマッチングアイコンとYes/Noが現れ、Yesを押すと確定でチームを組むことができる。
そのフレンド検索時間が3分間と設定されている。
突如、サブモニターにピコンピコンとアイコンが現れ、差出人のところに『レグナント』と表示されている。迷わずYesを押し、チーム確定画面へ移る。
「うぉ…さっきと同じ面子か。また勝てるかな」
レグナントが先戦のメンバーをかき集めたようだ。こういう積極性はレグナントのいいところだ。
フラウには仲間をかき集めるような真似はできないし、支援機がかき集めたとなるとその後の居心地が悪い。支援機は積極的に前衛に出ないため、火力的支援は難しい。つまり戦場での頭数を1機減らしているようなものなのだ。
メインモニターには機体の格納庫が映っている。戦場が確定すると、その戦場のおおまかな風景が流れ、自軍基地へと画面が変わる。まだ格納庫だが、戦場までもう少しというところだろう。
『あー。誰か聞こえているか?誰か返事してくれ』
レグナントからの通信が入る。この時間は作戦会議に当てられることが多く、今回もそうだとフラウは思っていた。
「どうした?」
『機種を間違えたか?まぁ俺がキルを取る。索敵はフラウに任せて前線回避運動でもしてくれれば問題ない』
『だったら僕がシールドビットとBSビットとESビットのフルビットで暴れてくるよ!』
皆、思い思いの事を言う。機種選択ミスは操作上ありえないとは言えないが、手が滑るのはしょうがない。が、少し違うようだ。
『いやそうじゃない。機体も強襲で間違えていない。ただ…コックピット、筐体から出られないんだ。どうすればいいと思う?』
耳を傾けた刹那、どこからか静電気とは言い難い電流が体を貫き、訳も分からないままフラウは意識を失った。