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あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む

作者: 夏月つくね

百人一首より着想を得ました。これからもいくつか出していく予定です。これを機に百人一首にも興味を持っていただけたら幸いです。



 君が眠りについて、早いもので六か月が過ぎました。この部屋から見える木々も、きれいに色づいてきています。



「こんにちは。だいぶ風も涼しくなってきたよ」

 花瓶の中の水を取り換え、傷んだ花を取り除く。すぐにやることがなくなってしまい、傍らの椅子に座る。彼は目を閉じたまま、静かに眠っている。本当に生きているのか心配になるほど静かな呼吸だ。

 小さく開けられた窓から、夏の残り香を乗せた風が入ってきて、彼の前髪が目の上にかかった。指を伸ばしてそれを整える。

 あの日から彼はどんな事をしても目を覚まさない。激しく揺すっても、優しく触れても、抓っても。ただ、静かに呼吸をしているだけだ。

 脳死状態でも植物状態でもない。いつか目を覚ますはずだと言われた。その〝いつか〟はいつなのか。明日なのか、一年後なのか、それとも数十年後なのか

 点滴に繋がれ、必要最低限の栄養しか供給されない身体は、どんどん痩せていった。かつてのたくましかった身体の名残はどこにもない。

「今日は台風一過でとってもいい天気だよ。散歩日和だ。ちょっと風が強いけどね」

 この声が聞こえているのかわからない。聞こえていることを願って私は話し続ける。

「明日ね、待ちに待った文化祭だよ。今年は四日間ぶっ通しで出店するんだって。やっぱり高校と規模が違うなって、毎年思う。中身が、って言うより活気が全然違うよね。小説も、一人あたりのノルマがあってさ、また話が長くなりすぎて削るのに苦労したよ」

 あの日話していた文化祭がもう明日に迫っている。あのときはまだまだ先のことだと思っていたのに。いつの間にか。

「もう半年経つんだよね」

 君が眠り始めて、すべての動きが止まった感じが今も続く。前に進んでいるはずなのに。ふと目が覚めれば夢でした。なんてモノ見たんだろうねって笑いあう。そんな夢を一体何回見たことだろう。

 いつも一緒にいられたのに、今は限られた時間しか会えない。夜になると離れてしまうという山鳥のように。昼間しか会いに来れない。

 山鳥の、長く長く垂れ下がった尾のように、こんなにも長く、長い夜をひとりで過ごさなければいけないなんて。




「早く起きてよ。伝えたいこと、たくさんあるんだから」


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