タチムカウ
絶望的だった。もう一度あの女が息を吹きかければ俺達は終わるんだと、そう簡単に思えた。
もはや立ち上がるのは狂狐のみ。
ティファは大きく投げ出され意識を失ってるのかピクリとも動かない。
残りの二人も必死に体勢を立て直そうとするが、足に力が入らない。
俺は弱い、それはわかっている。
違う世界に来ても俺は強くなったりはしなかった。
だが、この世界ででも譲れないものはある。
それがなければ、今日まで生きてはいない。
元の世界でもこの世界でも、どんな惨めな生活を送っていようが、どれほど他者から蔑まれようと譲れないものがあるから人は生きていける。
もしもそれすら投げ出したならそれはもう、俺が俺でいる意味はなくなる。
エキストラにも役名はあるんだと元の世界で知った。
本当のその他大勢は、自分であることを放棄した人間だと、そう気づくことが出来た。
だから立ち上がる。
あの時と同じように、立ち向かう。
特に何も考えてもいない。そうしようと思ったから、誰かにそうしなきゃいけないと教えこまれたわけでもない。
別に俺がコトやここにいるみんなを救えるなんて思っちゃいない。
大体そんな大それた力を譲り受けた記憶が無い。
だけど、これだけは譲れない。
俺は俺をやめるつもりはまだない。
そう睨みつけた瞬間、俺は斜めに弾き飛ばされた。
「ガッッ!?」
思わず肺から声が漏れる。口の中から鉄臭い匂いがする赤いものを垂れ流す。
立ち上がろうとした、脚がガクガクと震えた。
一発だ。ただの一発、それもさっきの爆炎とは比べ物にならない程度の手加減されたであろう一撃で。
現実はこんなもんだ。知っているからなんとも思いはしない。
こんな時一番痛いのは身体や傷口ではなく、たったの一撃で縮こまっちまう自分の心。
「…寝てればいいのに。」
呆れたような艶のある声が俺の脳にはこう響く。
【本当はお前なんて一撃でひねりつぶせるのよ】と。
ニヘラと笑ってみせる。
だから俺は立ち向かうんだよ。言葉にはしない、する必要がない。
少し呆れた風に女は問いかける。
「時間稼ぎのつもりかしら?…ならその意味をなくさせてもらうわ。」
女の指先から炎の雫が一滴落ちる。
「さようなら。聖獣さん御一行。」
貴重な時間を私の拙い小説にさいて頂いて有り難うございます。
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