ソレデモタチムカウ
確かこんな場面を劇場のスクリーンで見たことがあった。
燃え盛るビル内で取り残された人達の恐怖を描いたものだった。阿鼻叫喚の地獄絵図とはこういうことを言うんだろうか。
【インフェルノ】そう呼ぶにふさわしい獄炎の爆発。
全てが炎に包まれ焼かれ骨になり、その骨すらも燃え尽き灰燼に帰す。
ついさっきまで、憎まれ口を叩きつつ高い声でメイドと漫才をしていた少女も、その少女に軽快なツッコミを入れていたメイドも。
帰宅していつものように牛乳を飲むコトの笑顔も、細い目で時々コチラの様子を窺いながら耳をピクピクサせていた狂狐も。
いつも俺の両肩に乗っていた二匹のプチも。
目の前で焼かれていく…この世界で知り合った者達が…俺の大切な世界を横目に、俺は涼しい顔でこう言い放った。
「お前の魔法は偽物だ。」
俺はお前みたいな攻撃をする奴らを知ってるんだよ。
「カハァッ、お前は普段なんて云われてるんだ?」
朱色の液体を吐き出し、ゆっくりと立ち上がり一歩、又一歩、歩を進める。
「それなりのパーティーや英雄には字名がつくんだろう??」
「お前は何だ?灼眼?爆炎?それともモザイク女子か?」
「………。」
「俺はこの痛みを知っている。」
「…何を言っ…。」
「ほら、うってみろよ…炎でも氷でも。」
俺はまるで女神のように両手を広げて、モザイクの女につばを吐く。
「面白いっ、面白いねお前っっ!!ならば焼き尽くされなさい!!」
潰れた様にふさがり気味の瞼の下から涙をボロボロとこぼし、鼻からは汁だか血液だかわからぬものを垂らしながら
俺は放たれた魔法という幻想を受け止める。
「なぁ…お前、何ビビってんだ?」
「…どうした…かかって…こいよ。」
俺はもっと辛いことを知っている。
俺はもっと痛いことを知っている
俺はもっと怖いことを知っている。
お前は知らないだろ?悲しいということを辛いということを。
震えていても、怯えていても、なぁ…。
いくつかの思い出といくつかの懐かしい顔が脳内を揺り動かす。
いつしか自分の物語の主役からも外されて、わけのわからない所で犬死にせよと命令された過去の俺が叫んでる。
「おまえ…の魔法な…んってどうってことねぇぞ?」
溶けた口唇が喉を伝う。
「死ぬってぇのはぁあああっ!かんたんじゃねぇっぇぇんだよっっ!!!!」
「お前は死のうと思ったことがあるか!?」
「お前は震えるほど強大な敵に立ち向かったことがあるか!?」
「お前は目の前で大切な人をなくしたことがあるか!?」
「助けてと何度も心で叫んでも、届かない。そんな思いを毎日感じながら生きたことはあるか?」
「俺の友達はネットで知り合ったヤツだと告げた時、親友だと思ってた奴に鼻で笑われたことはあるか!?」
「お前なんかよりもっともっと同じ死線をくぐり抜けてきたっ!自分で言っててもおかしいと思えるようなっそんな仲間を親友と呼んではいけないのか!?」
「おいっ!教えろよ!?てめぇらはなんでそんなに偉そうに俺を見下ろしてるんだ!!!!!!????」
たかが…亡霊のくせに。




